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いつもと同じはずの帰り道だった。
午後三時過ぎのキャンパス。日差しが強く、舗道の照り返しが眩しい。
悠翔は、講義棟の裏手、普段はほとんど人の通らない小径を歩いていた。
喧騒を避けた、ただの習慣。それだけだった。
その先に、「立っていた」。
――一歩、二歩、まだ遠いのに、胸の奥が急に冷たくなる。
視線を逸らそうとした。
けれど、相手はそれを許さなかった。
まるで、待っていたように。
その姿に、最初は名をつけられなかった。
髪も伸びて、背も少し高くなって、服装も当時とは違う。
でも――目が、同じだった。
逃げようとした足が、一瞬もたついた。
ほんの数秒、互いに視線を交わす。声はなかった。
けれど、それ以上に「声より確かに」、過去が蘇った。
「……久しぶりだな、悠翔」
それは、陽翔の声だった。
低く、穏やかで、まるで何もなかったかのように滑らかに、
けれど確かに、支配の記憶を呼び覚ます響きだった。
悠翔の心臓が跳ね上がる。
胸の奥がきしむ。呼吸が浅くなる。
頭の中が真っ白になる感覚――懐かしすぎて、反射的に身体が硬直する。
陽翔は一歩、悠翔に近づく。
そして笑った。ほんの少し、口角を上げるだけ。
それがどれほど「恐ろしいもの」だったか、悠翔は身体の奥に染みついていた。