【改稿版2】 ◇納得の上での離婚
真帆と俺は、嫌い合って別れたわけじゃない。
性格の不一致でもなければ、浮気でもない。
話も興味を引くものなども合い、話し上手な上に料理も上手くて
胃袋を掴まれた 真帆との数年間の結婚生活はすこぶる上手くいっていた。
ただ、結婚して数年が経ち、俺の両親──特に母が
「長男の嫁」としての振る舞いを真帆に強く求め始めた。
最初はやんわりと、そして……次第にあからさまに。
俺自身も母の意向を当然のように受け入れ、
真帆に実家の慶事への参加や、家事の手伝いを求めた。
「仕事があるから簡単に休めない」と言う彼女に、
俺は「俺の母の言うことを聞けないなら、嫁失格だ」と責めた。
実家の慶事ごとや諸々の件で、仕事を休んででも参加してほしいと
当然のように……また命令のような物言いで頼んだことから、始まった
夫婦の喧嘩。
「仕事が大事だからそんな簡単には休めない。
自分は仕事をして、私には仕事を休んででも手伝えと言う。
あまりにも理不尽よ。
じゃあ、あなたが休んで手伝いに行けばいいじゃない。
あなたが仕事を大切に考えているように私だって自分の仕事に誇りを
持っていて大切なのよ」
そう彼女は俺に訴えた。
俺はおれでそんな強気な真帆にあきれ、夫のいうことが聞けない女はいらん、
と臨戦態勢で語気を荒げた。
家庭も大事だが、仕事も大事にしていた彼女はとうとう堪忍袋の緒を
切らし
「そんなに嫁として気に入らないなら、別れて」
彼女は冷静な口調でそう言い、俺もそれを否定しなかった。
お互い納得した形で離婚した──はずだった。
だが、ずっと心のどこかに引っかかっていた。