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それから、マイッキーは「解散」という言葉を、
口にしなくなった。
――正確には、
直接は言わなくなった。
「最近どう?」
「動画、ちょっと伸び悩んでない?」
そんな、
どうでもいい会話の端っこに、
必ず混ぜてくる。
ぜんいちは、
そのたびに背筋が冷える。
「……俺、もっと頑張るよ」
先回りして言う。
「企画も考えるし」
「編集も早くする」
マイッキーは、
一瞬だけ目を細めて笑う。
「別に、そこまでしなくていいのに」
――嘘だ。
「でもさ」
間を置いて、
軽い声で続ける。
「続けたいなら、今が大事じゃない?」
続けたい。
その言葉が、
ぜんいちの喉を締める。
「……うん」
「最近、俺の予定聞かないよね」
「聞く聞く!!」
慌てて否定する。
「忙しいかなって思ってただけで」
「本当は、全部知りたい」
「全部?」
「どこ行くかも」
「誰といるかも」
マイッキーは、
少し困った顔をする。
「それ、束縛っぽくない?」
心臓が跳ねる。
「あ、ごめ」
「嫌なら言って」
「嫌じゃないよ」
即答だった。
「でもさ」
マイッキーは、
ぜんいちの頭に手を置く。
「言われないと不安になるの、直したほうがいいよ」
優しい声。
叱るみたいな口調。
「このままだとさ」
一拍。
「一緒にやってくの、難しいかも」
――来た。
ぜんいちは、
息を吸うのを忘れる。
「……やめない」
「え?」
「やめないで」
「俺、ちゃんとするから」
マイッキーの手が、
ゆっくりと離れる。
「ちゃんとって?」
試す声。
「文句言わない」
「疑わない」
「……重くならない」
一つ言うごとに、
自分が削れていくのが分かる。
マイッキーは、
満足そうに頷いた。
「それなら、安心」
その言葉で、
全身の力が抜ける。
――よかった。
――まだ、切られてない。
その夜。
マイッキーは、
帰りが遅かった。
連絡も、ほとんどない。
でも、
ぜんいちは何も送らなかった。
送ったら、
「重い」と思われる。
「……大丈夫」
自分に言い聞かせる。
「俺は、いい子だから」
帰ってきたマイッキーは、
少し機嫌が良さそうだった。
「待ってた?」
「うん」
「えらいね」
その一言で、
報われてしまう自分が、
どうしようもなく怖い。
「今日さ」
マイッキーが、
何気なく言う。
「友達に言われたんだよね」
「相方が不安定だと、大変だって」
ぜんいちは、
笑うしかなかった。
「……ごめん」
「だからさ」
マイッキーは、
ぜんいちの顎に指をかける。
「俺の言うこと、ちゃんと聞こう?」
「うん」
「解散とか、考えたくないでしょ?」
その言葉に、
ぜんいちは深く頷く。
「考えたくない」
「だよね」
マイッキーは、
満足そうに微笑む。
その瞬間、
ぜんいちは気づかなかった。
解散を回避するために、
自分が何を差し出しているのか。
考えること。
疑うこと。
不安になる権利。
全部、
少しずつ首輪に変わっていた。