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【エピローグ】

私は幸せだった。

なんの病に侵されることなく、長い間静かなこの世界で生きてきた。

だがそれも終わりのようだ。

私はこの付近で最も空に近い場所から、この付近で最も地球の中心に近い場所に目を向けた。

眩しくて、痛くて、苦しい。

眼下には煌々と燃える宝があった。

私の宝であった碧い森林は、悲しみを抱きながら人間の狂気となって今そこに居る。

その狂気は私を襲おうと、崩れ去る寸前のコンクリートの大樹を這い上がってきていた。

全てはあいつらのせいだ。

歯を食いしばって熱風に耐える。

あいつらが今も向こうでのうのうと暮らしていれば、私の居場所が再び奪われることはなかったのに。せめて、私でなくあの少年を助けてやればよかったのに。あの時さえ…

止まらない回想の水路を堰き止めながら、今度は逆に首を動かして天を見上げた。

汚い空だ。

こんなところにいるくらいなら、さっさとあの汚い灰の雲の上に行ってしまった方が楽なのだろう。

それでもこの世界に固執し続ける私は少し、いや、だいぶ変わり者なのかもしれない。

まだ行きたくない。ごめんよ少年。

天の上にいるであろう彼に胸の中で話しかける。彼の魂をくくりつけていた肉塊は私の後ろで冷たく横たわっている。

後ろを振り向き、それを見て、決心がついた。

見送ろう。せめて、わたしが火の手に殺されるまでは。

この世界の終焉で私は最後の見届け人となる。

崩れゆくこの世界で、私を待つものはいない。しかし、追い出す者もいないはずだった。

ありがとう私の宝よ。

これ以上ない感謝を込めて今はもう原型をとどめていない炎の森に頭を下げる。

この世界の終わりを生きることがきっと私の生まれてきた意味なのだろう。

人生で最大の生きがいを胸に、私は炎に向き直った。

この後のことなどどうでもいい。生きてさえいればどうにでもなる。

今はただ、この宝の燃え尽きるまでを…


その瞬間、世界が反転した。

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