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「ところで、グルさん……大学……え? いや、その……記憶がないというか……」
モジモジと俯きながら言うクルルを、グルは何も言わずに見つめた。やがて空港に到着し、二人でパスポートを見せる。行く手がないと途方に暮れていると、ふと思い出した。
「日本だ、日本に行こう。今から予約チケットを二人分買いに行けば間に合う」
財布を出して、チケット売り場まで足を運ぶ。クルルは後ろを付いてきながら訊ねた。
「何故アジアに?」
「サーフィーが日本の栃木に行きたいといつか言っていたからな。それに、浦……じゃなくて、友人の出身地だ」
神奈川にももう一つ家があったものの、栃木のほうが良い思い出がある。グルとクルルはチケットを購入してパスポートを見せると時間を確認した。
まだ数時間ある。いつ捕らえられるかわからない。グルは一人だけ恐怖に呑まれた。
「調子、大丈夫ですか? すごく顔色が悪いですよ」
「……」
言われたことさえ無視して耳を澄ませる。背後の気配は多い、だが、一つ奇妙だった。近づいたり、離れたり。此方に寄ろうとしている。
「おい、移動するぞ。今すぐにだ」
「へ? はい」
クルルの二の腕を掴み、すぐ斜め先の椅子まで駆ける。すると、あの気配も気づいてとでも言うように付いてきた。
「ちょっと、何ですか。近いですよ」
ゼロ距離かつ真横。腕は掴んだままであった。それからポケットから電話を取り出すと、組織に繋げる。
「我慢してろ、俺は電話する」
「ああ……はい」
生返事をして首を傾げるクルルであったが、頭が痛み目を瞑る。確実に大切なことを忘れている気がする──それも、命に関わる──。
『いつかやると思ってましたよ』
経済担当の後輩、ペランサが呆れたように言う。滑舌の良いロシア語は母国語であった。グルは裏切ったであろう自分の電話に出た彼に感心して思わず笑みをこぼす。
『すまないな、でも後輩には話していたし上層部の許可は前々から取っていた。だから費用は準備していただろう?』
ロシア語で返事をすると、向こうも負けないように返事をした。
『お陰様でね……あ、コルパイさんって今どこですか?』
『黙秘させてもらう。それより……………やられた。浦に尾行されてる。しかも二人の脳内データはそちらにあるだろう?』
『……ああ、それは…………あの、えっと…………。コープスさんが……持ってて……』
『…………?!』
驚きを隠せず、息を呑む。背後からクスッという笑い声が聞こえ、クルルはそれに振り返った。
『申し訳ございません。ぼくもそれを管理したいと名乗り出たのですが、要らないと断られまして。反社会科の機関を制御したり暴走しています。一部のテロ組織とも手を合わせていまして、そのう。クルルさんたち危険ですよ』
『……そっか、ありがとう。最後に話せたのがお前で良かった……7月27日。電話させてもらうからな』
膝にスマホを置くと、装置を取り出して刃を出す。そして振り上げた。スマホから待てと声をかけられたが、振り下げてスマホを壊す。
バラバラと破片が散ったが、浦の方向にそれを蹴ると、影からすぐに受け取ってくれた。
「何なんですかね、後ろの人」
「赤の他人だ。もうお前と関わりを持つことはないだろう」
最後の言葉が胸につかえたが、クルルは大体のことを察して片付けた。やがて飛行機に乗り、日本に到着させる。
一方、アメリカの本部では全員が黙り込んでいた。
「浦を追放すべきだ、ぼくらもサーフィーさんたちにお世話になった……! あの三人は浦に支配されてた!! そう思いませんか?」
ペランサが机を叩く。周りの部下たちも黙って頷いた。すると、何かが落ちたような音がする。
恐る恐る振り返ると、それはガソリンであった。
ペランサはみるみる青ざめて、その場から急いで逃げる。部下たちは遅れながら逃げた。すると、天井からライターが落とされ火が移る。
その場は大火事となった。
「完全犯罪って本当にあるんですか?」
クルルは窓の外を眺めて、グルに訊ねた。あまりにも突然の質問に疑問を抱いたが、自分なりにと前置きして回答する。
「犯罪は何かの犠牲が必要だ。その犠牲を無視して捕まらなかったとしても、それは完全犯罪と言い切れるのだろうか……と俺は思う」
窓の外にある雲を眺めて、ふと目を閉じる。
「三人で住まないか?」
沈黙を破るように衝撃的な言葉を投げる。グルからしてみると、心臓が張り裂けるような思いだった。
「やっと同居する気になりましたか」
ふっと息を吐いて腕を組む。グルは首を傾げた。
「?」
「やだな、忘れたんですか? 俺とグルさんの仲じゃないですかー!」
手を握られたためにグルは大半のことを察した。ああ、確かこいつは大一からべったりされていたな……と。
