テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「おはよ」
中を覗いて声をかけると、ぱっとこちらを向いた。
「ああ、おはよ」
中に入ると宇治は問題集を開いていた。
「課題?」
「うん、今日嫁田さん休みだし」
言っていた通り休んだようだ。
「ごめん、絵なくて」
「ううん、今日は」
今日は。
「なんか用?」
「、、あ、いや、」
とりあえず、椅子に座った。
「、、、数学、どっか教えよっか」
「まじ、助かる」
何を、躊躇ったんだろう。
「聞いてる?」
「、え?」
はっとして視線を戻すと宇治と目が合った。
「何ぼーっとしてんの」
「ごめん、なに?」
「これこのやり方でも合ってるかなって」
宇治は問題集を指さした。
「うん、これでも合ってる」
そう言うと宇治は軽く頷き、ありがとうと言った。
「幡中は課題終わったの?」
「今日課題チェックの日だったから、昨日の夜終わらせた」
「そんなのあるんだ」
「文武両道、らしいし」
話さないといけないことがあるだろう。
「あのさ」
「うん」
少し間の空いたあとの、落ち着いた優しい声だった。
「、、、花火」
「、、花火?」
「、、花火、、やっ、たことある?」
「、、え、手持ち花火のこと?」
「、ああ、うん、そう」
「あるけど、だいぶ前に」
「、、そっか」
「何、急に」
「、、いや、この前玲花としたなって」
「そうなんだ、楽しかった?」
「うん、楽しかった」
宇治は、そっか、とだけ言って一瞬軽く微笑んだ。
「幡中、まだここ居る?」
「、、あ、うん」
「もう昼だし、なんか買ってきてもいい?」
時計を見ると11時半を過ぎていた。
「うん全然、お構いなく」
「何が好き?なんか買ってくる」
「え、あ、ありがとう、お金渡す」
「ううん」
宇治は鞄を持ってスマホをポケットに入れた。
「いや、ううんって」
「何が好き?」
「、、いいよ、宇治のだけで」
「じゃあ適当に買ってくる」
いつも、器用なのか不器用なのか分からない優しさだ。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!