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りるら
196
耀聖(ようせい)
758
1,088
また二人で手をつないでスーパーの入り口を出ようとした時ジェニがその場にうずくまった
「おなかいたい~(泣)」
「ええっ?!」
竜馬はこの幼い少女が緊迫した状況だと悟った
「ほらぁ~!あんな大きなかき氷を沢山食べるからぁ~!女の人用のおトイレ一人で入れる?」
ジェニを抱き上げ、慌ててトイレの場所を探し当てる
「むり~(泣)」
「困ったなぁ~!!」
しかたが無く、男性用の洋室便座にジェニを座らせ、扉を閉めて前で竜馬は立ち尽くし、大きくため息をついて片手で顔を拭った
―ああ・・・僕は何をやっているんだ―
「出た~!出たよぉ~!大きいお兄ちゃん」
「ほら!ここでちゃんとお手て洗って!」
個室から出て来たジェニの腰を抱き上げ、背が届かない手洗い場でジェニの手を洗わせる、竜馬はそこでハンカチを持っていない事に気が付いた
「ここで拭いて」
自分の白のタンクトップをビヨンと伸ばし、びしょびしょのジェニの手を拭かせた、竜馬の白いタンクトップは小さな濡れた手の後が二つついた
無事に危機を乗り越えた二人は、手をつないで帰り道を歩いた、風が吹き、竜馬の濡れたTシャツの前が冷たく素肌に当たった
「ジェニちゃん、もう寒くなかったらそのシャツ返してくれる?」
「やだ」
「そう・・・」
ほとんどの子供はそうだが、ジェニも自分に対して優しい人ほど素早く見抜き、自分が有利な立場だと知ると容赦がない、ジェニは竜馬のフランネルのシャツが気に入り、その日はずっと着ていた
「やった!マジックとれたよ!ジェニちゃん」
すっかり綺麗になったメルちゃんを、片手でジェニに見せる、マジック液に対する除光液の効果は抜群で、竜馬がティツシュに除光液を浸して、メルちゃんの一本眉と口ひげを綺麗にふき取ると、コントのようにあれほど、悪どかったメルちゃんの人相が本来の可愛らしい顔に戻った
ジェニは瞳をキラキラ輝かせて、奇声をあげて喜んだ、そしてくしゃくしゃの顔をして、メルちゃんをギュっと抱きしめた
「ほんとうだぁ!きれ~い」
ハハッ「ハイタッチだ、ジェニちゃん」
と竜馬はジェニに言って両手を広げて前に出した、驚いたことにジェニは差し出された両手を無視して、いきなり竜馬に抱き着き、腰の周りに腕を回した
「大きいお兄ちゃんサイコー!」
と竜馬のTシャツに顔をひっつけてジェニは言った
突然の抱擁に、竜馬はしばらく動くことが出来ず・・・小さな茶色い頭を見下ろしていた・・・どうしようか迷ったけどジェニの抱きつく力があまりにも強いので、優しく腕をジェニに回した・・・
しがみついたままジェニがニッコリ笑って竜馬を見上げたので、竜馬も微笑み・・・優しくジェニの頭を撫でた
「大きいお兄ちゃん」
「うん?」
「ジェニ、大きいお兄ちゃんが一番好き」
ハハッ「僕もだよ」
竜馬も笑いながら囁いた
「他の誰よりもジェニちゃんが大好きだよ」
。 .:・.。. .。.:・
竜馬は思わず出てしまった言葉に自分でも驚いた、それからはどうしてこんなに仲良くなれてしまったのだろうというぐらい、二人はいつも一緒にいるようになった
。 .:・.。. .。.:・
「コントローラーの↑のボタンとAとBのボタンを一緒に押すと必殺技が出るよ」
「こう?」
「そうそう、もう一回やってみて」
ゲームが出来なくて、てんで豊に相手してもらえないジェニに、竜馬がゲームのコツを教えていると、意外にもジェニは根気よく技を学び、ジェニと同じ年頃の女の子にしては、達人レベルの域に達するようになっていた
最近ではそうやってリビングで竜馬とジェニが二人でゲームをしていたら、豊も入ってくるようになって、いつの間にか二人の後ろのソファーであれこれと口煩く指導してくるようになっていた
竜馬は、豊は不器用なヤツだけど、とっつきにくいだけで、決して思いやりが無いわけでもないと、彼をそう評価していた、豊が言った
「そんな所に隠しアイテムはないよ、西の占い師と話をするんだ、そしたら隠しアイテムの扉が開くよ」
竜馬が驚いて豊に言った
「何でわかったんだ?」
「このゲームを作ったヤツの気持ちになるんだよ、ユーザーが考えそうなシナリオを描いてどうするんだよ!」
もっともらしくゲームの事を語る豊の目は乱々と輝いていた、いつも率直に話してくる豊は、不器用だが実は真っすぐな性格なのかもしれないと竜馬は豊の性格を分析していた、更に豊は語る
「ユーザーの感情を振り回すんだ、夢中にさせるんだよ、とにかく物語を先に進めずにはいられないように、何が何でもラストを見届けたいって思わせるんだ!」
