目を覚ましたら真っ白な部屋にいた。
隣を見れば真っ白なシーツに桜色を広げ呑気な顔して眠っているみこちがいた。
気持ち良さそうに眠るみこちの鼻を摘んでみる。途端に眉間に皺が寄る。なにこれ楽しい。何度か繰り返し、嫌そうに顔を隠したみこちに満足してベッドから抜け出した。
扉の方に何か書いてある。扉の文字に目を向けた。
『SEXをしないと出られない部屋』
うん、見なかったことにしていいかな、いいよね!
すいちゃん英語わかんないし!
思いっきり扉を閉め、足早にベッドに戻って寝ているみこちを気遣うこともなく横になる。あーあ、早く覚めないかなぁ、この夢
「んん……なにぃ……?」
あ、やべぇ。みこち起きた。寝た振りしとこ。
「……ぇ」
何ここって思うよね!すいちゃんも思ったもん。
みこちが身体を起こしたのかベッドが軋む。
「す、すいちゃん……?」
頼りなさげな声に思わず笑いそうになりながら寝た振りを続ける。頼むから私に聞かないで自分で確認して来てくれ。
「すいちゃん! 起きて!」
「こらぁ星街ぃ! いま笑ったでしょ⁉︎ 起きてんのバレてんで!」
「嘘ぉー? 寝てんですけどぉー?」
「起きてんじゃねぇか!!」
やっぱバレたか。バレたものは仕方ないからと目を開けた。
「おはようございます」
「え、あ、おはようございます」
びっくりしたような顔をして停止してオウム返しをしてくるみこちが面白くて耐えきれず思いっきり笑ってしまった。
「なっ、もしかしてこの部屋!」
「あー違う違う。この部屋に関してはすいちゃんもわからんままだしドッキリとかじゃないよ」
「……まぁ、そうだよにぇ。ってじゃあなんで笑ったんだよ!」
「え、みこちが面白い顔してたから?」
「はぁ? みこちゃんはいつもぷりちーなんですけどぉ? で? ここって前と同じ?」
「そんな感じ」
「だよにぇ……なんて書いてあったか見た?」
「黙秘します」
「なんでぇ⁉︎」
これに関しては貫かせて貰う。恥ずかしいとかそういうんじゃないけどなんかあの三文字が嫌。強いて言うなら性行為、のがまだマシかな。というか口に出したくない。言葉にしてしまえば、それをしなければならないという雰囲気に呑まれるような気がするし。
自分で見てこいよ、と視線で示せば渋々みこちはベッドから立ち上がった。ペタペタと歩く後ろ姿を見送って、じゃあもう一眠りしよっかな、と目を瞑る。
バタン、と勢いよく扉が閉まる。同じ反応で良かったよ、さすがビジネスパートナーだね、息ピッタリ。
「す、すいちゃん……アレって……」
「すいちゃんは眠っております」
「嘘つくなよ!」
「すいちゃんは何も見ておりません」
「で、でも」
馬鹿正直に三文字を受け取るみこちに目を開けて、声をかける。
「……みこちぃ、一回寝てみようよ」
「ぇ、え……?」
「寝て起きたら夢から覚めるかもしれないじゃん」
「ぁ、ああ、そういう……」
「は? なんだと思ったの?」
「いや、ソウイウ、意味……かと……」
突然頬を染めたみこちになんだコイツ、と口を開こうとした瞬間理解した。
「うっわぁ……さくらさんエロゲのやりすぎじゃないですかぁー?」
「う、うるせぇ! エロゲは浪漫なんだよ!」
「はいはい、みこちだってすいちゃんなんかとソウイウ意味で寝るのは嫌でしょ? 試してないし、時間経つの待ってみよ?」
「う、うん……わかった」
そうしてふたりしてベッドに転がって時間を過ごした。なんだかんだ最近仕事が忙しかったのもあってふたりして普通に寝てた。体感半日くらいは寝た。いや、時計ないからわかんないけどめっちゃスッキリした。けれど夢から覚めることはなかった。
うーん、どうしよう。というか喉渇いたなぁ。そういや冷蔵庫あるじゃん、適当に飲んじゃお。
「あ、リンゴジュースあるじゃんラッキー」
いつも飲んでいるパックのリンゴジュースを手に取りストローを挿した。ひとまず一口。うん、美味しい。他に何あるんだろ。水にお茶、ジュースにお酒まで。ちょっとした食べ物も入っていて至れり尽くせりだ。中身が大丈夫ならだけれど。正直、飲んでから考えることじゃないのかもしれない。でももう手遅れだし。夢の中のはずなのに喉は渇いたし。
冷蔵庫をガサゴソと漁っていればみこちが起きてきた。
「すいちゃん……?」
「おはよ、みこち」
「はよ……やっぱ出れなかったにぇ」
「だにぇ」
「……なにやってんの?」
「喉渇いたからリンゴジュース拝借してた」
「大丈夫なの、それ……」
「なにが?」
「なんか変なもの入ってたりさ」
「いや? 今のところは平気だよ」
「おめぇ警戒心持ってねぇの?」
隣に並ぶようにして冷蔵庫を覗き込むみこちは怪訝な表情をしている。
「持ってはいるけど喉渇いたんだもん」
「……みこも喉渇いた」
「でしょ? 何飲むー? あかたんだからミルクかなー?」
「みこはお子ちゃまなすいちゃんと違って大人なんでお水にしますけどぉ」
「すみません、よく聞き取れませんでした」
「くそ腹立つにぇこの女」
「わかるわかるあのバーチャルアシスタントさんな」
「おめぇだよ」
ひどーい、とみこちを揶揄いながら水を手渡す。一息ついたらどうするか考えなきゃだなぁ。冷蔵庫を閉め、ベッドへと腰掛ける。そうすると扉が視界に入った。無駄なものがない部屋から風呂場に直結するのはなんの気遣いなんだろうか。なんと切り出したらいいんだろう。一応知識としてなにをするかはさすがに理解はしているけれど、経験はないからどんなものなのかはわからない。というかそもそも同性同士ってどこがゴールなワケ?
