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文化祭当日。
朝から学校はお祭り騒ぎだった。
「ライ見て!」
教室に入った瞬間、マナが勢いよく駆け寄ってくる。
クラスTシャツ。
少しだけセットした髪。
楽しそうな笑顔。
眩しい。
ライは思わず目を細めた。
「……似合ってる」
「ほんと?」
「かわいい」
「朝イチでそれ言う!?」
マナが真っ赤になる。
周りから「またやってる」「仲良すぎ」と笑い声が飛んだ。
けれど今日は、マナも前みたいに否定しなかった。
少し照れながら、それでも嬉しそうに笑う。
その顔を見るたび、ライの胸は温かくなった。
午前中はクラスの出し物で大忙しだった。
「マナー! 注文お願い!」
「はーい!」
楽しそうに走り回るマナを、ライは時々目で追ってしまう。
笑ってる。
元気そう。
ちゃんとここにいる。
それだけで安心する自分に、ライは苦笑した。
百年前の記憶は、今も消えない。
ふとした瞬間に、不安になる。
また突然いなくなるんじゃないか。
幸せな時間ほど、壊れるのが怖い。
でも。
「ライ!」
マナが笑いながら手を振る。
その姿を見ると、“今”を信じたいと思えた。
もう、自分たちは前世の続きだけじゃない。
ちゃんと、新しい時間を生きている。
昼休み。
ようやく落ち着いて、二人で文化祭を回ることになった。
「まずたこ焼き!」
「食べたばっかじゃん」
「文化祭のは別!」
そんなことを言いながら笑い合う。
射的をして。
写真を撮って。
クレープを半分こして。
百年前、叶わなかった青春。
その全部を、一つずつ埋めていくみたいだった。
「ライ、こっち!」
マナに手を引かれる。
迷子にならないように。
はぐれないように。
その手の温度が嬉しくて、ライは少しだけ強く握り返した。
「……ライ?」
「ん」
「今日、ほんと嬉しそう」
マナが笑う。
ライは少しだけ照れたように目を逸らした。
「……楽しいから」
「そっか」
マナも嬉しそうに笑った。
夕方。
校舎裏は少し静かだった。
文化祭の喧騒が遠く聞こえる。
「疲れた〜」
ベンチに座りながら、マナが空を見上げる。
夕焼けが綺麗だった。
その色に、ライは少しだけ昔を思い出す。
病室から見た夕焼け。
“来世でもまた恋人になろうね”
最後に交わした約束。
あの時は、未来なんて見えなかった。
でも今は違う。
隣にマナがいる。
笑っている。
生きている。
「……ライ」
「ん?」
マナが静かにこちらを見た。
いつもの明るい顔じゃない。
少しだけ真剣な目。
「俺さ、最近ちゃんと思い出してきた」
ライの呼吸が止まる。
「最後の日のことも」
「……」
「ライ、すげぇ泣きそうな顔してた」
胸が痛む。
あの日の自分を、きっと一生忘れられない。
「……ごめん」
ライは小さく言った。
「最後まで、ちゃんと笑えなかった」
マナは首を横に振る。
「いいんだよ」
優しい声。
「俺もほんとは怖かったし」
風が吹く。
夕焼けが二人を染める。
マナは少し笑った。
「でもさ」
「?」
「もう、前世ばっか見なくていいと思う」
ライの目が揺れる。
マナはゆっくりライの手を握った。
「もちろん前世の俺らも大事」
「……うん」
「でも今の俺らは、ちゃんと未来あるじゃん」
その言葉が、まっすぐ胸に刺さる。
「だから」
マナは照れくさそうに笑った。
「“来世でも”じゃなくてさ」
夕焼けの中。
真っ直ぐライを見つめて言う。
「今世を生きよう、ライ」
その瞬間。
ライの中で、何かがほどけた気がした。
百年間、ずっと過去に囚われていた。
失った恋。
叶わなかった未来。
守れなかった約束。
でも。
今、マナがここにいる。
笑って、自分の手を握ってくれている。
それだけで十分だった。
ライは堪えきれず、マナを抱きしめた。
「……っ」
強く。
でも今度は、失わないように優しく。
マナも自然に抱き返す。
「……ライ」
「ん」
「好き」
耳元で囁かれて、ライの胸が熱くなる。
「俺も」
抱きしめたまま、小さく笑った。
百年前、終わってしまった恋。
でもそれは、本当の終わりじゃなかった。
遠回りして。
泣いて。
探し続けて。
ようやくまた巡り会えた。
だから今度こそ。
二人で未来へ行く。
“来世”じゃなく、“今”を生きるために。
コメント
1件
第12話、読み終えました。文化祭の賑わいの中で、ライがマナの笑顔を追いかけるたびに「まだここにいる」と確認しているような、その慎重な愛し方がとても印象的でした。夕焼けのシーン、マナが「今世を生きよう」と言った瞬間の解放感には、思わず息を呑みました。百年前の約束を未来への架け橋に変える、その巧みな構成に胸が熱くなりました。