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〔絶望の記憶へ〕
プロローグ
_息が苦しい
僕はただ、迫り来る闇に飲み込まれないように、踏ん張って耐えるしかなかった
どこもかしこも、真っ暗だ
何も見えない
誰もいない
あの時と、同じ
荒れた海の奥底
深海の底に溜まった、どす黒くて、汚くて、重たい記憶
過去の過ちであり、大きな後悔であり、世界の色が灰に染まったあの日の夜
大衆という名の化けの皮を被った悪魔たちの声が、醜い顔が、今でもこの目に焼きついて離れない
それが、「記憶の天才」の心を、止めどなく削り続けていた
ふと、闇の奥に人影が見えた
誰かは分からない
だけど、知りたく無かった
思い出したく無かった
人影のコートが夜風に揺れる
見たことのあるピアス
「っ…!!」
目が合った。
光を失い、絶望の淵まで追い込まれた瞳が、こちらを瞬き一つなく、見つめている
怖くて仕方がない
『待て…君、何を考えている?』
ふと、あの時の自分の声が聞こえてきた
「…やめろ……」
声は届かない
女性は死んだ目のまま、口を開いた
『ちょうどよかった。聞きたいことがあったんだ。最後に』
耳を塞いでも、声は頭の中に響いてきて気色が悪い
女性は、その場に立ち尽くし、こちらを見る
そして、駆け出した時の会話が聞こえてきた
『それで思ったんだ。あれは願望だったんじゃないかって。「看板が落ちただけなんて真相じゃつまらない」「もし三栖釣ショウスケが誰かに殺されたのだとしたらそれは面白いじゃないか」っていう、願望』
走ってもないのに、息が上がってきた
冷や汗が出る
『…そうだよ、君は正しい。はぁっ、マスコミが世間を騙すんじゃない。…世間が、善良な市民こそが、マスコミを操るんだ』
世間が、大衆が、マスコミを操り、真の善人を殺す
被害者ぶった奴らが、画面越しから牙を剥くのだ
『彼らが望むのは、いつだって分かりやすい物語。その欲望に輪郭と餌を与えるのが私たち』
もはやそこに感情は無い
「やめて、くれ……」
思わず暗闇に膝をつき、目を固く閉ざす
『そしてすべてが終わった後、彼らはこううそぶくんだ。「自分たちも騙された、被害者だったんだ」ってね』
闇が、記憶が、襲いかかってくる
そして決定的な一言が、トドメを刺した
『ねえ恵美くん。…どっちの方が、救いがあったんだろう?』
声が震えていた
やがて女性は、目の前に広がる汚れた世界からの出口へ、一歩踏み出した
『待て、やめろ!やめろぉぉぉぉぉぉ!!!』
悲痛な声が鼓膜を震わせる
先ほどまで目の前に立っていた女性は、今は血塗れで倒れている
地面に何かが勢いよく叩きつけられた鈍い音が響き、記憶の回想は終わった
「…はぁっ、はぁっ、はぁっ」
いつの間にか、地面に倒れ込んでいた
胸を突き刺されるような痛みが走り、胸元を抑える
「………もう、やだ…………」
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#ちろぴの
星乃桜
280
ひー
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コメント
1件
プロローグからずっしり来る重さでしたね…。「記憶の天才」という設定が早くも心を削る仕掛けとして効いていて、フラッシュバックの生々しさに引き込まれました。女性の「どっちの方が救いがあったんだろう?」という台詞がぐさりと刺さります。まだ何も判明していないからこそ、この暗く閉塞的な導入がこれからの物語をどう照らすのか、気になって仕方ないです。続きが待ち遠しい。