テラーノベル
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ご飯のあと、僕たちは裏庭へと向かった。裏庭、と言っても、孤児院の敷地ががまるごと入ってしまいそうなくらい広い。
そこに、涼架さんがレジャーシートという鮮やかな色の敷物を広げた。
「ほら、もとき君も座って!ここはね、風が通り抜けて一番気持ちいい場所なんだよ」
涼架さんに促されて、おずおずとシートの上に足を乗せる。地面の硬さが直接伝わってこない、不思議な感覚。見上げれば、大きな空が広がっていて、太陽の光が僕の全身を包み込む。これが、ヒナタボッコ……。
「今日は日向ぼっこ日和だねぇ。あったか~い」
あったかい……思わず独り言が漏れた。
絵本で、アイは温かいものだって書いてあった。
今のこの、ポカポカして、体がふわっと軽くなるような感覚がアイに近いものなんだとしたら。
僕は今、それをもらっているのかもしれない。
「だろ?今の時期が最高なんだよ」
隣に、滉斗さんがどかっと座った。
おやつ持ってくるね!と、涼架さんは、またどこかへ走っていってしまった。
広いお庭に、僕と、滉斗さんの二人きり。
風が木々を揺らす音と、遠くで鳥が鳴く声しか聞こえない。
「元貴。……おまえ、昔のこと、なにか覚えてるか」
滉斗さんが、空を見上げたまま、ぽつりと呟いた。
むかし……特には……。孤児院の景色だけは覚えてるけど。
あ、でも、誰かが僕の頭を撫でてくれた、滉斗さんみたいに。
「……っ」
自分でも聞こえないくらい小さい声で僕が持ってる微かな記憶を呟く。隣で、滉斗さんの肩がぴくりと跳ねた気がした。ゆっくりと、滉斗さんが僕の方を向く。その瞳は、太陽の光のせいか、それとも別の理由か、少しだけ潤んでいるように見えた。
「……そうか。撫でてくれたのか。そいつはきっと、おまえのことが大好きだったんだな」
だいすき……僕のことを、大好きだと思ってくれる人が、僕にもいたのかな。だとしたら、どうして僕は一人だったんだろう。
そんな疑問は、滉斗さんの横顔が、あまりに優しくて、悲しそうだったから、口に出せなかった。
「なぁ、元貴。……これからは、俺がいくらでも撫でてやる。おまえが、もういいって言うまで、ずっとだ」
そう言って、滉斗さんの大きな手が、僕の頭に乗った。昨日の夜よりも、さっき手を繋いだときよりも、ずっと、ずっと優しくて。
僕は、初めて自分から滉斗さんの服の裾をぎゅっと握った。少しだけ、勇気を出して。ありがとうございます、の代わりに。
滉斗さんは、何も言わずに、僕が握った手を自分の大きな手で上からそっと包み込んでくれた。
空はどこまでも青くて。太陽はどこまでも温かくて。
アイがなんなのか、まだちゃんとは分からないけれど。今日という日が、明日も、その次も、ずっと続いてほしい。そう願う僕の心は、昨日よりもずっと、幸せな色をしている気がした。
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コメント
3件
藤井家、大森さん関係の何か重い過去がありそうな気がします…
大森さんが、若井さんを信頼し始めたってことですよね⁈ お二人の本当の関係性が気になるところ… 続き楽しみにしてます!!