失恋の、そのあとに

悩んだけどそれからも猛アタックされて、ひとまず件の告白してきた人と付き合うことにした。

いつでも顔を合わせるメンバー内での失恋は思った以上に傷の治りが悪く、内心まだ引きずっている中だったので少し絆された部分もある。

阿部は宣言通り家に来るのをぱったりとやめた。頻度を減らすくらいかと思っていたけど、全く来なくなったばかりか連絡もない。

つくづく0か100の男だ。

少し気がかりではあった。

顔を合わせた時にこっそり『あれからどう？』と尋ねるが『大丈夫』と言うばかり。

だが俺が付き合う報告をする直前、収録の合間に照を見るその目は完全に諦めたそれではなかった。

同じ失恋した者の勘でしかないが、阿部が本当に切り替え立ち直っているとは何となく思えずにいた。

ある収録の時。

照がギリギリまで私物のパーカーを着ていて、そのままスタジオに来てしまったらしい。

💚「俺も取りに行きたいものあるから、楽屋に置いてくるよ」

💛「悪い、頼むわ」

そんなやりとりをして、阿部は照のパーカーを大事に持って戻っていった。

❤️「遅いね」

まだ時間に余裕があるとは言え、楽屋とスタジオの往復にそんなにかからないはずだが戻らない。

💛「俺見てくる」

照が楽屋に向かう。何となく気になって、少し遅れて俺も後を追った。

照は楽屋の扉の前で立ち止まっていた。

俺が来たのに気づき、手で制止される。

微かに声が聞こえてきた。

💚『はぁ、はぁ…ん』

ドアは締まりきっておらず、ほんの少しだけ開いていた。

その隙間から見えたのは、照のパーカーを顔に押し付けて自分を慰める阿部の姿。

あの阿部がこんなに隙だらけで不用意な事をするなんてとても思えなかったが、同時にそれは照への諦めきれない思いが周りを見えなくするほど強く大きいという表れでもあった。

阿部もまさか照本人に見られているなんてとても思わないだろう。そして照はどんな思いでいるのだろう。

表情を窺おうとしたが、照はそのままスタジオに戻っていったのでそれに続いた。

少しして、阿部も何事もなかったように戻ってきた。