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檻のなかの君へ
――水君視点――
好きだと思ったのは、いつだったろうか。
白ちゃんの笑い声が、誰か他の人に向けられたときだったかもしれない。僕の隣で、楽しそうに誰かと喋る君を見て、心の奥がずきりと痛んだ。
ああ、君は、僕だけのものじゃないんだ。
その瞬間、決まってしまったんだと思う。
僕はこの世界から、君を切り離すことにした。
気がついたときには、白ちゃんは僕の用意した部屋の中で目を覚ましていた。何もない小さな部屋。外の光も時計もない、静かで冷たい空間だった。
「……おい、水君、なんやこれ」
眠気と警戒が混ざった声だった。
動こうとして、手足が拘束されていることに気づく。ぎしりとベルトが軋んだ。
「……なんで、縛られてんねん……なあ、水君……?」
「白ちゃん。ここはね、もう外とは切り離された場所なんだよ。君はもう、誰にも見られない。僕だけが見てる。安心していい」
「は……? 意味わからんて。お前、ほんまに正気か?」
僕は微笑んだ。
「うん、正気だよ。君が思っているよりもずっと、真っ直ぐに、白ちゃんだけを見てる。これまでも、これからも、ずっとね」
最初の数日は、反抗が激しかった。
怒鳴り声。罵倒。泣き叫ぶような声。
僕はそれを全部、丁寧に受け止めて、何ひとつ手を出さずに、ただ生活を制御していった。
水は、時間を決めないと渡さない。
食事は、命令をこなさなければ与えない。
眠りたいときに音を流し、部屋の明かりをつけ続けた。
僕に「お願い」しない限り、白ちゃんは何も得られない。
三日目の夜、白ちゃんの喉が掠れきっていた。目の下には濃い影。唇は乾いてひび割れている。いつも威勢のいい声が、蚊の鳴くように小さかった。
「……水君……水、……頼むわ……ちょっとでええから」
僕は笑った。それは決して嘲るものではない、心の底から嬉しさが滲む微笑みだった。
「よく言えたね、白ちゃん。偉いね」
手でコップを持たせてやると、白ちゃんの手が震えていた。必死に飲み下すその姿に、僕の中の欲望が、静かに満たされていく。
抵抗の目は、まだ消えていなかった。
だから僕は、もう少し“形”を変えて試すことにした。
拘束を解いた後の白ちゃんを、僕は何も言わず、何も着せずに、ただ白い蛍光灯の下に立たせた。
部屋の端に座って、僕は静かに見つめていた。
「なぁ……水君……やめぇや……なんなんや、これ……!」
「恥ずかしい? でも、もう誰も見てないよ。僕だけしか、君を見られない」
白ちゃんの腕が震え、声が詰まる。怒鳴ろうとしたけれど、喉がそれを許さなかった。
その瞬間の表情が、あまりにも美しかった。
壊れていく、壊されていくということの、あまりにも静かな真実が、あの目の奥にあった。
その夜から、白ちゃんはほとんど僕に逆らわなくなった。
命令に対する反応が早くなり、「お願い」を口にする頻度が増えた。
それが“適応”だとわかっていながらも、どこかで僕は、その変化を肯定していた。
――ほら、やっぱり、白ちゃんは僕のものになる運命だったんだ。
ある晩、僕はそっと白ちゃんに訊いた。
「今の君は、僕のもの?」
白ちゃんは、少しだけ間を置いて、首を小さく縦に振った。
「……うん。僕は、水君のもんや」
僕はその答えに、深く満たされた。
――白 視点――
最初は、なんの冗談か思った。
いくらなんでも、こんなん現実ちゃうやろって。
でも、どれだけ喚いても、扉は開かんかった。
窓もない。時計もない。眠たくても、音が止まらへん。いつやっても電気は消えへん。
水君は、笑いながら壊してくる。
「白ちゃん、お願いって言ってくれたら、水、あげるよ」
……頭が回らへん。
喉が痛い。腹も減った。泣いてもしゃあない。頼るしかないんや。
最初は、自分でも信じられへんかった。
「……水君……お願い、やから……水、ちょうだい……」
それを口にした瞬間、何かが剥がれ落ちる音が、心の奥でした。
時間の感覚がなくなると、感情も薄れていった。
怒る元気もない。喚く体力もない。
ただ生きるために、「水君の言うことを聞く」って選択肢しか、残ってへんくなった。
足音が聞こえるたび、背筋が勝手に伸びる。
水君の手が伸びるたび、体がすくむ。
それでも、抵抗しようとは思わんようになってた。
「白ちゃん、怖い?」
「……ちょっとだけ」
「でも逃げないね」
「……逃げても、ムダやもん」
それが答えやった。
逃げ道は、最初からなかったんや。
僕は水君の言葉を待つ。
命令を待って、それに従う。それが“安全”やから。
「白ちゃん、今の君は、僕のもの?」
「……うん。僕は、水君のもんや」
口が勝手に動く。
ほんまは、泣きたいはずやのに、涙すら出てこーへん。
膝の上で、僕は寄りかかってた。
水君の指が頬に触れるたび、少しだけ体が緩む。
「好きだよ、白ちゃん。やっと僕のものになってくれたね」
「……うん……もう、ええよ……水君のもんやから……」
何を言うても、もう変わらへん。
考えるのも、疲れた。感情も、痛みも、なくなってもうた。
せやから、僕はただ、従う。
それだけで、やっと楽になれたから。
【END:精神崩壊・服従完了】
コメント
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う゛ぅ…性癖の暴走がとまらん