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それから私は鼻につくテレピンオイルの臭いに誘われ油画制作室の前を彷徨うろつくようになった。けれど井浦教授のベージュの帽子はイーゼルとキャンバスの林の向こうに見え隠れするだけでその顔を見る事は叶わなかった。


(今日も収穫なし、会いたかったなぁ)


そんな私の夏季休暇までに提出しなければならない課題の進捗しんちょく状況はかなり危うかった。


(仕方がない、頑張るか)


私は涼を求めて自動販売機の前に立った。


(ひゃ、100円玉)


硬貨はジーンズのポケットの中、お目当ての銀色を探す事に四苦八苦した。その姿は穴倉あなぐらに頭を突っ込む野鼠のねずみだったと思う。


「あ、すみません」


背後に人の気配を感じその場を退いた。


ぴーーがちゃん


「ひゃっ!」


左頬の冷たさに飛び上がると目の前にオレンジジュースの缶がぶら下がっていた。視線を上に見遣るとベージュのサファリベスト、白いTシャツ、銀縁の丸眼鏡、心臓が大きく跳ねた。


「はい、これ前に飲んでいたでしょう」

「はい、飲んでいました」


缶を受け取る時に指先が触れた。


「これは私からの賄賂わいろです」

「賄賂」


眼鏡の下には切れ長の奥二重、初めて間近で見た気怠そうな笑顔。


「私の絵のモデルになって下さい」

「モデル」

「裸婦らふはいかがですか、涼しいですよ」

「ヌードはお断りです」

「ちぇっ」


45歳は口を尖らせた。


「そうだ、あなたの名前を教えて下さい」

「デザインビジネスコースの田上七瀬です」

「七瀬、七瀬ちゃん」

「いきなりちゃん呼びですか」

「私は生徒のみなさんを、ちゃん、くんで呼んでいます」


ちょっと残念な心持ちになった。


「教授の名前を教えて下さい」

「油画コースの」

「それは知っています」

「井浦惣一郎45歳です」

「惣一郎さん」

「はい」


そこで惣一郎さんは生徒に呼ばれて制作室へと戻って行った。私の右手の人差し指には赤い顔料が付いていた。


木陰からいつも奥さまがこちらを見ていました

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