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リゼリアの研究所は魔界の中でも異質な場所だった。外観は古びた塔のように見えるが、中には様々な魔術の研究設備が整えられ、膨大な魔力が渦巻いている。
カイはその場所に忍び込んでいた。
母の留守を狙い、以前から気になっていた地下への通路をこっそり探索するためだ。
「母さんが隠してる何かがあるはず……」
幼いながらも魔力感知の才を持つカイは、この地下に強い魔力の気配があることを感じ取っていた。興味本位で階段を降りると、空気がぐっと重くなる。
地下の奥には牢が並んでおり、その一角に少女が囚われていた。
カイは思わず息をのむ。
牢の中の少女は、白い肌と淡い金の髪を持ち、まるで光そのものを具現化したような存在に見えた。
「……誰?」
かすれた声が、静寂を破る。
カイは驚いて後ずさる。
「……君は、ここに閉じ込められてるの?」
「そうよ」
少女——レティシアはゆっくりと顔を上げた。
その瞳がカイを捉えた瞬間、カイは身体がすくむのを感じた。
強烈な威圧感と同時に、不思議な吸引力があった。
「……君は、誰?」
カイは唾を飲み込みながら尋ねた。
「レティシア。人間界の勇者よ」
その言葉に、カイは驚き、思わず一歩引く。
「勇者……?」
「ふふ、怖い?」
レティシアは微かに微笑む。しかし、その微笑みにはどこか冷たさがあった。
「……別に怖くなんかない」
強がって答えながらも、カイは心臓の鼓動が早まるのを感じる。
彼女は異質だった。
魔界にいる者とは明らかに違う気配。
それなのに——カイは彼女に惹かれていた。
レティシアもまた、カイの顔をじっと見つめる。
(……セリオ様に似ている?)
しかし次の瞬間、彼の尖った耳に気づき、その瞳がわずかに揺らぐ。
「……あなたは誰?」
カイは戸惑いながらも、自分のことを話すべきか迷う。
その場から動けなくなるほど、彼女の視線は強烈だった。
だが——本能的に危険を感じた。
「……僕、もう行く」
「待って——」
レティシアが手を伸ばした瞬間、カイは身を翻し、駆け出した。
彼女の視線が突き刺さるように感じながらも、後ろを振り向くことなく、研究所の階段を駆け上がる。
牢の中、レティシアは静かに呟いた。
「——ハーフエルフ、なのね」
その声には、困惑と、ほんのわずかな諦めが滲んでいた。