「そうか。つまり俺の周りにまともな人間は居ないということだ」
諦めたように力を抜く。クルルは口角を下げて周りを睨みつけた。
(居るな……しつこい奴だ)
「やられた、データ盗まれた」
数分前、吉木はスマホを覗いて溜め息をついた。データやメモリー。端から端まで消えている。機密的な経済の仕組み。それら機関で使用した金額。金……。そして隠しカメラのデータ。
誰が盗んだか検討はついていた。そう、彼だった。
スマホの中に残された唯一のロゴ。リンゴから小さな丸い手足が生えたそのキャラを見て、吉木は苦く笑った。
「グルさん。飲み物は控えませんか」
相変わらず手を離さずに言い放つ。目を閉じて開こうとはしなかった。
「何故だ」
意図を探ろうと目を向ける。クルルはゆっくりと目を開いた。
「お腹を壊しやすいので」
ジッと目を見つめる。青い瞳は影で黒くなり、グル以外は映っていなかった。グルはハッとしてドイツ語で話す。
「まさか、分かっているのか」
「……ええ。演技してたし、データも戻せましたよ」
同じ言語で返事をすると、自慢げに笑みをこぼす。
「しかしサーフィーの記憶は戻したくない。アイツにはしんどすぎる記憶です。無くして良いものだ……けど俺は知れて良かった……彼がすぐそこにいることもおわかりでしょう」
低く響いたドイツ語は周囲には聞こえてない。ただ一人、吉木はその言葉を聞き逃さなかった。
「飲み物どうぞ」
「いりません」
否定してその場から動かない。十時間ほど経過すれば、東京に着いた。
「サーフィーにまずは連絡をとりましょう」
クルルはスマホを取り出して電話をかけた。プルルと呼出音が三度ほど鳴ると聞き慣れた声がする。
『今どこ?』
『東京』
淡々と答える。サーフィーは『え!』と大声を出した。
『俺、今栃木。日光だよ!! だって日光東照宮が見えるもん! 』
『そっち行くから待ってろ、でも休ませてくれぇ!』
息を吐くように言葉を捨てて、電話を切る。それから日光東照宮陽明門の右集合というメールを送信した。
「グルさ〜ん、新宿から日光だと新幹線ありますよね」
「ある」
「麦茶飲んで行きましょ」
二の腕を掴むと、コンビニまで引っ張るように連れて行かれる。二人は麦茶を購入してぐいっと飲んだ。乾いた喉にはオアシスのようにしみる。爽快感に身を包まれ、頭も働くようになった。
「で、お前はどうやってデータを?」
空になったペットボトルを捨てる。クルルは腰を下ろして声を出して笑った。
「ハッキングですよ。詐欺です。あの組織を金の交渉相手にして全額とデータ盗ってやりました。難しいけど一年掛けてバレずにやったんです。褒めて」
目をキラキラと輝かせて上目遣いする。グルは適当に頭を撫でてやると手を離す。
「お前は本当に偉いな。それで?」
「えへへ、グルさんの体には超小型の爆弾が仕掛けられてて、すぐにでも起動できます」
指を一本立てる。グルは驚愕したように口を開いたが、閉じて冷静になった。
「……は? いや…………そうか。で?」
「サーフィーは黒です」
突然突きつけられた事実に空気が凍る。グルも流石に表情が歪んだ。
「吉木に洗脳されてるんですよ。でも、安心して下さい。全部消しました」
自慢気に口角を上げる。グルはそれに触れずに焦れたように言う。
「その他は」
「とある大統領の妻を始末したのは吉木です」
「へー」
顎を引いて煙草を咥える。クルルも一本分けてもらい二人で吸った。
「あとペランサ君は今現在火災から逃れることができて、ドイツに居ます」
グルは鼻で笑うと煙を吐いた。
「お見事だな」
それに苛立ったかのようにクルルが血相を変える。ちぇっと舌打ちをした。
「奴を褒めないでくださいよ、イライラするじゃないですか。仕込んだのは俺なのに」
煙草を消すと、それを捨てた。グルは鼻で笑いつつも呆れた様子を見せた。
「躾けたのはサーフィーだろう」
「暴力以外の方法で俺も躾けました。女も男も」
その言葉には権力的なものを感じさせる。よく考えたら彼も幹部だ。それなりの力は充分にあった。
「酷いやつだ」
思わず呟く。クルルは思わず吹き出した。
「グルさんだって散々酷いことしたでしょ?」
その言葉は、グルの心を締め付ける要因となった。思わず動きが鈍くなるものの、冷静さで誤魔化してその場から離れる。
クルルは考えが読めないなと頭を掻いた。
コメント
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裏話で更によく分からなくなりました🫠(思考停止)(三人称だからこそって感じだぁ()) 唯一ロゴに癒されました☺️() もう君たち栃木で一生平和に暮らしてろよッ! 吉木はヤバめの腹痛で病院送りになったって事にしてさぁッ!!😭((必死な訴え))
裏話