わからないなら聞くしかない。水を飲んで一息ついたみこちに意を決して話しかけた。
「ねぇみこち」
「なあに?」
「その……扉に書いてたやつさ、そもそも同性同士って成立するの? てか同性の場合なにをしたらゴールなのか知ってる?」
「ぅえ⁉︎ な、なんで?」
「なんでって、そりゃしなきゃだからでしょ」
「ッ」
「でもすいちゃんそういうの興味なかったから一ミリもわかんないんだよねぇ」
「いや、そのぉ……みこもわかんないけど……」
そう言いながらみこちは頬を染め指をいじいじとし始める。いや、なにカマトトぶってんだよ。
「絶対嘘じゃん。本当だとしてもすいちゃんよりは知識あるんだから考えてよ」
「えぇ……待って、すいちゃんだって姉街の本見たことあるならわかるんじゃないの⁉︎」
「あぁー……でもあれは男同士だし挿れるもんも頑張れば挿れられるところもあるからなぁ」
「ちょっと! 挿れるもんとか言わないでよ!」
「いや、だって実際そうじゃん。すいちゃんもみこちも女の子なんだからさ、ないもんはどうしようもなくね? キスとか触ったりで良いってこと?」
投げかけた疑問にみこちは驚いたような顔をして何か考え込む。そして観念したかのように口を開く。
「キスとか触ったりもそうだけど、その……指とか舌とか使うんじゃないの」
「へ?」
「……女の子の……だいじな、ところに指挿れたり、舌で舐めたりとか……人によっては玩具を使ったり」
「っ、な、なるほどね……」
急に耳に入ってきた言葉に動揺する。挿入するものがないから代わりのモノを。男女でいうところの前戯の延長に近いのかもしれない。理解は出来たけれど納得は出来ない。だってそれを今からみこちとしなきゃいけないってことだよね、まじか。
なんとなくしか出来ていなかった想像が、みこちの言葉でより鮮明になっていく。どうにも気持ちが落ち着かない。てかやっぱり知ってたんじゃん。
「……ちなみになんだけどさ、すいちゃんはその、そういう経験ないんだけどみこちって……?」
「……みこもない、けど」
「そ、そうなんだ、一緒だね!」
どうしよう。あるって言われたらそれはそれで複雑な気持ちになっただろうけどお互い経験がないということはこれが所謂初体験になってしまうのでは。同性ならノーカン?
「……する?」
「な、なにを?」
「……とりあえず、キスから?」
「あ、あぁ」
ジッと翡翠が私を見つめていた。染まった頬の下、音を紡ぐその唇を凝視してしまう。途端に快感を思い出す。思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。
ドクドクと心臓がうるさく鼓動する。身を任せてしまえば、空気にのまれてしまえば、私とみこちはゴールに辿り着けてしまう気がした。
「……いいの?」
「だってしなきゃ出れないんでしょ」
「そうだけど……その、される側っていうの? そっちでいいの? みこちは」
「だってすいちゃん絶対触らせてくれないでしょ?」
「それはそう」
「即答じゃん!」
だってすいちゃんは胸ないし、触っても気持ち良くないだろうし。みこちは大きい方が好きだろうし。それに自分でも自慰っていうものをしたことがないし、気持ち良くなれる気もしないから。
「だって自分でもほとんど触ったことないし」
「ぇ、そうなの?」
「え、逆にみこちはあるの? え、自分でしたりとかってまじであるの?」
「ッスー……黙秘します」
「ぁ、そ、そうなんだぁ? じゃ、じゃあどうしたら気持ち良いのかってすいちゃんに教えてくれたりする?」
「星街ぃ……さすがに鬼畜すぎんだろぉ……
恥ずかしさでいっぱいなのか、涙を浮かべながら私を見上げたみこちにずくん、と何かが腹の奥底で疼いた気がした。それを振り払いどうにか言葉を続ける。
「だ、だって痛くしちゃったりするかもだし怖いじゃん!」
「みこにそんな乱暴なことするつもりなん⁉︎」
「そうじゃないけど! しょうがないじゃんわかんないんだから! じゃあみこちはいいの? 碌に慣らさずに無理矢理指突っ込まれても!」
「嫌に決まってんだろバカ街!!」
「だったら教えてよ! どうせするならみこちが気持ちいい方がいいじゃんか!」
「なっ……! もぉー! わかったよぉ……でもみこだけ恥ずかしいの嫌だからみこにもちょっとくらい触らせてよ」
「え、やだ」
「やだじゃねぇよ! ちょっとくらい譲歩しろよおめぇ! ヤらせろとまで言ってないんだぞ!」
「だってすいちゃん胸ないし見たって触ったって面白くないじゃん」
「そんなことっ……ある!!」
「コロス」
「嘘ですごめんなさい優しくしてください」
いつものやりとりが戻ってきて安心している反面、話している内容がなかなかにセンシティブなことに気持ちが追いつかない。
そうか、この指をみこちに。変に意識してしまって意味もなく指を眺めてしまう。痛くはさせたくない。そうは思うのに、しないで済む方法を考えようとしていない自分の思考回路にゾッとする。せめて気持ち良くしてあげたいだなんてきっと言い訳なのかもしれない。
