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「椿季は、怖がりだったけどかっこいいやつだった。」
「…急になんだよ」
「口調だってもう少し穏やかだったし、何より誰かのために気付いたら体が動いてるみたいなやつだった。 本当にかっこいいやつだったのに、どうして変わっちゃったの? 」
椿季は目を逸らし不服な顔をしている。
「…今の俺は、かっこ悪いか?」
ゾクリと背筋が凍った、それくらいの気迫だ。
「かっこ悪いよ」
けれど陽平は怯みもしない。
「本当にかっこ悪い、前までの椿季は、どんなに怖くても友達のためなら…大切な人のためなら立ち向かえるやつだった!変わって欲しくなかったッ! 」
「ッ…それはお前らが子供なんだよ。だから気づかないんだアイツらのことに。あの家族は絶対に普通じゃない!」
子供、そんな言葉都合がよすぎる。電車やバスの料金は大人なくせに、大人たちはまだぼくらのことを子供として扱う。
だったらきっとぼくらは子供なんだ、どんなに体が成長していても、結局ぼくらは子供。
でも
「子供で何が悪いんだよッ!」
無意識だった、心で思ってたことが不意に漏れ出て、ぼくは初めて二人の喧嘩に乱入した。
「…そうだよ、子供だよ俺らは」
ぼくの子供というワードに陽平は乗ってきた。そしてさっきの荒々しさとは違い優しく優しく椿季の襟を掴み返した。
「分からないよ、俺椿季と薙ノ太みたいに察し良くないし、輝斗のことも全然気づけなかった。でも、俺たちまだまだ子供でしょ?なのに、椿季はなんでそんなに一人で抱え込もうとするの?椿季だって…」
そう言いかけた時椿季の頬に涙が零れた
「椿季だって俺たちと同じただの子供でしょ?」
「はぁ…そうだな。」
陽平の嘔吐く声は椿季のそんな言葉をかき消しそうだった。
「俺は昔からかっこ悪いままだ、お前らより断然俺の方が子供だ。」
だらんと椿季の腕が垂れ下がる。見るからに力の入っていない腕は微かに震えている。
「周りが少しづつ大人になっていく姿を見て、勝手に焦って、そんな中輝斗の違和感に気づいて、それで大人たちと同じように見ないフリして。自分は大人だって言い聞かせて。そんなことしたって結局はただの臆病な子供だよ。中途半端にかっこ悪いのが今の俺だよ。」
椿季の声には確かな懺悔が含まれていた。
「…かっこ悪いよ」
「分かってる」
「卑怯者…」
「分かってる」
「弱虫…」
「分かってる」
「ビビり…」
「分かってる」
「ッ…かっこ悪い」
「分かってる…俺が一番分かってるよ」
そういわれると陽平は椿季を思いっきり抱きしめた。
「そんなことないよッ!かっこいいよ椿季は、全部全部他人任せにしないで自分で背負って、でもダメだよ!から回ったじゃん!一人で抱え込まないでよ!
たよってよ…」
「ッ…ごめん、ごめん」
ぐすぐずで謝りながら椿季の放たれた腕は一生懸命涙を拭っている。
「俺もッ輝斗のために少しでも何かしたい、罪滅ぼしなんて言わないからッ最後は友達としてそばいにたいッ!」
「「じゃあ行こう!椿季も一緒に!」」
そう声を合わせて言うと椿季は驚いたように聞いてきた。
「いいのか?迷惑かけるぞ、あんなこと言ったんだぞ?
輝斗のこと見て見ぬフリしたんだぞ…」
「うん、それでもぼくらは四人でいたいでしょ?」
「…嗚呼!」
そうしてぼくら四人の旅出は決まった。良かった四人で友達でいられて。
ぼくは幸せ者だ
椿季と陽平を玄関まで見送り今ぼくは悠太兄さんの部屋の前にいる。
それは椿季の発言がきっかけだった。
「椿季落ち着いた?」
「おう、悪ぃ」
「喧嘩してたらもう帰る時間だね、詳しいことはまた明日決めよう」
そんな会話をする2人の目にはくっきり赤い跡ができている。
「うん、じゃあ二人とも明日もココに来て」
「「了解」」
約束を取り付けた後二人は帰る準備を始めた、しかしその途中で椿季が言ってきた。
「あと薙ノ太、一つだけ頼んでもいいか?」
「ん?何?できることならするよ?」
「協力者が欲しい、出来れば部長と左文郎さんがいい」
「協力者って何の?」
「決まってんだろ?冒険のだよ。」
そして今に至る、うちの吹奏楽部の部長はぼくと同じく木ノ薗園で暮らす、条野悠太だ。
かっこよくて誰もが憧れる部長…だが家だと意外とだらしなく今のように帰ったら夕飯まで部屋で寝てしまう、時々ではあるがこのまま朝まで寝てしまう、
そう、それが恐らく今日だ。
「悠太兄さん?起きて」
ゆさゆさと悠太兄さんの脇腹を揺らすがんーと情けない声を上げるだけだ。
「悠太兄さん、お願い、どうしても聞いて欲しいことがあるの。」
「んー分かったよなぎた、起きるから待って……」
伸びをして起き上がるまでの30秒弱、ぼくは悠太兄さんをまっすぐ見つめた。
「ふぁあ、どーしたなぎた、そんな重要なこと?」
「うん、お願いがあるの…」
そしてぼくは事の経緯を包み隠さず話した。
「要するに部長である僕にお前らの部活サボりを手伝えと?」
気づけばぼくは悠太兄さんに正座させられていた、
「はい…」
萎縮しながらも答えると悠太兄さんはヘラりと笑いだし、ぼくの髪をワシャワシャ撫でた。
「そんな怯えんなよ。まぁできるだけやってやるよ。上手くいくから安心しとけ」
そうニコリと笑う悠太兄さんに安心しぼくは撫でられる手に体を預けた。
「友達は大切にしないとな。」