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ノベル用の短編集600*400
この連載には長編に飽きるとよく出没する、かもしれない。
完全フィクション
青黒 身長は黒<<青
小さくなった訳では無い
多分(ちょっと)病んでる
深夜帯大衝動で怪文書度は高いし短い
(間違えて投稿したので途中でぶちぎった)
かち、かち。マウスのクリック音だけが響いた。
「…」
画面の中では歌う青年が居る、繋がったヘッドホンは机の上に放棄されたままだ。
不意に寂しさに襲われて、声が聞きたくなった。そうして流していたはずなのに、心がざわめいてならなくて、ヘッドホンを強引に机へ投げてしまったのだ。
俺は一般的に、この人に釣り合う人間などではない、ましてや慕われることなんて普通、ありえない、なんて。考えてもどうにもならない事を考えて、どうしようもない結論を出して、どうしようもない罪悪感に苛まれる。こうなったのは昨日、幸せを体感してから。強く抑えられた手首にまだ少し、感覚が残っている気がする。荒々しく組み敷かれた痛みが身体に幸せなら呪いとしてしばりついている。
事故のように繋がって、愛されてしまって。俺は年甲斐もなく善がった。
ずっと前から繋がりたくて、愛されたかった。彼のものになりたかった。懐に隠したそんな下心が今、ざっくりと心臓を刺してしまったらしい、過剰に溢れ出す血液が足りない、もう幾許かで意識がふと途切れるような感傷が意識を占有していった。
「(…あの幸せのまま、死ねればよかった)」
大好きに愛した彼で腹上死、なんて素敵だと思わないか。好きな人が凶器になると言えば伝わるのか、分からないけれど。好きな人を殺人犯にしたい訳でもない、少しだけの願望。
俺はまだ、死ぬわけにはいかない。みんなと夢があって、…忘れなければ、そうだ、普通忘れなければいけないことなんだ。こんな幸せなんて、感じてはいけなかった。自己嫌悪に浸かりきった自分と、幸せだ愛されたと恍惚にも頭がイカれて帰ってこない自分がある。
昨夜同じ家に住んでいる6人の殆どはどっちでもいける、か男だけ、みたいな話をしていた。酔った勢いというか、なんとなくそういうのになっただけ。付き合ってるやつがいたらしくて、そいつらの報告と一緒に。別にそれはあれだ、普通に、一緒に住むのが気持ち悪いとか言いたいんじゃなくて、人にはタイプというもんがある。普通に言う異性のタイプと同じ、好きになるタイプ。俺みたいなやつは普通、好きになられないけど。
その話の時、俺は答えなかったけれどずっと聞いていて、好きな彼がどっちだ、と言ったのも聞いていた。
なのに、普通を押し付けて、強迫感に囚われた心が許容しようとしていない。
「俺別に差別とかせんよ?」「お前らが幸せならそれでええんよ」
どの口が言っているのだ。俺を指差す黒い人間たち_もとい、それは自分なのだが。が笑って言うのだ。
「いちばん差別してるの、自分やん」「幸せなんて、祝えへんくせに」
…うるさい、俺だって分かってんねん。
「普通、普通、って(笑)無意識に差別しとんの?可哀想なやつやんなぁ。」「他の奴らが羨ましくて嫉妬で死ぬんやない?お前、さびしがりやもんな。」
可哀想やない、羨ましくもない、嫉妬なんてしてへん、はずやねん、
「”俺”がいる時点で可哀想な頭やろ、見栄っ張り」「捨てられるのが怖いんやろ?」
見栄なんてはっとらん、これが俺やし、捨てられたって、いや、捨てられん努力はする、けど
「あぁ、じゃあ嘘つきやんな」
うるさい、うるさい。現実から逃げるようにヘッドホンをつけ、何倍もの音量で音楽をかける。なるべく人の声、なんでもない曲がいい。自分の思考を遮るように喧騒的で、どうでもよくて、曲の内容なんて知っていても知らなくても、分からないもの。数分がすれば、頭の中が差し水をしたように水面を静ませる。
あとはもう忘れるまでぼんやりと机を眺めるだけ。大きめな椅子の上に足を抱えて座って、背もたれに体重をかけて、呪いの残る手首を掴んで、もう片手でぐっと首を絞めて、イカれた頭に巡って無駄になる血を止めるようにする。
ゆっくり浅く呼吸をしながら、耳元で叫ばれる感情言語を聞き取るだけ。
俺は謝ろうと思って当本人の部屋の前に居た。理由はお酒とか、変なテンション感で身体を重ねてしまったこと。好きな人だから嬉しくなったとか、調子に乗ってしまって手酷く抱いてしまった気がする。全然楽しそうだったし、むしろ結構積極的だったところから経験豊富なのか…とか、まぁ考えたりもしたが、無理を強いてしまったので体調確認も含め今更確認しに来た次第である。朝は寝ていたっぽいので起こさなかったし、その後の連絡も結局帰ってこず心配したままだった。
「…あにき?」
ノックをしても声をかけても、いつまでも返事は帰ってこない、部屋には居るはずなのだけど。