「みこちシャワー浴びてきなよ」
「なにそのそのありがちな台詞……照れてんの?」
「寝起きそのまんまがお好みならすいちゃんは別にいいけど」
「しゃあ! いってくるにぇ!」
驚くべき早さでみこちは動いて扉の向こうへと消えた。とりあえずいまのうちにと私も動き出す。多分都合の良い部屋ならあるはず。なんだかんだでこっちの部屋はまともに見ていなかったからと探索を始めた。
ベッド周りをよく調べてみればわかりにくい引き出しがついていて、中にはご丁寧に避妊具と潤滑剤、救急箱やらが入っていた。なんの為にあるかは最早考える必要もなかった。とりあえず救急箱の中からお目当ての爪切りを手に取った。ネイルは気に入っているけれど、確か爪は短い方がいいと聞き齧ったことがある。パチンパチンと小気味いい音を立てながらみこちを待つことにした。
全ての爪を丁寧にヤスリで整え終わった頃、みこちは部屋に戻ってきた。
「早かったね」
「そう……?」
予想よりも早く戻ってきたみこちは髪が濡れていなかったから、身体を流しただけなのかもしれない。もしくは爪を整えることに集中していたから思っているよりも時間が経っていたかだ。
「すいちゃんは?」
「んー……じゃあサッと浴びてくる」
「いってらっしゃい」
少し赤らんだ頬はお湯を浴びたからなのだろう。うっすらと香る甘い匂いはボディソープのものなのだろう。それだけなのに変に意識をしてしまう自分がいた。まだ濡れたままの浴室の床を見て、いまさっきまでみこちが使っていたんだよな、なんてどうでもいい感想を抱いた。
「ただいまぁ」
「おかえりぃ!」
あくまでもいつも通りに、と戻った私を迎えたのは少しテンションが高く頬を染めたままのみこちだった。そしてそんなみこちの手元には桃色の缶が握られていた。
「お酒?」
「あー……うん」
「……頭良いねみこち」
「え?」
「酔ってわかんなくなっちゃえばさ、お互い楽だもんね」
そりゃ素面じゃキツいよな。夢とはいえ夢じゃないし、私なんかとしなきゃいけないとか普通嫌だよね。もう既に一缶は空けていたようで足元に置いてあるのが見えた。シャワーなんて言わずに勢いのままに始めてしまえば冷静にならずに済んだのかもしれない。
ひょい、とみこちから缶を奪い口につける。甘い、がアルコール独特の味がしっかりとする。あんまり好きじゃないから飲まないんだよなぁ。
「ちょ、星街」
「うぇ……美味しくない」
舌を出して抗議するとみこちがやれやれといった顔をして手を伸ばしてきたから素直に缶を握らせた。
「苦手なんでしょ、無理しない方がいいって」
少しだけ飲んでみたものの、美味しいとは到底思えない。みこちは美味しいのに、なんて言いながらまた口をつけた。でもこれで言い訳が出来る。
「すいちゃんも飲んじゃったからさぁ……仕方ない、よね?」
そっとみこちの隣に腰掛ける。何を言いたいか理解したらしいみこちが飲みかけの缶を床に置いた。
「そう、だにぇ」
飲んでいる途中だったせいかまだ濡れたままの唇に手を伸ばす。触れた唇は柔らかい。びくりとしながら、期待したかように私を見上げた翡翠にグラリと視界が回るような気がした。酔いが回るってこういうことなのかな。
「……みこち」
そう名前を呼べば静かに翡翠が見えなくなった。良いってことだよね。引き寄せられるかのように私はみこちに口付けた。
「んっ……」
唇は柔らかくて、少しだけ湿っていた。ギュウとなにかが締め付けられるような感覚がした。でもそれがなんなのかはわからない。
流れるような睫毛が目の前にあって、遠慮がちに服を掴んだ両手が視界の隅に入った。かわいいんだよな、みこちって。今更ながらにそう思った。黙ってしまえばただのかわいい女の子だ。
口付けていく。角度を変えて、味わって。唇を食んで、舐めて。ぴくりと眉を寄せたみこちはおずおずと薄く唇を開いて私の舌を受け入れる。その瞬間にどうしようもなくゾクゾクとした。支配欲とでも言うのだろうか。
迷いなく舌を絡ませて、口内を蹂躙する。甘くて苦手なアルコールの味がする。でもやめようとは思わない。舌を動かす度に震えぎゅっと手に力を入れ耐えているのが、吐息を漏らし声を我慢しているその姿がどうしようもなく愉快で愛おしい。
いつもの騒がしくてコロコロと表情の変わるみこちも好きだけど、静かで何かに耐えるように苦しむみこちも好きだ。多分私は私のせいでみこちが表情を変えるのが好きなんだと思う。
「はっ……んぅ……ッ」
時折息継ぎをする為に少しだけ離れて、またすぐに口付けて。段々と息が荒くなって、互いの吐息に熱が籠る。ずっとこうしていたい。ぴりぴりと小さな快感が身体を走る。みこちが堪えきれずに出した甘い声に頭がクラクラとしてくる。もっと聞きたい。もっと気持ち良くしてあげたい。溢れた喘ぎがみこちのものだけじゃなくなる。