「へぇ・・・」
竜馬は感心した、小学生でこんな風に制作者側の視点で、ゲームをプレイしている子供も珍しい
「もっと聞かせてよ、豊」
へへんっ「しょうがね~な、いいか?良い物語ってのは冒頭が大事だ、よく最初に「死体を転がせ」という言葉があるぐらいだ」
「死体を転がせ?」
竜馬は豊の方に体を向けあぐらをかいた
「何か事件を起こすんだよ、例えば小説なんかでも100ページ目から読むヤツなんかいないだろ?最初でつまらないと思われれば一生読まれないだから、一番最初に事件を起こしてユーザーの感心を一気に引き込む(餌)を撒くんだ」
「フムフム・・・」
「次に「ヘイトを溜める」んだ」
「ヘイトって何だ?」
「(憎しみ)とか(怒り)の感情だよ、よく(ヘイトスピーチ)って言うだろ?物語には必ず主人公を脅かす存在がいるんだ、その敵役に対して、ヘイトを溜めさせるんだよ、敵役が鬼畜であればあるほどいいんだ、みんなソイツがやっつけられるのを期待するだろ」
竜馬はかがみ込み、微笑んでみせた
「なるほど、フリーザとかダースベイダーみたいな感じか?」
「ああ、そうだな、それで最後は「孔雀の羽を広げる」だ」
ハハッ「めちゃくちゃな比喩だな」
竜馬は声をあげて笑った、しかし豊は真剣な顔つきで言った
「何を言うんだ!本当にこの比喩はあるんだよ、いいか?動物園で孔雀を見つけたとするだろ?そうしたら誰もが羽を広げる所を見たいだろ?だからみんないつ羽を広げるかってワクワクしながら孔雀について行くんだよ、みんな羽を広げる所を見たいんだ、言わば一番物語が盛り上がる所さ、そこを見たいからユーザーは長い話について来るんだ」
竜馬は顎を、親指と人差し指で挟んで宙を見た
「そう言えばそうだな・・・この先に何があるんだっ?て思うもんな」
「良い物語の構成はどれもこの「黄金ルール」が当てはまっているものだ」
そう言いながら豊は竜馬の隣に来てコントローラーを持ち、テレビ画面の女ゾンビの大群を見事な必殺技で一掃した、ジェニが横で豊が入って来て応戦してくれたので、キャァキャァ言って喜んでいる
「豊ってさ・・・将来ゲーム関係の仕事についたら?きっとすごくなると思うよ?ほら、ゲームシナリオライターとかさ
「親父の会社はどうすんだよ」
コントローラーをまるで自分の手のように自由自在に操りながら、豊が寂しそうに笑った
「俺は生まれた時から敷かれたレールがあるんだよ」
もしかしたら豊は一郎さんの会社を継ぐつもりなんだろうけど本当は嫌なのかもしれない・・・
竜馬は思った、自分だったら喜んで一郎さんと一緒に仕事をするのに・・・密かに竜馬は願っていた、もしかしたらこのまま一郎さんがこの家に住んでもいいよと言ってくれることを
偶然にもジェニも豊も自分をこんなにも求めてくれている成り行きになったことを、実は心の底で喜んでいたからだ
以外にも神崎家は過ごしやすく、そんな考えをする自分を密かに心の卑しい狭量の人だと認めてもいた
しかし、自分の父親は会社を倒産させて・・・多くの人を不幸にし、さらに先物取引の犯罪まがいの事もやっていた・・・きっと一郎さんも騙していたのかもしれない・・・
生前の父は見栄っ張りで、どこか調子が良かった、そんな父の悪い所を母は目をつぶって改心させようとはしなかった、そして母を乗せた交通事故・・・茂雄おじさんは竜馬にハッキ「自殺」だと言った
茂雄おじさんは竜馬にこう言った
「いいか、竜馬!お前は父さんの様にはなるな、人には常に誠実に生きて行け、そしてお前の事を見捨てず、助けてくれた人達に、恩返しの人生を送れよ、でないとお前の父さんのようになってしまうぞ」
。 .:・.。. .。.:・
言われた時はあまり意味がわからなかったが、分かっていたのは父も母も竜馬の手が届かない所に行ってしまったということだ
そして竜馬は・・・いつの間にかジェニをメロメロに愛してしまっていた・・・しかしそれは誰にもバレないように用心した、犯罪者の息子が、自分の娘に色目を使っていると聞いて喜ぶ親が、どこにいるだろう
なので竜馬はジェニをなんでもない、親戚の子供のように扱うことに極力務めた・・・
。 .:・.。. .。.:・
ある日、竜馬は朝お手伝いさんが作ってくれたサンドイッチの入ったプリキュアのお弁当箱をランチボックスに詰めていた、夕べ、一郎から夏休みの後半は、低学年の学童保育にジェニを行かせてほしいと竜馬に頼んできた
なので竜馬は責任を持って行かせるから、任せてくれと一郎に言った、しかし玄関で、プリキュアのランチボックスを持って、両側に歩くと光るスニーカーを履いた、ジェニが早くも泣いてゴネ出した
