コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
何も無くなった。リムルから貰ったオニルも、親から貰った髪も、ギィにから貰った翼も。なんにもなくなった。
オニルとはお別れをした。
翼は二度撃ち抜かれ、穴が空き歪な形なった。
髪は切り落としてしまった。
でも私はそれ以上の物を奪った。
小さな国に住まう人々の生活、幸せ、命。全てを奪った。
そして、何も残らなかった。
血でズンズンと重くなる服。
皮膚に血が飛び散る感覚。
恐怖と、怒りが混じる叫び声。
全ての感覚を私は鮮明に覚えている。
きっとこれは私への罰で、これからも一生背負わなきゃならない。
もう、私は人と仲良くなんてできない。
私自身も私の行いを許すことはない。
ギィ「夢」
低く落ち着く声がする。
声のする方を向くと、こちらを上から見下ろす赤い炎がいた。
ギィ「体調はどうだ?」
私は今体調を崩している。
オニルが居なくなったことによって今まで食べられていた魔素が余り、体がそれに慣れるまで不調が続くそうだ。
普段より不安定な精神状態と、魔素が余ることによる暴走を危惧し、一旦リムルの街から離れ、白氷宮に滞在することになった。
リムルの街で見るギィよりも一面真っ白で冷たい白氷宮の方がギィの髪と瞳が映え、より存在感が増す。
夢「まだ全身痛い。耐性が発動しない…」
ギィ「その割に平気そうだな。」
夢「私への罰だと思ったら、こんな痛み平気だよ。」
ギィ「…」
なにか不味いことを言っただろうか、ギィの表情が歪む。そのまま手を私の頭に触れて、短くなった髪の間を優しくすり抜けながら撫でた。長かった頃は髪の先まで手ぐしで撫でてくれたっけ。
夢「ギィ、手冷たいね」
ギィ「お前とは違ってな」
夢「ギィの手、気持ちいい」
気がつくと私は意識を手放しかけていた。
ギィ「夢、俺は少し離れるがおとなしく寝ておけよ」
そう聞こえたのを最後に深い眠りについた。
何時間、寝ていたのだろう。体は汗でびっしょりだった。さっきよりも体がしんどい。頭も首も、腰も、悲鳴をあげていた。「ギィ…」と呼んでみたが近くにいる気配はしない。寂しい。暑い。あのギィの冷たく、優しい手が欲しい。そう思った。
気がつくと部屋のドアの前に立っていた。氷でできた扉。氷でできた床、天井全て氷に囲まれている。床から冷たい感触が伝わってくる。扉から冷気が顔に伝わってくる。「うぅっ」と自分の声がしたかと思うと、床が天井になるかのような勢いで視界がぐるりと回った。その途端、先程まで足からしか伝わってこなかった感触が、顔から、手から、背中からも感じる。
苦しい、寂しい、痛い
リムルが夢のことを心配していた。だから現状報告と、夢の薬について話に夢から離れた。ざっと1時間経たないくらいだろうか。それくらい短い時間だったはずなのに…。
夢の部屋のドアを開けようとすると、扉のすぐ前で何かが倒れている気配がした。その気配はすぐに誰か分かった。甘い、独特の気配と魔素。夢のものだ。
夢の体にぶつけないよう、そうっと扉を開ける。
顔色はすこぶる悪く、「はぁっ…はぁっ」と短く、浅く呼吸をしていた。
ギィ「夢?」
意識は無く、どうやら外に出ようとした際に扉の前で力尽きたようだった。幸い、倒れた時に外傷などはできなかった様だった。
うつ伏せで倒れている夢をそっと、仰向けにし抱き上げる。体は熱く、この城が魔素でできた氷じゃなければ床を溶かそうとする勢いだ。
夢「ぎ…?」
か細く、枯れた声がする。抱き上げる際に起こしてしまったか。
ギィ「大丈夫か…ってんなわけねぇよな。」
夢をそっとベットに寝かし、布団をかける。夢の瞳はうるうると揺れ、瞼はトロンと垂れていた。それでも俺から目を離さない。
もう昔のように風邪を引くたびに死にかけるなんてことは無い。魔王というものはそういうものだ。しかし、苦しいものは苦しく、辛いものは辛い。
真なる魔王に覚醒したはずの夢は、魔王とは思えないほど弱々しかった。
一国を一人で滅ぼしたとは思えなかった。
ギィ「夢、少し起きろ。水飲まねぇと。」
しかし、こちらの声が聞こえていないのか、それとも体を動かす余裕もないのか夢は俺の顔をじっと見つめたまま動かない。
ギィ「夢」
…ダメだ。目はこっちを見ているはずなのに全く反応が無かった。かと言って無理矢理水を飲ませるのも危険だ。どうしたものか…。
ふわふわと空中に浮いてるような気分だった。目の前がぼんやりとしていてよく見えない。私の前に誰かいて、でもそれすら誰か分からない。じーっと見つめてもそれは誰か分からない。
ぴとッとおでこに何かが触れる。冷たい。
ギィ「夢、聞こえるか?」
その瞬間、ぼんやりとした視界から赤く、優しい炎が見えた。
夢「ぎぃ…」