「っはぁ……みこ、ち……」
「ぅあ……すい、ちゃん……」
いつの間にか首に回された両手に身体ごと引き寄せられる。抗うことはせず、そのままみこちをベッドへと沈めていく。
閉じられていたはずの翡翠は潤んで、私を見上げていた。そして綺麗な色は熱を孕んでいた。どうしよう、身体中の血液が沸騰しているかのように熱い。
熱を逃すために息を吐きながら、みこちの首筋に唇を近付ける。なにかに従うように、そうするのが自然みたいに勝手に身体が動く。何度か口付けを落として、ツゥーと舐めあげる。みこちの情けない声が響いた。美味しそう、なんて訳の分からない感想が浮かんで、食べられるわけがないのに歯を立てた。
「いっ……すい、ちゃ……!」
「んー?」
いま味わってるんだから邪魔しないでよ、なんて考えながら凹凸が残った肌を丁寧に舐めていく。視界に入った真っ赤な耳に指を添え、優しく撫でる。
「ぁう……み、みは、ダメ……」
ダメと言いながらもまるで抵抗はしていない。加虐心が湧き上がる。それなら。
「じゃあどうしたらいい?」
動きを止め耳元でそう問いかける。なるべく低く小さな声を出したつもりだったけれど、あいにくこっちもうまく息が出来ていないもんだからどうだったかはわからない。でも溢れそうなくらいに雫を溜めた翡翠が恨めしそうに私を捉えたから、多分大丈夫だったんだろう。
「どうしたら気持ちいいのかすいちゃんに教えて?」
吐息を混ぜ、耳に囁きかける。ついでとばかりに舌を這わせてみればわかりやすく反応していて。
「っ、すいちゃん、慣れてんじゃんかぁ……!」
ドン、と押されるようにして身体が離れる。それに少しばかり動揺しながらも、久しぶりにまともに聞いた声が怒っているにしては力がなくて、つい笑ってしまう。
「ふはっ、なにそれ。慣れてないよ、なんとなくみこちの反応見ながらしてるだけ」
「万能超人がよぉ……」
「それ褒めてんの? 貶してんの?」
みこちが顔を逸らすようにしてぼやき始めてしまった。いや器用貧乏なんだって。基本的に何をするにしても、するならばちゃんとしたいと思っているからいつも自分なりに頑張っているだけだ。
いまのところ、なんとなくの知識と本能に従って動いている。インターネットが使えれば色々調べられただろう。でもここでは使えない。だから正解がわからない。頑張り方がわからない。
いつもみたいな会話をしてしまったもんだから冷静な自分が戻ってきてしまって、少しだけ恥ずかしくて、そして不安になる。
「はぁ……」
長く息を吐いたみこちの顔は隠されていて見えなかった。もしかして、なにか間違えた?
「み、みこち……その」
「もういちいち聞かないでよ……みこ恥ずか死ぬ」
「いや……流れみたいなのはわかるんだけどさぁ……どう触ったらいいかとかどこまでしていいかとかが正直、わかんないんだけど……」
「へ?」
変なこと言わなきゃ良かった。ただ反応を見ながら勢いで続けていれば良かった。馬鹿正直に伝えてしまった言葉はみこちを驚かせたようで、すぐに失敗したなと後悔する。こんな情けない自分を見せてしまったのが、嫌になる。
「あー……その、ごめん。散々触ったりしといてなんだって思うよね」
「すいちゃん」
大丈夫だよ、そう言ってみこちの両手が私の頬を包んだ。
「え?」
「そんな泣きそうな顔しないで」
そんな顔をしていたのだろうか、思わず自分の顔を触る。触ったところで何もわからなかったけれど。
「お酒、弱いんだにぇ」
やけに気分があがったり下がったりするのはお酒のせいか。そういうことにしておこう。
「……永遠の十八歳だから」
ふっと優しくみこちが微笑んだ。なんだよその顔。さっきまであんなだったくせに。なんでかズキズキと胸が痛くなる。頬に添
えられていた手が離れる。
「すいちゃん」
「……?」
少し熱い体温が右手に重なった。そしてそのまま導かれるようにみこちの胸に辿り着く。
「触って?」
「ぇ」
「ここ」
ふに、と手のひらに伝わった柔らかさは間違いなくみこちの胸で。
「……みこの気持ちいい、ところ、だから」
ガンッと頭を殴られたような気持ちになる。冷めたはずの熱ががまた、沸騰しはじめる。
「……えっちすぎない?」
「いやだって……えっち、するんでしょ?」
「っぐ……」
うん、そうなんだけどね。
これは思ったよりみこちも酔っているのかもしれない。酔っ払い同士だからもう仕方ない、ね。
「優しく、にぇ……?」
「わ、わかった」
誘導された胸の上、右手に力を入れた。柔らかなソレは自分にはないもので、少しだけ憎いような気もしたけれどすぐにその触り心地の虜になった。下から掬い上げるように、形を確かめるように。いつの間にか片手じゃ物足りなくなって、でも力を入れ過ぎないように優しく、優しく。みこちの息があがっていく。私の手で反応する姿に優越感が満たされる。
「すいちゃん……」
「なぁに?」
