しばしの沈黙。
泰三は組んでいた腕をゆっくり解き、深く椅子にもたれかかった。
「……言うようになったな、華」
低い声が、先ほどまでの冷たさとは違う響きを帯びていた。
「努力をしている姿を、私に見せたいというのか」
「……はい」
華は震える声で、それでもはっきりと答えた。
泰三の視線が律へと移る。
「藤井くん。……君の目には、本当にこの娘の成長が映っているのだな」
律は真っ直ぐに頷いた。
「はい。彼女は必ずやり遂げます」
泰三は長く息を吐き、机に視線を落とした。
「……いいだろう。だが、結果を出せなければ何の意味もない。それだけは忘れるな」
その言葉は依然として厳しい。
けれど、初めて“ひとりの大人”として認められた瞬間でもあった。