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ルイスだ。シャーリィが尋問してる奴の態度が怪しいので、俺は声をかけた。
「どうしたんです?ルイ」
シャーリィは可愛らしく首を傾げるだけだ。可愛い。
……いや、今はそれどころじゃない。
「なあ、アンタ。やけに冷静じゃないか。俺達みたいなガキに反撃されて、悔しそうにもしてない」
そう、こいつがあまりにも冷静なのが気になったんだ。普通は今黙らせた奴みたいに吠えるもんだが。
確かに大物なら分かるけど、大物がこんな町中で女に手を出そうなんてケチな真似をするとは思えねぇ。
「観念しただけさ」
「まだなにもしてないぜ?少なくともアンタはシャーリィに玉を蹴りあげられただけだ」
「思い出したくもない感触を思い出させないでください」
「後で俺の玉でも握らせてやるよ」
「……何を言ってるんですか」
真っ赤になりやがって。
「あんまりにもアンタが冷静なんでな、気になるんだよ。しかも銀貨二枚だって?随分と安いじゃねぇか。それなりに騒げば直ぐに無くなる金だ」
普通なら金貨くらいは要求するだろうな。
「……何が言いたいんだ?兄ちゃん」
「背中見せてみろよ、俺の勘違いなら銀貨一枚を追加するさ」
『エルダス・ファミリー』は赤い鉢巻き以外にも、背中に大きな蜥蜴の刺青を彫ってる。こいつは忠誠の証と誇りらしい。下らねぇな。
「……」
「どうした?さっさと背中を見せてくれよ。間違ってたら詫び金をちゃんと払うからさ」
「ははっ、悪いな兄ちゃん。昼間っから野郎相手に脱ぐ趣味はないなぁ」
思った通り渋りやがったな。
「そっか、なら仕方ないな。アスカ!」
後ろに回り込んでいたアスカが短剣を取り出すのが見えた。察しが良くて助かるぜ。
「……任せる」
「おいやめろ!」
ビリビリッッっとアスカの奴は野郎の服を短剣で斬り裂いた。
「どうだ?」
「……これ、蜥蜴?シャーリィ」
「見せてください……ふむ、蜥蜴ですね。ルイ、これは?」
後ろに回ったシャーリィが確認してくれたみたいだな。
「『エルダス・ファミリー』の一員だって証さ。エルダスの奴はファミリーの結束を誓わせるために刺青を彫らせるんだとさ」
そんな奴が内部競争を煽りまくった結果が今の『エルダス・ファミリー』なんだろうけどな。
「では、先ほどの情報は?」
「嘘だろうな。罠にかけようとしてたんじゃねぇか?」
「……私としたことが、とんだ間抜けですね」
確かにシャーリィらしくない性急さだ。何を焦ってるのか知らねぇけど、それを支えるのが俺の役目だな。
「最近上手くいきすぎてたからな、気が緩んでも仕方ねぇさ」
「……こいつ、敵?」
アスカの奴が短剣を押し付けながら聞いてきた。
「ああ、しかも俺達を嵌めようとしたクズだ」
「ちっ!」
「……危うくまた皆を危険な状況へ追い込むところでした。さて、話していただきましょうか」
シャーリィの奴がニッコリ笑いやがった。
「殺すなら殺せ!けどな!お前らは終わりなんだよ!」
「なんだと?」
「バンダレスの兄貴はバカだから、お前らの策略に乗るだろうがな!マクガラスの兄貴はバカじゃねぇんだ!」
「マクガラスだと?」
「もう一人の幹部でしたか。それに、この口ぶりだと私達が来ることを予測していたと?」
「お前らが侵入してくるのは想定済みなんだよ!俺を殺しても、もう遅い!てめえらを見付けたことは仲間全員に知らせてあるからな!」
ちっ、やっぱり罠だったか!農園から俺達が出てくるのを待ってやがったな!
「マクガラスはバンダレスを囮にして私達を誘い出したと」
「それ以上は知らねぇがな!どんなに拷問しても意味はないぜ!知らねぇんだからな!」
「つまり、てめえは捨てゴマってことだな?オッサン」
「……あ?」
キョトンとしてんじゃねぇよ。
「だってお前、詳しい話を聞かされてないんだろ?ただ誘い出せって言われたんだろ?つまりだよ、オッサンが死んでも誰も気にもしねぇって事さ」
「なっ!?」
「残念だったな、ペラペラ喋ってくれてありがとよ。俺達今から逃げるからよ」
「なに言ってやがる!?」
「罠だと知りながらわざわざ十六番街に残る理由があるとでも?たぶん包囲されているのでしょうが、脱出を目指すなら活路はあります。情報提供ありがとうございます」
「おい待て!」
「調子に乗って内情まで話してくれてありがとよ。お礼として殺さずにおいてやるよ」
「アスカ、いきますよ」
「……ん、わかった」
「おい待て!待てよ!今のは!おい!」
俺達はバカを置いてその場を離れた。もう一人?いつの間にかアスカが始末してたよ。仕事が早くてなによりだ。
「どうする?網を張られてたぞ」
「作戦は失敗、マクガラスに対する警戒を怠っていました。連携を取るとは思いませんでしたが、まさか囮に使うなんて」
「……何人くらい居る?」
「ラメルさんの情報を信じるならば、百人弱は十六番街に残る筈。それ全てが待ち構えていると考えると不利ですね。しかも私たちには地の利がない」
「なら逃げるか」
「今夜の集合で皆さんに周知して夜の内に撤退します。ルイが居なかったら策に嵌まるところでした。それもこんな初歩的な策に」
「だから気にすんなって、ちょっと気が緩んだだけだ。俺達は皆生きてる。シスター、ベルさん、爺さんだってバカみたいに強いんだ。無事だよ」
ここでシャーリィを落ち込ませるのはまずい。こいつこう見えて結構引きずることがあるからな。
「だと良いのですが……慢心ですね。相手を何処か楽な相手だと見なしていました。それが間違いであると気付かずに、こんな作戦を……いや、ごめんなさい。落ち込んでいる暇はありませんね」
「そうだよ、次を考えるのがシャーリィの仕事だろ?俺にそんなのを期待すんなよ」
そういうのはシャーリィの仕事だ。俺はそのために身体を張るのが仕事だ。
「分かってますよ、ルイ。夜まで身を隠して集合場所で皆さんと落ち合いましょう」
「……じゃあ、作戦は中止にするの?」
「そうです、アスカ。これ迄のように、農園に立て籠りますよ。相手が痺れを切らせるその時までね」
結局俺達は攻めるより守る方が得意なんだ。相手の有利な立場で戦う必要もないよな。
俺達は身を隠しながら夜を待って、集合場所にしてる十六番街の外れにある廃れたバーに来た。念のためアスカとシャーリィは充分に休ませてある。何かあっても良いようにな。
そしてその日。シスター、ベルさん、爺さんはバーに来ることはなかったんだ。どれだけ待っても音沙汰無しで、しかも外にはたくさんの気配。
……シャーリィじゃないが、この世界は本当にクソッタレだよ。