テラーノベルの小説コンテスト第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

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特等席を君に。

第32話 - 第32話:過去編

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2025年03月11日

#Mrs. GREEN APPLE

#ミセス

#BL

#大森元貴

#藤澤涼架

#もりょき

いろは

黒田春——シュンとは1年生の前期に取った共通教育の選択授業でたまたま隣の席に座ったことから仲良くなった。

「何学部？」

低くて静かだがよく通る声の持ち主だな、と思った。耳に心地いい。

「教育学部。小学校の先生になりたいんだ。黒田君は？」

「クロでいいよ。俺は理学部の物理学科」

うわー、物理。高校の時苦手だったなぁと思い出す。

「小学校の先生になりたいってことは、ピアノできるの？」

そう聞かれて、一応ね、と頷く。

「小さいころから習わせてもらってたから、一通りは」

へぇ、と彼は感心したように頷いた。

「弾くのは好き？」

初対面で面白いこと聞いてくるなぁ、とは思ったが、まぁ好きだよ、そうじゃなきゃ続けてないしね、と返すとふぅん、と言って何か考えているらしく黙り込む。少し経ってから、彼は口を開いた。

「藤澤君てもうサークルとか決めた？」

「いや、新歓はちょこちょこ行ってみてるけどまだ」

「よければさぁ、一緒にバンドやらない？キーボードできる人を探してるんだ」

これが俺たちの出会い。そして一緒にバンドを組むことになるきっかけだった。

シュンは今まで俺の周りにはいなかったタイプで、一緒にいると新鮮で、楽しくて仕方なかった。学部も違うのにあっという間に仲良くなった俺たちは、講義のない時間は常に一緒にいるんじゃないかというほどべったりだった。というか、俺が何かと彼にくっついて回っていたというのが正しい。シュンは物知りで、いろんなことを教えてくれたので、それが楽しかったのだ。彼と過ごしていればいろんなことを新しく知れた。世界が広がった。自分が今まで何気なく見てきたものたちに意味がつけられて、世界の色彩が鮮やかになるような、そんな感覚があった。

周りに言わせれば、「真逆」なタイプの俺たちが意気投合している様子は意外だったようだ。確かにシュンはしっかり者で記憶力もよく頭もいい。対する俺はなにかとおっちょこちょいだし、大事なこともすぐ忘れてしまう。

「髪色も、僕は金髪だし、クロは黒だもんね」

だじゃれみたいに言うなよ、と彼は笑った。それから考えこむように机に肘をついて俺を見つめる。彼の切れ長で整った瞳が俺を真っ直ぐに捉え、なんだかどぎまぎしてしまう。

「なに？僕の顔になんかついてる？」

「ううん……さっきの話さ、ほかにもいろいろあるよな。俺ってよく見た目で怖がられて人から距離置かれがちだけど、涼ちゃんは雰囲気からして優しいから自然と人が集まってくるだろ。涼ちゃんは男女問わず友達になれるけど、俺は態度もいまいちだし全然。大学入ってからできた友達ってマジで涼ちゃんと、ミズノとみっちーくらいだもん」

バンドメンバー入れるのはありなの？と揶揄うと、ありにしてよ、俺友達いなくなっちゃうじゃん、と拗ねたようにそっぽを向く。確かに彼はあまり笑ったりしないし、近づきにくい印象もあるのかもしれないが、違うだろうな、と思う。皆、彼がかっこいいから遠慮してしまうのだ。クールな印象を抱かせる切れ長の瞳に、すっと通った鼻筋。形のいい唇。少し細くて薄めの眉は彼の中性的な顔立ちをより引き立たせている。身長も俺と同じくらいかそれよりもあって、スタイルもいい。同学部の女子に「黒田君と友達だなんていいなぁ」と羨ましがられるのも納得だ。

「……さっきさ、教育学部の女の子に、クロのこと紹介してほしいって頼まれたんだけど」

結構可愛らしい子だったよ、と付け加えるも、彼の表情は曇った。

「そういうの嫌って言っただろ」

「……ごめん」

「俺は涼ちゃんがいればいいよ」

今は恋人など必要なく、友人と過ごす時間が楽しいという意味なのは分かっていても、その意味以上に俺は嬉しくなってしまう。彼がこうして女子に興味を持たず、そういう話題に不機嫌になるのを見て安心するために、わざわざ仲介を頼まれたことを伝えてしまうくらいで、そんな俺はきっとちょっぴり性格が悪い。

「僕もっ！僕もクロと過ごすのが一番好き」

そう言って笑いかけると彼もうれしそうに笑い返してくれる。俺はあっという間にこの黒田春という人間に惹かれてしまっていた。それは人としてだけでなく、恋愛対象としても。もちろん俺は周りに自分がゲイだということは隠していたし、そのことに関しても、彼に対する淡い恋心も、誰にも話すつもりは到底なかった。一部の女子から「氷の王子様」なんて二つ名がつけられちゃうくらい不器用なこの男の、いちばんそばでその気の抜けた笑顔を見られる特権を手放したくなかった。

※※※

「過去編」は涼ちゃん視点になります！

いままでの私の作品にはなかった一人称「俺」の涼ちゃん。今回の作品イメージにあわせて、他者に対しては「僕」を、内面的には「俺」としています。書き間違えそうでひやひやしながら執筆しております……間違いを見つけたらそっと教えてください(笑)