みこちが切なげに私を呼んだ。そして手を掴んでそのまま服の中へと招かれた。直接触って欲しいということだろう。肌は熱くて、触り心地が良かった。胸を支える下着をずらすようにして手を滑らせた。その瞬間、何かを指先で引っ掻いてしまった。途端にみこちが甲高い声をあげた。
「んぁ……!」
「ごめん! 痛かった⁉︎」
「ちが、くて……その……きもちく、て」
耳まで赤く染めたみこちにカーッとこっちまで熱くなる。きっといま触れたのは。ツン、と優しく指先で触ってみる。
「……ここきもちいんだ?」
「っ、はぅ……!」
だらしなく声をあげたみこちにお腹の下あたりがジンジンとしてきた。焦らすようにして周りだけに触れていればみこちは先端を服の布地で擦るように動き始めた。
「っ、みこち自分できもちよくなろうとしてない?」
「ぁ、う……だって、すいちゃんが、触って、くれない、から」
「そう、だね。……触るからさ……脱いでくれる?」
「ん……」
そう言うとみこちは服を脱いだ。まだ短パンは残っているけれど、上半身を隠すものはなにもない。初めて見たわけじゃないけれど、こうまじまじと肌を見るのはドキドキとしてしまう。そのなんというか。
「綺麗、だね」
「……はずかしいこと、言うなよバカ街……」
バカでもなんでもいい。だってそう思ったんだから。綺麗な身体だと思う。そしてわかりやすく触ってくれと主張する頂から目が
離せない。
「……触るよ」
最初は軽く触れただけだった。それなのにみこちは身体をくねらせた。撫でるようにして様子を見れば焦ったそうにするから少しだけ強く押し込んで。
「ぅあ……ぁっ、ゃあ……ッ!」
苦しそうで、でも甘さを溶かしたその声に、また理性を失いそうになる。もっと、もっとと。カリカリと爪先で引っ掻いて、弾いてみたり、ぐりぐりとつねるようにしてみたり。いつしかみこちは惚けた顔をしていて、触れる肌は汗ばんでいた。
「っねぇ、みこち……」
このあとはどうしたら。ぐるぐると自分の中で熱が行き場を探して渦巻いていた。息が苦しい。多分、情けない顔をしていたと思う。
「……ぅ……舐めて、くれる……?」
言葉にしなくてもわかってくれたのが嬉しい。そして最初のみこちの言葉を思い出す。そうだ、指だけじゃなくて舌も使うんだよね。
「……こぉ?」
舌を伸ばして、散々苛めた頂に触れた。途端にみこちの身体が跳ねた。声を我慢するように口元を押さえている。それがなんだか気に食わなくて、みこちの手を掴む。
「それやめて」
「ゃ……だ! ぁ……っ、もぉ……!」
「みこちの声、きもちい」
「な……ッ! んぅ……ぐ」
好き勝手に舐めていく。強弱をつけてみたり、舌先で輪郭をなぞるようにしてみたり。そのまま口に含んで吸うようにしてみれば頬には柔らかな弾力が触れてなんだか安心した。
「……ふふっ」
「……あに?」
「そのまま喋んないでよ……っ、んぁ……!」
気持ちよさそうによがりつつ、みこちが笑いながら私の頭を撫でるからなんだかムカついて歯を立てた。ビクリと大きく身体を震わせたみこちに満足して口を離す。
「……で?」
「ん、っと、すいちゃんが……赤ちゃん、みたいで……かわいかったから?」
「赤ちゃんはみこちでしょ」
「……赤ちゃんはこんなこと、しないでしょ」
「それはそう、だね」
「すいちゃんはバカだにぇ」
「うるせぇ」
ふと見下ろしたみこちは髪も乱れ、ぐちゃぐちゃになっている。でも少しだけ余裕が出来たのか、真っ直ぐに私を見つめ笑っていた。
「ねぇ、すいちゃん」
「なに」
「みこさ」
「うん」
「そろそろ……限界、なんだけど」
「……ん」
「引かないでよ」
「別に引いてないよ」
「でさぁ……さすがに、その……布団かけても、いい……?」
「ん」
「……もぉ、そんな真っ赤にならないでよ! ……みこまで恥ずかしくなってくるじゃん」
「……無理言うなよ」
今からみこちの深いところまで触るんだと、意識して恥ずかしくなる。急に喉がカラカラになった気がして思わずベッドから立ち上がる。
「ちょっ、すいちゃん!」
「水! 水、取り行くだけ」
「……それは?」
指で示されたのはベッド脇にみこちが置いた缶。酒じゃん、と思いながら返事もせずに手を伸ばした。生温くて不味いソレで喉を潤す。正直、潤せていない気もするけれど一呼吸置ければなんでも良かった。
うん、さっきよりはマシかもしれない。なんなら本当にお酒が回ってくれた方がいい気がしている。
「みこにもちょうだい」
「はい」
「そこは飲ませてよ」
トントン、と唇を自分で指差すみこちにお前のが慣れてんじゃねぇかと訳もなく苛立ちが湧き上がる。そんな気持ちを無視するように缶を煽り、飲み込むことはせずそのままみこちに口付けた。熱い口内で余計に温くなった液体を少しずつ流し込む。こくりと飲み込まれたのを確認して、口を離した。
「やっぱ不味いわ……」
「お水取って来る?」
「いや、いいよもう」
バサリと布団を翻し、自分とみこちを隠すように覆った。
「ねぇ、みこちから……キス、して?」
