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僕は中島敦。武装探偵社の新米社員だ。
最近、敵対組織のポートマフィアと停戦してから、共同任務が増えつつある。
お互いに嫌悪している僕とマフィアの禍犬、芥川を組ませて来る始末だ。
相変わらず、僕と組まされると機嫌が悪い。いつもの事だが。
作戦内容を頭に詰め込み、太宰さんの指示を聞くことに集中する。
太宰『芥川君、裏手に回って奴を拘束して。』
芥川 「承知。 人虎、貴様は奴を奥へ誘導しろ!」
敦「言われなくても分かってる!」
僕は脚を虎化させ、跳躍し壁を交互に飛び移りながら目的の男まで接近する。
後は爪を振りかざし、裏手まで追い立てるだけ、のはずだった。
男「異能力 殺戮の天使!!」
敦「なッーーー」
此奴、異能力を…!
不味い、虎の防御が間に合わない。
回避する暇もなく、血に塗れた天使の聖剣が首を掻き切るーーーことはなかった。
それは、突然黒い影が僕を聖剣から遮ったからだ。
芥川「か、はッ…」
何故、空間断絶で喰い止めたはずの聖剣が芥川を貫いている?
否、そもそも何故此処に芥川が?
鮮やかな鮮血を咲かせながら聖剣が引き抜かれた。
芥川は喘ぎ声を零しながら、整った顔を歪ませる。
ようやく芥川が自分を庇ったのだと理解した。
裏手からはかなり距離がある。
恐らく、此処に来るために脚だけに天摩碾磑 を纏い、
空間断絶の強度が弱まったのだろう。
そんなことを考えている間にも聖剣の嵐が降り注ぐ。
虎の爪で弾き飛ばしながら芥川を腕の中に引き寄せる。
虎化の影響もあり、僕より身長の高かった芥川はすっぽりと己の胸に収まった。
今にも閉じてしまいそうな虚ろな瞳と目が合い、芥川が口を開く。
芥川「足を、引っ張るな、愚者め…」
弱々しくも、文句を零す姿に安心したのも束の間、 異能力が発動した。
恐らく、この異能は聖剣による傷を負ったものを対象としている。
未知な異能を前に、僕は何も出来なかった。
異能で貫かれた部位から血が溢れる。
溢れ出た血は芥川に弧を描いて消えた。
芥川の顔を見ると、頰辺りに薔薇の蕾の様な痣が残っている。
敦「なに、を…芥川に何をしたッ!!」
男「…答える義務はない。」
次の瞬間、僕は自分でもどうやってしたのか分からない速さで男の首を絞めた。
男「がぁッ…!何、故…先程よりも、はや゙ぐッ」
敦「お前の異能は何だ!!」
壁に打ち付け、先程よりも強く首をきつく絞め上げる。
情報を聞き出すため緩めると、
男「俺の異能は、聖剣で怪我を追わせた者に薔薇の痣を刻む。
刻まれた者は遅くとも一ヶ月で全身に痣が広がり、死に至る。」
敦「ッ解除方法は!」
男「痣が刻まれると共に、一時的な障害が発生する。
期限内にその障害を改善させることが唯一の解除方法だ。」
一通り喋らせてから、頚動脈を圧迫し気絶させる。
急いで芥川に駆け寄り、太宰さんに連絡をいれる。
敦「太宰さん!」
太宰「敦くん、どうしたんだい?そんなに焦っ、て」
敦「芥川が、異能に…!」
太宰「くそッ、異能力持ちの仕業か…」
敦「僕のせいです、僕が油断したから…」
太宰「いや、私のミスだ。異能力者が居ないと振り切っていたッ…」
太宰「謝罪は良いから、芥川君を探偵社に!」
返事をする前に足が動き出していた。
素早く虎化させ、芥川を横抱きにし、走り出す。
ただでさえ目立つ髪色をしている二人だが、
虎が血だらけの指名手配犯をお姫様だっこで爆走している絵面は
周囲の人々に異様な印象を与えさせたという。
探偵社まではかなり距離があったが、五分弱程で辿り着いた。
既に太宰さんと与謝野さんが待機していて、
芥川を引き渡すと 尋常じゃない速さで治療し、服を着替えさせ、寝台に寝かせる。
太宰さんは普段からは芥川に見せない顔をして
まるで繊細な硝子を扱う様に、愛おしそうに服を着替えさせていた。
何時もは冷酷な態度を取っていても、大事な愛弟子なんだなと改めて
芥 川の目が覚めるまで、僕は現状を説明する必要がある。
異能のこと、その解除方法、それに至る経緯まで全て話した。
太宰「解除方法があるとするならば、私の異能無効化が効く可能性は低い。」
敦「そんなッ…!」
太宰「奴が嘘をついているかもしれないからね、まだ断定は出来ないけど。」
太宰「兎に角、芥川君が目覚めたあと無効化出来なかったら、
その解除方法とやらを試すしかないね。障害が発生する点にも対策を…」
太宰さんはその後何か呟いていたが、もう僕の頭には入ってこなかった。
状況を要約すると、異能無効化に失敗し、解除も失敗したらーーー芥川は死ぬ。
その重大な事実が重くのしかかる。
今、芥川は隣ですやすやと寝息を立てながら、
マフィアで異名を轟かせているとは思えない、幼い顔をしている。
此奴が死ぬなんて信じられない、信じたくない。
想像を振り払う様にして此奴も寝るときは
こんなに無防備なんだなと場違いなことを考える。
そうこうしているうちに、太宰さんは調べることがあると言い医務室を出て行った。
どうやら、マフィアの幹部とやらに話をつけているらしい。
幼い寝顔を見ながらふと考える。
何故あれだけ毛嫌いしていた僕を庇ったのだろうか、僕が死んでも彼奴は困らないのに
暫くして、考えても本人にしか分からない物だと思い直し、席を立つ。
太宰さんから、芥川は無花果が好きなのだと聞いたことがある。
命の恩人、な訳だから其れ位は買いに行こう。
僕は気づかなかった。自身の行動が間違いであったと。