おばさん、どうしちゃたの?
今まで以上に口調が荒々しくなってる。
「理仁さんに迷惑かけないで下さい。お願い」
「いくらだ? いくら用意してくれる?」
「お望み通りの金額にしましょう。ただし、念書はきっちり書いていただきます。約束は守っていただきます」
「わかってるよ。じゃあ、1億」
「なっ、何を!」
思わず大声が出た。
「やめなさい!」
「えっ! おじさん!?」
突然、なぜかおじさんまで現れた。
いったいどうなってるの?
「あんた。何しに!」
「お前の後をつけてきたんだ」
「は?」
「もうやめなさい。みっともないだろ」
おじさんの、こんなにはっきりとした態度、初めてみた。あまりの迫力に驚く。
「双葉ちゃん。常磐さん。申し訳ない。私達は何も求めませんから、どうぞお幸せに」
「ちょっと勝手なことを言わないでよ! あなたに何がわかるの? 私はずっと姉さんに苦しめられてきたのよ。お金をもらったって消えない」
おばさんが狂ったように叫んだ。
「お前のたった1人の姉さんじゃないか」
「……」
「双葉ちゃん。私はね、君のご両親にものすごくお世話になったんだよ。仕事がなかなか上手くいかなかった時、お金を貸してくれた。他にも色々、助けてもらったんだ」
「そんなことが……」
「ああ。双葉ちゃんのご両親、特に義姉さんは私達夫婦を支えようとしてくれてた」
「あ、あなたにはそうだったかもしれない。でも私は……ずっと嫌いだった。あなた、姉さんを好きだったんでしょ? 私にはわかってたのよ」
「まさか! そんな感情は無い。あるわけないだろ?」
「今さら言い訳しなくていいわ!」
「言い訳なんかじゃない。本当に……私は自分の家族が大事だった。なのに、お前やもみじは、人を恨むことに一生懸命で。情けないけど、俺の力ではどうすることもできなかった。気づいたら、何もかも諦めていたんだ。でも、もうやめよう。これからは自分達が幸せになる方法を考えよう。家族3人仲良く生きていきたいんだ」
「おじさん……」
「悪かったな。ずっと双葉ちゃんの味方になってやれなくて。つらい思いをさせてすまなかった。情けない大人で……本当にごめん」
長い間一緒にいたのに知らなかった事実。
でも、お母さん達がおじさん達の力になってたことがわかって良かった。
おじさんは変われた。
今のおじさんがいたら、きっと……おばさんももみじちゃんも大丈夫だよね。
「これから、お2人で、もみじちゃんのことをしっかり守ってあげてください。私にとって、もみじちゃんは大切ないとこだから」
「ありがとう、双葉ちゃん。少しずつ前を向いていくよ。じゃあ、失礼します。常磐さん、双葉ちゃんのことをよろしくお願いします」
「任せて下さい。必ず幸せにしますから、安心して下さい」
「ありがとうございます。さあ、いくよ。家に帰ろう」
おじさんに支えられ、おばさんは肩を小さく丸めて泣いていた。ずっとお母さんを恨みながら生きるしかなかった悲しみや苦しみ。今は、早くそこから抜け出してほしいと願う。
そんな風に優しい気持ちになれるのは、すぐ隣に理仁さんがいてくれるから。
「ごめんなさい、理仁さん。おばさんを許してあげて下さい」
「もちろんだ。双葉が許した時点で俺は何も思わない。でも、双葉にとって良くない相手なら、それが誰であろうと俺ははっきり言わせてもらう」
この確かな包容力。
こんなにも穏やかな気持ちにさせてもらえて、心から感謝が溢れる。
「ありがとうございます。本当に……嬉しいです」
私達は、部屋に戻るため、エレベーターに乗り込んだ。
「家族はとても難しい。俺も父さんとケンカもする。だけど、あの人を尊敬してやまない。大切だけど、上手くいかないこともあるんだ。でも……俺は、双葉と結仁には思いっきり愛を注ぎたい」
「嬉しいです。私は本当に幸せです。理仁さんにはその何倍も愛をお返ししたいと思います」
「じゃあ、俺はその倍だ」
「じゃあ、私はその100倍にします」
「お互い譲らないな」
顔を見合わせて笑う。
「どこまでも果てしない愛を君に」
「理仁さん……」
手を繋ぐ2人。
いつまでもこんな日が続いてほしい。
年齢を重ねておじいちゃんとおばあちゃんになっても「幸せ」だと感じていたい。
とてつもなく大きな愛情をくれる理仁さんを、私も生涯愛し続けると、深く心に誓った。
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