テラーノベル
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「上皇派筆頭貴族の公爵などは、昔は伝統を重んじる厳格な人だった。他の貴族たちも、それぞれ個性や性格の差はあれど、爵位や家名に誇りを持つ者たちばかりだったはずだ。少なくとも、子供の頃はそういう印象を抱いていた。……しかし父上の症状が進むにつれ、みんな少しずつどこかおかしくなっていった」
「その状態は、先々代、もっと前からずっと続いてきたのですよね? 成長の途中で性格を歪めてしまう感じなのでしょうか?」
質問すると、彼は小さく頷く。
「若い者なら、生まれてからどう育っていくかによって左右される。良い両親に導かれ、良い友人に恵まれたなら、魔石に支配されるこの帝都でも自分なりの正義を守っていけるだろう。多少、負の感情を増幅される事はあるかもしれないが、己の意志で抑え込む事は可能だ。……しかし、子供の頃から愛情という名目で好き放題に育てられた者は、欲望に歯止めを掛ける事を知らないから、魔石の影響を受けやすいと思う」
アルフォンス様は私の手を握り、指をスリスリと撫でながら続ける。
「生まれた時から濃度の濃い悪意に晒されているというより、ピュアな状態で生まれ、負の感情を持つごとに、魔石の魔力によって悪意を加速させられていく感じだ。適性を持つ者ほど影響を受けやすく、同じ思想の者が集っていく。……そして自分たちにとって都合の悪い政策を採る俺をよってたかって非難し、退位に追い込もうとしている状態だ」
「魔石の影響さえなくなれば、彼らも我に返りますか?」
「……父上はいまだ〝気難しい人〟だ。しかし指輪をつけていた本人だから、他の者と状態を比べるのは少し違う。地下の魔石はああやって厳重に封印しているから、地上で生活していて影響を受けるには、この帝都で長く暮らしていなければならない。その意味では、一時的に客や行商で帝都を訪れている者は、まったく影響を受けていない。魔石鉱山の採掘現場でも、鉱山に入ってすぐ魔石酔いする人はいないだろう? それと同じで、長い期間魔石の放つ波動を受け続けて影響を受ける……と考えていい」
「そうですか……」
私は呟くように返事をし、先日からずっと思っていた事を口にした。
「……アルフォンス様、私、試してみたい事があるんです」
「何だ?」
私はある想いを胸に、ギュッと彼の手を握り返した。
**
翌日の夜、私とアルフォンス様はまた隠し通路を使って地下へ潜った。
五つの扉を開いて魔石の前に立った私は、ポケットに入れていたケースから針を出し、インビジブルハンドで摘まむ。
「本当に大丈夫だろうか?」
アルフォンス様は不安そうな表情をする。
昨晩、私が言った『試してみたい事』とは、精神感応を切ったインビジブルハンドで魔石をなんとかできないだろうか、という提案だった。
悪意も何も籠もっていない見えない手なら、もしかしたら……、と希望を抱いたのだ。
「もしも反射されても、針で少し傷つけるぐらいなら大丈夫です」
私はそう言って針を魔石に近づけていく。
「インビジブルハンドの精神感応を切ると、なんの意思も持たない純粋な物理攻撃になるのです。……言ってしまうと、強風でバケツが飛んで頭に当たる感じです」
「なるほど」
アルフォンス様は納得した顔をし、頷く。
「……という事で、風が吹いて魔石に針が当たってしまったという体でやってみます」
私はインビジブルハンドを動かし、針で魔石を少し傷つけた。
アルフォンス様は緊張した表情で、私と魔石を見比べている。
けれどチクチク刺したあとに少し引っ掻いてみても何も起こらないのを見て目を見開いた。
「……いける、……のか?」
私は彼の目に希望の光が宿ったのを見て、小さく頷いてみせる。
「少しずつ、様子を見ながら与える刺激を大きくしてみます」
私はインビジブルハンドで拳を作り、割と強めにどついてみる。
次第に与える力を大きくすると周囲にガンッガンッと激しい音が響いたけれど、私はまったくカウンター攻撃を受けていなかった。
――やれる。
勝機を見いだした私は、敵意や闘争心を高めないように、努めて平常心でインビジブルハンドでパンチを繰り出し続けた。
見えない手を増やし、力を込めてドドドドド……と連打していると、次第に巨大な魔石にヒビが入り始める。
(いける! やれる!)
そう思った時――。
《やめろおぉぉおおおおぉっ!!》
突然、後方から低く禍々しい男の声がする。
驚いて振り向くと、レティが手に刃の黒い短剣を持って私に突進してくるところだった。
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