テラーノベル
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2026年、1月13日。
スマートフォンの通知が、都心に初雪の予報が出たことを知らせていた。
表参道のビルにある会議室。自動ドアが開いた瞬間、漂ってきた微かな「雨上がりの針葉樹」のような香りに、美咲の心臓は嫌な音を立てた。
それは、記憶の底に沈めていたはずの、あの人の香りだった。
「今回の設計を担当する、瀬戸口です」
低く、少しだけ掠れた声。顔を上げると、そこには七年前よりも少し鋭利になった横顔があった。
航。
名前を呼びそうになった唇を、美咲は強く噛んで止める。
彼は、驚くほど無表情だった。美咲の目を見ても、初対面のビジネス相手に向ける完璧な、そして冷ややかな微笑を浮かべただけだった。
「……よろしくお願いします、瀬戸口さん。広告担当の、佐藤です」
震える声を抑えて差し出した名刺を、彼の手が受け取る。
その指先がわずかに触れた瞬間、外では予報通り、静かに雪が降り始めていた。
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