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「カミルは心配性だねー」
「お前が呑気過ぎるだけだ」
エルドレッドから衝撃の告白を聞いた僕は、これから先もこいつと付き合いを続けて良いのか悩み始めていた。そういえば、短期間で二度も財布を紛失するような粗忽者であったのだ。悪い奴ではないが、どこか抜けているという印象は拭えない。
「友達になるっていうの一旦保留にしてもいい?」
「はっ!? なんで!! カミルとオレはとっくにマブダチでしょ。今更保留とか受け付けません!!」
親友の次はマブダチか。似たようなもんだろ……統一しろ。今後の交流を考え直したいと告げると、エルドレッドは大げさなほどに狼狽えた。両手を顔の前で交差させて、バツマークを作っている。なんで僕にそこまで拘るんだ。こいつひょっとして友達いないのか。
「だってさ、お前は僕を知らないうちに共犯にしたんだよ。また同じようなことがあったらたまったもんじゃない。そんな奴と付き合っていくなんて不安しかないだろ」
「ごめんって。もうカミルの許可を取らずに勝手なことしないって約束する。だから友達やめるなんて言わないでくれよ」
エルドレッドは必死に縋ってくる。しまいには、千里眼による盗み見がバレても、僕が関わったことは伏せてくれるとまで言い出した。こんなになるなら最初から巻き込むなよ。すっかりヘタれてしまったエルドレッドを見ていると、こちらの昂っていた感情も徐々に収まってくる。頭が冷えて落ち着きを取り戻すと、今度はこいつに仕返しをしたいという気持ちが湧いてきた。
「僕は自分が疑われたら、迷う事なくお前を売るけどね」
「えっ……そんなヒドい」
「ひどくない。当然だ」
仕返しのつもりで言ってやったが、やはりエルドレッドにあまり効果は無いようだ。結局のところ、こいつの中にある魔法に対しての強い自信がある限り、僕が何を言っても危機感を持って貰うのは難しい。
「お前さ、コスタビューテから離れた方がいいんじゃない? バレるわけないって……そんな絶対は無いんだから」
「素っ気ない風に振る舞ってても、カミル君はオレのこと心配してくれるんだね。気持ちは嬉しいけど、今すぐは無理だ。紹介して貰った仕事の契約期間だって残ってるし、金銭的な意味でも辞めれないよ」
旅を続けるには金が必要か。それは十分に分かっている……かと言って僕が援助するわけにもいかない。しかもこいつのことだから、そのせっかく貯めた旅費ですらまた紛失するのではという懸念もある。
「だったらさ……ルクトに腰を落ち着けている間に実家に手紙でも書きなよ。それで、誰か一緒に同行してくれる人を寄越して貰え。はっきり言うけど、お前一人旅向いてないよ」
「一応この旅は修行という名目だから、そういうのはやりたくないんだよ。護衛や付き人同伴なんて諸国漫遊になっちゃわない?」
知らないところで野垂れ死にされても寝覚めが悪い。こいつの実家自体はそれなりに裕福そうなので、事情を話せば従者くらい付けて貰えるだろう。エルドレッドは己を高めるための旅だと主張するが、それに拘り過ぎて死んだら元も子もないじゃないか。
最初こそ僕の提案を渋っていたエルドレッドだが、おっちょこちょいである自覚はそれなりにあった。旅費を二度も無くしたという分かりやすい失態は見て見ぬフリできなかったようだ。エルドレッドは低く唸りながら思考を巡らせていたが、突如弾かれたように声を張り上げる。
「良いこと思いついた!! カミル、お前オレと一緒に来ないか?」
「はぁ?」
突拍子もないエルドレッドの発言に僕は唖然としてしまう。悩んだ末に出した案がそれなのか……
「お前がいてくれたら心強い。財布を落とすなんて失敗も起こらないだろう。うん、我ながらナイスアイデアだ」
僕の都合は無視してエルドレッドは大はしゃぎだ。もう少し現実的な話をして欲しい。こいつの旅に同行するなんて無理に決まってるだろ。
「盛り上がってるとこ悪いけど、その案は却下だよ」
「何で? 絶対楽しいよ」
「楽しい楽しくないの問題じゃないよ。知り合ったばかりの……それも子供だけで旅に出るなんて、家の許可が下りるわけない。お前のとことは違うんだよ」
当たり前の返答をしたはずなのに、エルドレッドは大きな溜め息をついた。彼の呆れたような反応が悔しかった。決して興味が無いわけじゃない。でも常識的に考えてみろ。僕の言ってることは間違ってないはずだ。
「家の話は聞いてない。オレが知りたいのはカミルがどう思ったかだよ。一緒に行こうって言われて少しも迷わなかった? お前にとっても悪い話じゃないはずだよ」
僕が王都から逃げ帰ってこっちに入り浸ってる現状を暗に指摘している。ルクトで幼馴染の愚痴を言うだけの日々を送るより、よっぽど建設的だとエルドレッドは言いたいのだろう。
痛いところを突いてくる。腹立だしいが、エルドレッドの言う通りだった。このままいじけていても何も変わらない。それに……コイツと話をしていると嫌なことを一瞬でも忘れることが出来た。家のこと、自分の中にあるちっぽけなプライド……それらをまるっきり無視して、もう一度エルドレッドの提案を考えてみた。
「行ってみたい……かも」
「そうだろ!!」
口から溢れ落ちたのは、建前を捨てた自分の中にある紛れもない本音だった。か細くて聞き逃してしまいそうなそれを、エルドレッドはしっかりと拾ってくれていた。僕の言葉を理解した彼は、今日一番の良い笑顔を見せたのだった。