「……もっとこっちきて、すいちゃん」
触れ合っただけで痺れるような慣れない感覚がした。でもみこちから求められているみたいで気分は良かった。するりと耳を撫でられて、くすぐったさに思わず息が漏れた。その隙をみこちは見逃さなくてみこちの舌が私の口の中へ入ってきた。弄ぶように歯列を撫でられ、差し出した舌は絡ませることなく柔く噛まれて。ふわふわとした感覚にビリビリするような刺激があって、どんどん夢中になっていく。無理矢理舌を捕まえて絡ませて。それに互いの口が酒で湿っていたせいか快感が増していた。
「っは、やば……」
「ん、ぁ……すいちゃ、ん……」
みこちが私の右手を掴み、下の方へと誘導していく。ドクドクと自分の鼓動が悲鳴をあげていた。興奮と緊張と、快楽と恐怖とが綯い交ぜになっていく。でもその動きを拒むことは出来なくて。狭い隙間を通って辿り着いたのは本来目にすることも、触れるはずもなかった場所だった。
下着のクロッチ部分に指先が触れた。くちゅりと湿った音が耳に届いてゾワリと肌が粟立つような気がした。みこちの手によって動かされた私の指が布地の上を擦るように上下する。
「ぅ、ぁ、く……っん……!」
まるで自分でしているかのような動きをするみこちを憐れに思う。でもそれが愛おしい。暫くして耐えきれなくなったみこちは私の手を下着の中にまで引き入れた。それだけなのに酷くいけないことをしているようで、鼓動が余計に激しくなった。指先は脈打つような熱と弾力を、手のひらには滑らかな柳を感じていた。もう少しだけこのまま、と力を入れずにいると。
「すいちゃ……いじわる、しないで……っ」
その言葉に思わず力が入ってしまう。そしてぐにっと指先に何かが触れた。そして触れた途端に今までにない激しい反応をみこちが見せた。
「っ──ぃ、……ぅ、ぁああ……ッ!」
一瞬固まって、すぐに痙攣したかのように身体を震わせたみこちに驚いて、布団を剥いで起き上がる。
「みこち⁉︎ 大丈夫⁉︎」
浅い呼吸を繰り返したみこちはだらりとしていて怖くなる。何度か声をかければようやくみこちが私を見た。
「っ、だいじょぶ……きもちくなった、だけ……」
いまのが所謂絶頂という奴なのかと理解する。ということはある意味目的は達成したのでは?
いまだに乱れた呼吸のみこちにこれで終わりにしよう、と声をかけるつもりだったのに気付けば私は再びみこちに覆い被さっていて。
「……すい、ちゃん?」
「ごめんみこち」
「え」
「足りない」
「ちょっ、な、に……っ⁉︎」
ずるりと短パンを下着ごと脱がせ、ベッドの下へ投げ捨てる。
「ちゃんと触りたい」
ちゃんと触って、私の手で、私の意思で、みこちを気持ち良くさせたい。
「ちゃんと見せて」
そしてそれをひとつも見逃したくない。
「もっと気持ち良くなって」
それで乱れたあられもない姿を私だけのモノにさせて欲しい。
「舐めてい? てか舐めるね」
「ぁ、ぅ、ゃ、っ……ば、か……ぁ……ッ!」
「バカは酷くない?」
さっきみこちが強く反応したのは所謂女の子の性感帯ってやつだ。敏感だから大事に触ってあげないといけないはず。でも触る前に舐めたくなった。だって誘うようにてらてらと蜜を溢していたから。みこちの了承を待たずに舌を這わせた。
「まっ、て! ゃ……む、りぃ……っ!」
「んー?」
「……きたな、い……からぁ……!」
ぐしゃりと髪を掴まれる。引き離そうとするから迷わず舌を動かしてやる。そうすれば甘い声が降ってきて私を満たす。独特な匂いに、独特な味。でも汚いとかは思わなかった。なんならお酒なんかよりずっと美味しい気がする。
舌全体を使って、包み込むように、舌先でつつくようにして刺激を与えていく。どんどんと粘着質な蜜が溢れてくる。このままじゃ溺れそう。
「濡れるってホントなんだね」
「でゃま、れ……ぇ、っ……!」
口を離して、乱雑に拭う。舌先に残る味をみこちが嫌がるのをわかっていて口付ける。
女の子は気持ち良くなると愛液が分泌されるというのは知識としてあった。でも本当にこんなになるなんて知らなかった。口付けをしながら手を動かし、わざとらしく音を立てればみこちは恥ずかしそうに私を睨む。それがまた気持ちいい。じわりと何かが溢れ出る。きっと自分の下着の中も同じようになっているのだろう。触られなくても気持ち良いんだ。
あぁ、私はいまみこちとSEXってやつをしているんだ。
ぬるぬると溢れ出る蜜を潤滑剤代わりに塗りながら主張する場所をくるくると撫でてやる。少ししたらみこちの足がピンと突っ張って、腰が浮く。そろそろかな。口を離し、絶頂を迎えるであろうみこちの顔を見つめた。
「すい、ちゃん……ッ!」
大きくみこちの身体が跳ねた。身体を駆け巡る快感に耐えきれず碌に息もうまく出来ていないようだった。
苦しそうで、可哀想で、色っぽくて、そして。
「……かわい」
ぽつりと零れてしまった言葉は、真っ白な部屋に溶けたはずだったのに。