「嫌ッ!!行きたくない!!ジェニ、大きいお兄ちゃんとお家にいるっっ!」
困り果てた竜馬がしゃがみ込み、ジェニと目線を合わせて、涙のあとをティツシュで拭いてやる
「ほんのしばらくの辛抱だよ、たった数時間だから・・・授業が無いから、お友達と遊んだり―」
「お友達なんかいらないっっ!!大きいお兄ちゃんといる!」
「ほら・・・お絵描きしたり、みんなでお歌うたったり」
「お絵描きなんか大嫌いっ!!」
泣きじゃくるジェニの両手を、竜馬は握って優しく諭した
「ジェニちゃんが預かり教室に行っている間は、大きいお兄ちゃんは勉強をしないといけないんだよ?僕の仕事は勉強すること、ジェニちゃんの仕事は、預かり教室に行くことだ」
「ジェニ!!お仕事なんか大嫌いっ!パパもずっとお仕事だってお家にいないもん!!」
「そんなこと言ったら、お父さんが悲しむよ・・・」
竜馬は思った・・・この子達が何不自由無く、この大きなお屋敷で快適に暮らせることが、どれほど恵まれたことなのか、寂しい思いをしていても、こうして自分も、彼女達も、飢えも寒さも感じず、学校に行ける事さえも・・・
一郎さんが仕事を頑張って稼いでくれているからだと・・・それがどれほどありがたい事なのか・・・竜馬だってもっと野球を続けたかった・・・
でも、そんなことを小学生の彼女に言っても理解はできないだろう・・・せめて今の竜馬に出来ることは、この子達の面倒を見て、一郎さんを助けて恩返しをすることだ、竜馬は気を取り直して言った
「いいこと思いついた!毎朝「頑張って」のキスをおでこにしてあげる、寂しくなったら僕が君を大好きだってこと、このキスを思い出してよ、すぐに下校の時間になって会えるよ」
そう言うと、竜馬は両手でジェニの頬を挟んでおでこに優しくチュッとキスをした、しばらくジェニは竜馬をじっと見つめていたが・・・涙は止まっているのでホッとした
グス・・・「行ってくる・・・」
「いってらっしゃい!帰ってきたら、今日何をしたか教えてね、描いた絵も見せてくれ!」
立ち上がって竜馬はジェニの手を取ってそっと玄関から出した、ジェニは最初トボトボと足取りも重く歩いていたが・・・やがて任務を遂行しなければいけない兵士のように、ズンズン歩いて去って行った
そしてこの別れの朝の儀式は、その後もずっと続いた・・・
。 .:・.。. .。.:・
ある日、竜馬が寝坊してジェニに「いってらっしゃいのキス」をするのを忘れた日があった
すると正午も近くなってから、ジェニの学童保育の担任の先生から家に電話がかかってきた、先生が言うにはジェニがいつまでも泣いて騒いで手が付けられなくて、竜馬を呼んでいると言うのだ
慌てて竜馬は、一郎に迷惑がかかるのを懸念して、昼休みの学校に駆けつけた、すると、泣きすぎてしゃくりあげ、パニックになって、目が腫れたジェニと教室の入り口で再会した
竜馬は少しうんざりして息を切らし、大人に迷惑をかけたことでイラつきながら、頭に血を上らせて言った
「ジェニちゃん!これはこんなに大騒ぎしないといけないことなのかい?おでこにキスが無くても一日ぐらい頑張れないのか?」
「ダメ!!」
彼女は頑固に竜馬を見つめて泣いていた、強情そうな顔の頬には、涙の痕がついていた、ハァ~と竜馬がジェニの手をとり、ため息をつく
「こっちへおいで」
竜馬はジェニを廊下の隅に連れて行き、そっとジェニのおでこにキスをした
「これで頑張れる?」
「うん」
ジェニはニッコリ笑ってスキップしながら教室に入って行った、竜馬はその時の彼女の中にある自分を求める激しさに驚きを隠せなかった
それほどまでに自分を必要としてくれている人間が・・・
今いったい彼女ほど、自分を必要としてくれる人間が果たしてこの世にいるだろうか・・・
途端に胸が締め付けられるほどの恋慕にかられた
自分はどうかしている・・・自分よりも12歳も年下の小さな少女にこんな気持ちを抱くなんて・・・
それでも彼女の笑顔と存在は・・・親も、家も、全てを無くした思春期の少年にとって・・・
唯一の心の寄り所となった
。 .:・.。. .。
コメント
1件
わあ、今回もすごく温かいエピソードでしたね…!ジェニちゃんとの「おでこキス」の儀式、朝の別れがこんなに大切なものになっているのがもう胸にじんわり来ました。それに豊くんの「黄金ルール」の話、小学生であれだけ物語の構造を理解しているのに驚き。竜馬が自分の過去や父のことを思い出しながらも、それでもジェニに優しく向き合おうとする姿が切なくて、でも美しい。この家族の空気感がたまらないです。次も楽しみにしています!