「あにき?…開けるよ?」
倒れている、なんてことは流石にないと思うが心配にはなる。寝ているだけならそれが確認出来ればいいし、と思って恐る恐るドアを開く。
ちら、と見えたのは小さく丸まって息の根を止めようとする青年。
なにしとんの!?…と、突撃しそうになったが一旦抑え、大人な対応を心掛ける。犬のようにかけよられても多分信用にかけるだろうから。
静かに近寄ると何かが薄く聞こえている。何かしらのリズム、アップテンポのやつだ。多分それはヘッドホンからの音漏れ、と思われるがこの距離で曲が聞こえる、とは相当の大音量で流れているはず、道理で気が付かない訳だ。軽く肩を叩くと彼は触れた瞬間にびくん、と身体を跳ねさせた。勢いよく振り返った彼の髪はゆらぎ、焦りと畏怖が滲む大きな瞳を更に丸くしてゆっくりとヘッドホンを首元に置いた。
「ぁ、え、っと…なんか用?」
「まぁちょっとな。」
「なんや、忘れ物でもしたん?探しとくけど。…何かあったっけな、その、」
頑張って他のことを話そうとしているんだろうな、というのが目に見えて伺える。狼狽える小動物みたいな声からはいつもの気迫を全く感じられない、別人の様なか弱さだ。
「昨日のこと、あと今のも」
真っ直ぐ見下ろされているのが高圧的なのか、すっと目を逸らして自分の姿すら見ようとしない。椅子に座った彼に合わせるように床に膝をつき、肘置きの手に触れる。少し腰を引いたのか、椅子が逃げるように微かに揺れた。
「…別に、」
「体調大丈夫?体の方、だるかったりしない?痛いとこない?」
つい、と甲から手首へ腕を滑らせた。彼はこっちを見ない、触れている手をじっと見つめている。
「男やし、大丈夫」
「じゃあ気持ち悪いとかは?」
首を振る。ゆらゆらとする髪は顔を隠すように前へ垂れ込んだ。
「ない、..平気」
「それなら良かった、メンタル的には?」
「…」
何かを言う気配はしたが、そのまま喋ることはなく口を閉ざす。
「何か辛い?それとも何か苦しい?なんか言われたりしてん?」
「何も。…なんて言うんやろ、自己嫌悪?まぁそういうやつ、ごめん」
へらりと笑う。絶対に誤魔化そうとしている、それだけは分かる。仲が良くなればなるほど、段々と調和して、与えられたものになろうとする、言いたいことを言えないのがこの人なんだ。
「昨日の、嫌だった?」
「嫌ではなかった、けど…」
「俺は幸せだったよ、あにきのことずっと好きだったから」
指を絡ませて冷たい手のひらを包むと、少しだけ握り返してくれる優しさに嬉しくなる。
「…うん」
「あにきは俺と恋人になるの嫌?」
「嫌やない、!」けど、と歯切れ悪く言葉を続ける。
「けど、何?」
「…俺じゃ、釣り合わんやん、普通、」
彼が話すのは、幻の物語。
綺麗な奥さんを貰って、子供がいて、同僚から羨まがられるような、そういう”普通”。そこに最愛の彼は居ない、絶対に。そう断言された。友達に居るかどうか、いや末席にも居ないって、否定された。
「…なんで?」
「だから、その」
「じゃあ一個づつ否定しよっか。」
「ぁ、え…?」
彼の目を見る。小さく怯えている彼にゆっくりと説いていく。
「一個目、俺の恋愛対象どこって言った?」
「…男、やろ?」
「正解、俺は男だけ、な?だから奥さんなんて作れへんねん。」
彼は分かっている、だけど否めないのか悲しそうな表情が張り付いて、変わらない。
「二個目、好き以外の人とヤると思う?」
「…あるやんそういう、セフレとか」
「俺がそういうのする人に見える?」
「いや、…見えない、」
「だからちゃんと好きなの、これはあにきだけ。」
顔を近付けると椅子がきしむ音がする。昨日聞いた音にも似ている、鉄パイプの音。
「三個目、その”普通”って何?」
「え、」
「俺の”普通”は大好きな彼氏と一緒に居て、たくさん幸せだって笑うこと。あにきは?」
「おれの、”普通”…?」
「だって奥さんが〜って、一般論じゃん。あにきが思う”普通”って何?」
俺の普通。小さい頃から植え付けられた倫理観じゃ、俺の普通は全部異常だった。
「幸せだって、言えること…?」
「言いきれるとこまででいいよ、疑問は一回置いて」
「…好きな人と居たい、」
「それだけ?」
「傍にいて、それで、…離さないでいて、ほしい、」
途端に暖かい温度が、全身を包む。
「俺なら傍にいるよ、離さないよ。それじゃだめ?」
「…だから、俺じゃ..」
「俺に釣り合う人は俺が決めんの、分かる?」
背中を撫でる大きな手、愛しい人の体温が伝播して、じわりと身体が熱くなっていく感じがする。
「分かる、で、」
「あにき、俺と幸せになってくれへん?それで一緒に笑ってくれん?」
「…ええの、?」
「俺はあにきがいい。悠佑がいいんよ。」
これ以上喋ったら泣いてしまいそうだ、返事の代わり、俺は彼をぎゅっと抱き返した。