グッと身体を引っ張られ、みこちに密着してしまう。
「うぉっ⁉︎ みこち……?」
「……みこ」
「ん? どした?」
「みこって呼んで」
耳元でした声がきゅう、と心臓を締め付ける。
「っ……」
「……すいせい」
名前を呼ばれたかと思えば、ビリビリとした快感が身体に走った。
「……っぁ、う……みこ……?」
「……きもちい?」
気付けばみこちの手が私の下腹部に触れていて。
「……ま、っ……!」
するりとみこちの手が直接、ソコに触れた。
「──ぁ」
甘い痺れが頭の先まで突き抜ける。ガクッと崩れそうになった身体をどうにか保つ。
「……濡れてるね?」
「うるさい」
「ね、きもちい?」
触れられた場所がジンジンと熱くて、腰のあたりがゾワゾワと疼いて、物足りない。口に出すのは恥ずかしい、けどみこちともっと気持ち良くなりたい。出来れば一緒に。
「……もっと」
「へ」
「もっと触って、いいから……もっと、みこに……触らせて」
思っていたよりも縋るように震えた声にみこちは瞳を大きくさせたあと、顔を真っ赤に染めた。
「っ、それはずるいって……もぉ……」
「……その、奥、までってことなんだ、けど……」
「……いいよ」
「いいの……?」
自分で聞いておきながらすんなり返ってきた了承に驚いた。
「……だって、みこも触っていいんでしょ?」
「っ、そ、だけど……ん、みこ……まっ、ぅう……く」
みこちの指が器用に動く。私はみこちを潰さないように腕を付くのが精一杯で、身体が無防備になる。さっきまで甘い快感を与えていた手がいつの間にか胸元まで登ってきていた。
「ちょ、っ、胸は、触んないでいいじゃ、んかぁ……!」
「みこの勝手でしょ」
「だって、すいちゃんの、ちいさい、からぁ……!」
一瞬みこちの手が止まる。見上げるように私を見たみこちが呆れたような顔をする。だって恥ずかしいんだもん。
「小さくてもいいの、すいせいに触りたいの」
そう真っ直ぐに返されて言葉が出なくなる。それでもどうにかみこちの手を止めたくて、でも止められなくて。小さな快感が波紋のように広がって大きくなっていく。ジワジワと追い詰められていく。なんかもうどうでもいいかも。
「み、こ……っ」
「っはぁ……もっと、触りたいんでしょ?」
「ん……」
誘われるまま、手を伸ばす。濡れそぼったソコに指を当ててみれば不思議な感触がした。くにゅくにゅと解すように触れていく。ココに指を。考えるだけでゾクゾクとした。
入り口に指先を浅く出し入れするだけでみこちはいままでにない声をあげていて、もっともっとと求める自分がいた。ダメだ、せめて痛くないように、もっと慣らして、濡らさないと。
無意識だった。私は触れさせていた指を口元に運んで舐めるようにして唾液を付けた。
「なぁ、っ……!」
「ぇ? あぁ……」
そこで気付く。確かに恥ずかしいことをしたことに。でも照れてしまうとまたみこちに主導権を奪われてしまう。それはやだ。舐めた自分の指をみこちの口元へ運んだ。
「舐めて? 痛くないように」
「……っ、じゃあこっちも舐めて?」
代わりにとばかりにさっきまで私の身体を弄っていたみこちの指を差し出された。自分でやっておいてなんだけど、この指でこのあと触られるんだと考えてしまうと変な気分になった。下腹部が妙に疼く。これじゃまるでみこちに触って欲しいみたいで。
「……っ、ぅあ……」
「ふぁ……ッ……ぅう……」
指先に熱い舌が触れる。なぞるように、味わうかのようにされている。感覚が研ぎ澄まされているようにひとつひとつの動きを意識してしまう。指がこんなにも敏感だとは思わなかった。真似するようにみこちの動きを追いかけた。解放された指は冷えたような感覚になる。でもまたすぐ熱くなるのだろう。
「っ、……きて」
「うん……」
桜色が真っ白なシーツに広がって綺麗だった。潤んだ翡翠には私しか映っていなかった。
グッと指を挿し入れる。ぎゅうぎゅうと柔らかな熱に包まれた。なんでだろう、すごく満たされた気持ちになった。
「ぁ、ぁ、ぁ……っ、は……す、ぃ、せ……ぇ」
「みこ、みこ……っ」
なんでかわからないけど、ただただ熱が冷めないで欲しいと思った。夢が覚めないでいて欲しいと思った。どこが気持ち良いかなんて考えてあげられる余裕もなかった。痛いかどうかすら気にかけてあげられなかった。わけもわからないまま、ただ指を出し入れしてその度に震えて喘ぐみこちに夢中になった。
「ぁ、っ、ま、ッ……ソコ……! きもち、から……ぁ!」
「ココ? ココね。もっと、きもちよくなって、もっと、声……きかせて……!」
気持ちいいとうわ言のように繰り返すみこちに、ようやく気持ち良くさせてあげないといけないなんて考えて、どこがいいかを探していく。速度を変え、角度を変え、強弱を付けてなんとなくイイ場所がわかってきたタイミングでみこちがぎゅうと私を抱きしめた。
「すいせ、ちゅー、した、い……っ!」
「ふはっ、かわい」
