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私には彼氏がいる。自慢できるすごい彼氏が。少し捻くれてるけど、何よりも誰よりもまっすぐだと思う。ただ不器用だからよく他校の人とかとヤイヤイ言い合ったりしてるらしいけど。

そんな彼氏は今東京体育館にいる。彼にとっては2回目の春高全国。去年は私もマネージャーとして参加した。今年も本当は参加するはずだった。でも今はこの通り。腕に3本の点滴をつけられて、ベットから動けない。トイレとかで動くのが億劫に思えるぐらい体が痛い。だから部屋についているテレビで彼の試合の生中継を見ている。

私は去年の春高後の部活中、ドリンクを作っている時に膝にすごい激痛を感じた。その時は疲れとかだと思っていたのだけれど、その状態が1週間ほど続いたので親の付き添いで病院に行った。

その時に医者に言われたのは「骨肉腫」。簡単に言うと骨のガンだ。それもほぼ末期。胃とか体中の臓器に転移してしまっているらしい。それがわかってからは即入院。抗がん剤治療とか色々してるけど進行を緩めてるだけで悪化の一方。多分夏ぐらいにはぽっくりsee youしそうなんだよね。

別に死にたくないって訳じゃないし、かと言ってもう死んでもいい!って訳じゃない。ただいつか人は死ぬって分かってるし、それが早まったってだけ。それに何度も言うけどって言うか脳内の私自身(?)に自慢するけど今私にはすっっっごい彼氏がいる。んでとんでもなく幸せ。老後ヨボヨボで動けないまま1人で死ぬより今この状態の方が全体的に幸せなんじゃないの。って思考で割と根気強く生きてる。

『おーっとさすが井闥山の主砲!佐久早いい回転で打つ!しかしっ!しかしこちらも粘り強いレシーブで上げていく犬伏東!』

解説さーんうちの彼氏くんなめちゃあかんですよだって全国三本指エースの一角なんですからね⁉︎むしろこのくらいしてもらわないと古森くんが泣いちゃいますからね!

犬伏東…私は聞いたことない学校だ。調べた感じ特に強豪とか古豪とかそう言う訳じゃなかった。無名と同じ様な状態。その割に…強い。こっちには三本指エースとNo. 1リベロがいるのに攻めきれず、第一セットを取られている。現在第二セット終盤、こちらが押している。おそらくこのセットは取れると思う。飯塚先輩の調子もいい。もちろん古森やおみも。もっとノれ。そしたらきっと…きっと勝てる。


結果は敗北。第三セットはお互い同点が続いてデュースまで持ち込んだけれど向こうの粘り勝ち。井闥山はベスト8で終わった。

ベスト8でも十分すごいことだってのは分かってる。誇るべきだ。だけどこのメンツだったらもっと上に行けたはず。それをきっとみんなもわかってたし思ってる。だからこそ飯塚先輩は泣いてるし、だからこそ相手の犬伏東も大喜びしているのだろう。

とにかく私にできること。ここから動けない情けないマネージャーの私にできることは…。


「おみおみ~試合見たよ~。お疲れ様。」

私は時間を置いてからとりあえずおみに電話をかけた。多分バスでの移動中だろう。

『ん、次のIHは優勝する。春高も。』

「珍しいね、おみおみがそう言う宣言するの。君の彼女ちゃんは期待しちゃいますけど。」

『期待してなよ。見せるから。』

私はおみに自分の病状を詳しく伝えていない。ただ骨肉腫であること、入院が必要なこと。まじで痛くて動けないこと。そのぐらいしか言ってない。けれど今のおみの言葉。多分私は来年を生ききれないことを理解している。そらそうだよね。私は治る治るって言ってるのに徐々に投薬の頻度とかは多くなるし寝る時間も増えて体力も無くなってきてる。気づくかやっぱり。

「んじゃ、次はちゃんとコートまで見にいくから。マネージャーの席開けててよ!?」

『開けてるしお前は今もマネージャーだろ。』

「でも実際行けてない訳だしさー」

『なー佐久早!それあいつ?すんすん?』

電話越しに佐久早ではない声がする。この呼び方はぜっったいに古森だ。私の名前は水って書いてすいって読む。でも割と呼びにくいからすんすんっていうあだ名だ。

「古森お疲れ様~。おみおみほどじゃないけどかっこよかったよー。」

『前半いらなくない?従兄弟の惚気とか聞きたくないから!』

「そんな古森くんにお願い!ちょっとスピーカーにして飯塚先輩に渡してくんない?」

『?別にいいけど。』『いや、俺のスマホなんだけど。』『いいじゃん飯塚さんだよ?佐久早の次に清潔じゃん。』『そうだけどさ、』

「おみおみ~お願い!」

『…はいはい。わかった。』

「ありがとー!」

私はこんな性格だけど結構義理堅い。私をバレーに誘ってくれたのは飯塚先輩だったし、そのおかげでおみとも仲良くなれた。私は今後学校に行くこともないと思うし、お礼を言えるのはこれが最後だ。

「先輩、お疲れ様でした。みなさんかっこよかったです。」

『ありがとうな~すい。本当ならお前にもいてほしかったよ笑』『そうだよなー!学校いつこれそうだ?』『元気にしてるか?俺たちは元気じゃないです!』『俺ピンサーでしか入らなかったんだぜ!?ラストなんだからもう少しやりたかったー、!』

先輩たちの声がわらわらとする。みんな少しだけ声が鼻声になっているあたり、相当悔しかったんだろう。それでも私にいて欲しかったっていう言葉を言ってくれるところが私が先輩たちを尊敬するところだ。

「今度おみにお菓子でも持って行かせます。卒業祝いの差し入れとかで。」

『あいつから可愛いクッキーとか渡された日には俺ら倒れるぞ?』『状況意味わかんなくなりそうだよな笑』

「それなら仮面ライバーキャンディとかにしときますよ」

『それはそれで面白いからお願い笑』

やば、スマホ電池切れそう。早く言わないと。

「あの!みなさん!」

「今までありがとうございました!卒業した後も応援してます!」

『おう!こちらこそありがと〜すいちゃん!』『応援してくんないと激辛のアイス食わせにいくからな』『だからなんでお前はそう言う変なこと言うの!笑』

「ではまた!」

『おうまたなー!』

通話を切る。おみとは最後話さなかったけれど多分明日あたりに来てくれるはず。その時に頭撫でくりまわそう。あ、嫌がるかな。まぁいいや。私は喜んでわしゃるし。

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