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睨みつけるように優里を見たのは何も苛立っているからではない。真衣香との関係に変化をもたらすものであるならば、どうしたものかと力んだせいだ。
「うーわ、怖い。裏表ある男って私マジで嫌い」
向かい合う優里も、もちろん負けない。
「はは、悲しいくらい嫌われてるなー。優里ちゃんの中で俺ってどんなイメージなの?」
坪井は全く悲しくなさそうな声で言った。それに対して口元をピクピクと引き攣らせながら優里は答える。
「芹奈を放置してボロボロにした女好きのイケメンとしか。あとまぁ何考えてるかわかんない胡散臭い奴だなって合コンの時は思ってた」
「違いない」と吐き捨てるように笑ったのは優里の評価が決して間違いではなかったから。
「あいつよりは男見る目あるよね、優里ちゃん」
「褒められても全く嬉しくないわ。ったく、よりによって何で真衣香なの、あんたみたいな奴が……」
「ま、そうだろね。青木の身内なら、そう思うよな」
言いながら坪井は真衣香の顔を脳裏に浮かべた。
あの、青木芹那の名前を出されて、その身内が目の前にいて。正直こんなに冷静でいられる自分が不思議だったからだ。
そして、その理由は間違いなく真衣香だと思ったから。
クリスマス……正確には過ぎてしまっていたが、あの日。
傷つけた夜を塗り替えられていなかったのなら逃げ出していたのかもしれない。
(あいつが……どんな俺でもいいよって言ってくれてなかったら)
怖くて、過去に責め立てられるのはごめんだと、真衣香から逃げたのかもしれない。
こればかりは本当に、運が良かったとしか思えない。
「で、別れろって言いにきたの? それとも青木芹那に謝れとかそーゆう感じ?」
「いや、謝れってゆーか、今度芹那と二人で会ってくれない?」
優里はさらりと言った。
「……は? 何で」
今この時点で青木芹那と二人で会えというのか? 真衣香の友人が。
「あの子、今ちょっと色々あって弱っててさ。昔のこと悪かったなって引きずってるならチャンスだと思うよ?」
「どーゆうこと?」
「慰めてあげてよ、人間なんてさ効率よく罪悪感消したい生き物じゃない?」
「罪悪感って……」
優里は「うん」と軽く首を縦に振った。
「芹那と色々あった後、坪井くん女関係めちゃくちゃ派手になっていったらしいじゃん?」
「青木が言ってたの?」
「そう。高校は別のとこ行ったけど、噂はずっと聞いてたからって」
(……へぇ、そうなんだ。俺は、逆に一切情報入れてこなかったな)
そこで初めて、芹那と自分の、その後の行動の違いを知った。
優里は一旦声を止め、頬杖をつき、じっくりと坪井を見る。
「あんたの中でもトラウマだった? 芹那とのことは」
肝心なとこほど落ち着いて聞いてくる。
頭のいい女だなとは思った。
感情任せに責められていた方が楽に答えられたのだろうと思う。
「そうだね、かなり後悔してたしずっと残ってたよ」
「そりゃ逃げ出したもんね、結果的に。色々事情はあったんだろうけど、その事情さえ芹那に話さなかったじゃない」
「まぁ……それすらも面倒で。そっちの言うとおり、逃げたしね」
話すことも億劫だったといえばさすがに声を荒げるだろうか? なんて考えながらも黙っていると。
「あんたに、この先も芹那と切れないでいられる度胸ある?」
「……青木と? どういう意味?」
よくわからずに聞き返すと、優里は坪井を真正面から睨みつける。
「私、真衣香とはずっと友達でいたいの。これからも。あんた、私の親友の真衣香と、つきあってく度胸ある? 芹那の親戚の私。その親友の真衣香とだよ」
(ああ、なるほどな。そんな度胸ないだろ、さっさと別れろよって? やっぱそーゆーこと?)
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