放送室に入った太一は、膝をつきながら右肩を押さえていた。制服の袖は破れ、そこから滲む鮮血が床に落ちている。
「……痛って……クソ……」
荒い息を吐く中、突然ドアが開いた。振り返ると、そこに立っていたのは小野だった。
「どうしたんですか!? その傷……!」
「さっきの……カメレオンみたいな奴と戦って……」
太一は言葉を濁しながら答えた。小野は一瞬息をのむが、すぐに真剣な表情になる。
「ところで、羽田さんは……? いきなり放送室から出ていったので……」
太一は視線を落とし、かすかに頭を横に振った。
「……そうなんですね……羽田さんは、太一さんを“絶対に守る”って言ってましたよ」
その言葉を聞いた瞬間、太一の顔が歪む。
「小野さん……泣いてもいいですか? 後ろ、向いてるんで……」
「……いいですよ。誰が死んでもおかしくない状況ですから……」
そう言って、小野は顔をそらすと、ゆっくりと扉に向かう。
「その右肩の傷……保健室に包帯を取りに行きます。少しだけ待っててください」
太一はうなずき、小野が放送室を出ていくと、拳を握りしめ、声を押し殺して叫んだ。
「ごめん……ごめん!! 光世……俺がバカだった!! クソ、クソ、クソッ……クソ!!!」
悔しさと悲しみが混じり合い、彼の声は放送室に虚しく響いた。
一方、小野は保健室へ向かって廊下を走っていた。静まり返った校舎に、足音だけが響く。
――包帯さえあれば……太一さんの応急処置ができる……!
そう思った矢先、保健室の近くで、突如として耳をつんざくような悲鳴が響いた。
「ぎゃあああああああああ!!! やめろ!! やめてくれ!!」
――金森さん!?
その声に驚き、保健室の扉をそっと開けた小野は、目の前の光景に息を飲んだ。
「……なに……これ……?」
そこには、金森が床に倒れ、複数の“謎の生物”に囲まれていた。まるで野生のライオンのように、彼らは金森の体をむさぼっていた。片足、片手は既に切断され、両目は潰れていた。
金森の叫びは、弱々しく、途切れ途切れになっていた。
小野は立ち尽くした。
そのとき、謎の生物たちが彼女の方に目を向ける。
――来る!
身構えた瞬間、彼らは突然方向を変え、窓から外へと飛び去っていった。
「……っ!」
その場にへたり込みそうになる足をこらえ、小野は金森に駆け寄った。震える手で首筋に触れると、彼の命は既に尽きていた。
「……ごめんなさい……」
震える声でそう呟くと、ロッカーを開け、中から包帯を見つけ出した。
そして、小野は涙を拭い、再び太一のもとへと走り出した。
彼女の手には、確かに包帯が握られていた。
To be continued.