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「一応聞くが、獣の腕を焼失させたのは邪神の腕だったからか?」
「何だ、理解しているではないか。利口になったな!」
「……腕をそのままにしておくとここには来られなかった。違うか?」
「ふふん、われのおかげで元に戻ったのだぞ。文句よりも礼を言われたいものだな」
火の神のおかげで獣化が解けた。さらに言えばスキルも得ることが出来ている。もっとも、獣化は滅多にするものでもないが。
やるべきことは村に歓迎されるための試練を受けなければならないことだ。ここがどこなのかなんて、フィーサの人化のおかげで大体分かっている。まずは神々に認められなければならない。恐らくそういう場所だ。
「試練を終えてからそうする。これからどうすればいいんだ?」
「やる気はあるようだな?」
「連れて来られた以上やるしかないだろ」
「ふむっ! われと戦えとは言わぬ。どうせ敵わぬのだ」
宮殿で喰らった炎の壁に対して、全く太刀打ち出来なかった。精霊魔法の火力程度では恐らく炎を消すことは出来ないだろう。今のままでは出来ることが限られている。
「アック・イスティへの試練は今見えている炎の壁! 壁を見破り、解除すればいいだけのことだ」
「それだけでいいのか?」
随分となめられたものだ。神と名乗ってはいるが、こうも素直な試練になるとは思えないのだが……。
「正しい壁に触れれば壁は消えて解除、間違った壁に触れれば戦いとなる。とてもじゃないが、魔法を専門に使うでもないお前にそこまでの気力と魔力があるとは思えぬ」
確かに現時点ではそうかもしれないが、ここに来るまでに手の内を知られたわけじゃない。
「どんな手を使ってもいいんだな?」
「ふむ。よかろう」
要は事前に知ることが出来れば無駄に戦うこともない。解除というより魔法の防壁でそう見せているだけのはず。
「イスティさま、どうするの?」
「まぁ、何とかなるだろ。フィーサは剣に戻れるのか?」
「ううん、このままの姿だよ。光の所に戻らないと剣の姿には戻れないかな」
やはりそう上手く行かせないらしい。この国で彼女が生み出されたのであればおれに使わせるわけにはいかないはずだ。
「それじゃあフィーサは、そこで応援するだけでいい」
「うんっ! イスティさまを一生懸命応援するね!」
フィーサを始めとして神にとって特別な場所であることが分かった。そういうことなら遠慮なく歯向かえる。まずは前方右手前に見えている炎の壁。こんなのは触れるまでも無く、民家を炎で守っているだけのもの。
小賢しい手に引っかかるまでも無く正解の場所を指差した。
「……ここは民家だ」
「ふふん、簡単すぎたかの」
「手前に見える炎の壁は全て民家だろう?」
「ふむ。良かろう。では、奥に見える壁から本格試練とするぞ」
ひっかけにもならなかったがここは村の外れに位置している。並ぶ家は村の民だけだとすぐ分かった。フィーサに起こされた時にも気付いたことだ。村の中心であればあるほど、簡単には見せたくないものがある。
遠ざけておれたちを連れて来たことくらい、容易に分かってしまった。
しかし――
「……む。炎の壁が散らばっているのか」
「さて、ここではお前のスキルも上手く働かぬぞ」
【敵対心をサーチ 範囲自分中心】
これなら獣の位置が掴めると思うが、敵対心を感じない炎の壁に触れてみた。
「――うっ? 引き込まれるだと!? くそ、サーチが効かないのか。うぅっ、くぅ……」
炎の壁の中に潜む相手。それに対しての敵対心を、おれは察知することが出来なかった。
「ふむっ。当たりを引いたようだな! われは戦いを見守りつつ宝剣との話を楽しむとするぞ」
「イ、イスティさまが、炎の中に!?」
「宝剣フィーサ、われと雑談でもしようぞ」
「えぇっ? でも、イスティさまが戦いを……」
「中にいる者は炎に強き赤毛の者。面を喰らう相手かもしれぬが、アックが戦わねば元には戻れぬ」
「え?」
おれはまんまと炎の中に引き込まれた。
そこで待っていたのは――赤毛のルティだった。てっきり炎の精霊だとか神獣だとばかり思っていたのだが。ルティが相手ではおれに対する敵対心が無い。
「ルティ。魔族の宮殿からどうやって来られた? シーニャは一緒じゃないのか?」
「むぅぅ……! またしても獣さんですか!! わたしは一刻も早く、アック様に再会したいんですっ! 邪魔するつもりなら容赦しませんからね!」
「お、おい……何を言っているんだ?」
「こんのぉぉぉ~!!」
どういうわけかおれが何かの獣に見えているのか、ルティが拳を振り上げて攻撃をしてきた。魔族の宮殿に取り残されて何かされただろうか。
「――っと! 落ち着け! おれだ。アックだぞ?」
「そう言って何度も騙そうとしたって、無駄ですからね!!」
ルティといえば確かに火に関係しているが。アグニめ、魔族の動きに乗じてルティを利用したな。
ルティとはルタットの町で戦ったことがある。しかしあの時はスキュラがいて、うやむやにされたまま終わった。それがまさかこんな状態で戦うことになるとは。
ルティに魔法をぶっ放すのもどうかと思うが、このままでは幻の解き方も分からない。
そうなると拳をぶつけるしかなくなる。おれの拳とルティの拳は岩をも粉砕出来るわけだが……。
「むぅ……」
「かかって来ないなら、可哀想ですけど粉砕しますからね~! 覚悟~!!」