なんというかなんでそもそもこんなことをしているのかが頭から抜け落ちていた。ただただみこちを味わっていた。深い口付けを交わしながら、みこちは身体を震わせた。
さすがにもう終わろうか。そう思って指を抜こうとしたけれど、それをみこちの手が止めた。
「……さいごは、いっしょがいい」
「……ん」
「ナカには、いれないから、さわっていい……?」
「いいよ、みこの好きにして」
私にも触ると言うことなのだろう。正直、ずっと触って欲しかった。みこちを触るほどに気持ちいいのが溜まっていっておかしくなりそうだった。もはや下着は意味をなしていなかったくらいに。
みこちの指がくちゅりと音を立て、ソコに触れた。ただそれだけなのに溜まった快感が爆発しそうで、唇を噛んでそれを耐えた。
「っ、いたくない……?」
「はぁ、ないよ……きもちい」
「っ、そっか……みこもきもちい」
嬉しそうにしたみこちに私も嬉しくなって、胸が苦しくなって。動き出した指に息があがって、自分のとは思えない声が出て、気持ちが良くって。私もみこちを気持ち良くしてあげなきゃと思い出したかのように指を動かして、また舌を絡め合って。
段々と意識が薄れていく。視界が白んでいく。なにかがくるのがわかって、怖くなってみこちに縋るようにすれば大丈夫、と撫でられて。みこも一緒、とそう言うからそれに安心して、そのまま動きを止めなかった。
ぶわりと浮かんだような、雷に打たれたような、なんと言えばいいのかわからない感覚が足の先から頭の先まで突き抜けて、わけのわからない強い快楽に襲われて、私達は崩れるようにしてベッドに沈んだ。
目を覚ましたら離れてしまう。わかっていたけれど足掻くようにみこちを抱きしめた。
目を覚ましたらそこは自分の部屋だった。いつもと同じように大好きなウサギのぬいぐるみを抱きしめていた。それなのに、抱きしめていたのはみこちだったのに、なんて頭に浮かんで恥ずかしくなった。
今、何時だろう。ぼんやりと見上げた壁掛け時計は昼の十二時を示していて、こないだみたいに早くは目を覚まさなかったんだな、なんて考える。あれ、待てよ。これ本当に夢だったりとかしない?
慌ててスマホを探し、みこちから連絡が来ていないかを確認しようとした。そして気がついた。お気に入りのネイルが短くなっていることに。そして甘い快感が身体に残っていることに。
「いや……夢の方が、良かったかも……」
はぁ、と溜め息をついて顔を手で覆う。
これからみこちのことをどう見たらいいんだろう。やってしまった。文字通り、ヤってしまった。まさかビジネスパートナーとそんな関係になるなんて。
恋愛に興味がなくて、そういう行為だとかはより一層興味がなかったのに。してしまった。その事実が頭を悩ませる。多分、酔っていた。あの部屋の空気と、アルコールと、みこちそのものに。
「なかったことには……ならない、かなぁ……」
夢といえば夢だから、何も言わずにいれば済むかもしれない。お互いが夢を見たということにしてそのままでいればいい。
手にしたままだったスマホが震えた。画面に表示されたのはさくらみこからのメッセージ。
『すいちゃん、起きてる?』
多分同じくらいの時間に起きたということはそういうことなのだろう。やはりなかったことにはならないのだろう。考えても仕方ない。まどろっこしいのは嫌いだ。
すぐにみこちに電話をかける。でも、出ない。なんで、と繰り返しかけているとメッセージが再び届いた。
『ごめん、声出ない』
ぴしりと背筋が固まった。ホントにあるんだね、そういうこと。
『申し訳ありませんでした』
冷や汗を流しながら返事を返す。そしてやっぱりただの夢じゃなかったことを理解する。
『その、身体大丈夫……?』
なんて返せばいいのかわからない。なんせみこちの身体にかけた負担は大きかったはずだから。
『今日一日寝るから大丈夫。おやすみすいちゃん』
確認だけ取りたかったのだろう。そして終わりの言葉も真似された。
やり返されている。これ以上はお互い何も言わないでいる、ということなのだろう。それが一番いいのかもしれない。でも。
あの手触りのいい桜色も、揺らめく翡翠も、小さく甘い唇も、すぐに染まる頬も、滑らかな肌も、柔らかな身体も、熱い吐息も、私を呼ぶ声も、私を包んだあたたかさも、ぜんぶ。
「ぜんぶ……すいちゃんのに出来たらいいのに」
ただの同僚に持つ感情じゃない。こんな歪んだ独占欲。でも恋愛なんて綺麗なものでもない。ただ身体の関係を持ってしまっただけ。そこで知った欲に塗れた汚い感情。こんな感情すら持つなんて思わなかったんだけどな。
「……みこちのバーカ」
一番バカなのは自分だろという言葉を飲み込んで、もう一度ウサギのぬいぐるみを抱きしめた。
コメント
6件
気まぐれで選んだ過去の自分に感謝
あ、死ぬ(?) もっと伸びるべきよ...(
ありがとうございますゥゥゥゥゥ....!!!!本当にもう尊い...!!! 天才どころか神です😇もっと伸びるべき...