「まあまあ、誰しも間違いはある物でござるよ、折角の親子の再会、その辺にしておくのでござるよ、ねっ? シヴァ君」
「……あ、ありがとうございます、善悪様」
「善悪? ぬぬぬっ! 貴様は昨夜の能面野郎だな! 卑怯な手を使いやがってぇ! お前も許さないからな! ここには貴様なんぞゴミ同然に握りつぶせる親父やオジサンオバサンも揃っているのだぞぅ、覚悟して置け! この虫けらめぇ!」
このスカンダの無礼な発言を受けて、何も答えないままにブンブンと首を振り否定し捲っているスプラタ・マンユ達の後ろに立っていたアスタロトがいつに無くガチな感じでイスカンダルに言うのであった。
「それで、貴様はどう戦うというのだ? 遠慮なく来るが良い! 我が魂魄(こんぱく)に誓った忠誠を見せてくれん! 名も無き地虫が随分調子に乗っているようだしな」
「んあ、アスタさん! こいつどっかで見たと思ったら、アレクサンドロス三世だよ、キョロロン! 肉親じゃあ殺し難い(にくい)だろうし、一思いに殺ってあげた方がシヴァも気が楽でしょ? 殺ろう殺ろう殺ろう殺ろう殺ろう殺ろう殺ろう殺ろう殺ろう殺ろう殺ろう殺ろうー! キョロロン」
「アレクサンドロス? ……あ! ああ、あの小僧か、これ? んじゃちゃっちゃと殺しとくか――――」
「キョロロォォォ♪」
ドガッ! ピュ――ン、バゴォっ!
カイムの歓喜の声が発せられたのと同時に、シヴァが自分の数十倍の息子、イスカンダル、アレキサンドロス三世を殴りつけ、納骨堂の壁に激突させてから、アスタロトとカイムに向かって見事な土下座を披露しつつ言うのである。
「アスタ様、カイム殿、お願いでございます、この愚息(ぐそく)めは俺が責任を持って教育し直しますので、何卒(なにとぞ)、なにとぞ、ご容赦くださいませぇ!」
その言葉を聞いたアスタロトは、つまらなそうに地蔵がめり込んだ内壁に一度目を向けてから言うのであった。
「んまあ、神とも崇められたそなたの願いを聞き届けぬほど朴念仁(ぼくねんじん)では無いつもりではあるしな…… だがな、しっかりと言い聞かせろよシヴァ!」
「あ、在り難き……」
「なんだぁ、殺さないのかぁ…… ちぇっ、残念だねぇ、キョ~ロロ~」
一連の流れの中でめっちゃ頻繁に『殺』の字が出て来た事に気後れしていたコユキが、善悪の袖を摘まみながら小声で漏らした。
「ね、ねえ、善悪ぅ! 何か皆…… 恐くない? ってか恐いよぉ! うちの子たちってこんなに邪悪だったっけぇ?」
尤も(もっとも)な意見であろう、見ているだけの私、観察者だって最近の『聖女と愉快な仲間たち』に散見される邪悪さにドキドキしっぱなしなのが本音だったんだから……
善悪はいつも通りの人懐っこい笑顔を浮かべて答えたのである。
「みんな、コユキ殿や某を守ろうと一所懸命になってくれているのでござるよ! 恐いとか言っちゃぁダメでござろ? こう考えてみれば良いのでござるよ、恐いとか嫌いとか言うんなら、そう思った相手が敵になっても文句は無いわ! いやむしろ敵として掛かって来なさいって、アスタや皆に言えるのでござるか? 嫌でしょ? 自分の理想なんか押し付けちゃダメだよ、みんなそれぞれ違うのは当たり前、でも目的の為に違いを乗り越えて力を合わすのでござるよ! どう、どう? どんな気持ちぃ? 僕チン坊主っぽい?」
コユキは暫く考えた後、明るい顔で答えたのである。
「そっか、そうね! 多少恐めに見えてもアスタはアスタだし、カイムちゃんはカイムちゃん、か…… アタシも善悪も元は悪魔、それも魔神王だったらしいし、苦手とか怖いとかじゃなくて、自分の役目を全うする事だけ考えていればいいのね! その事に協力してくれる仲間が、皆が恐れず怖じず自分の精一杯で向き合ってくれてるんだもんね♪ そっかそっかぁ、良いね! 頼もしい事この上無いじゃないのん! 分かったわよぉぅ! 善悪っ!」
「うん、その意気でござる! コユキ殿! 僕チンも出来る事の全部の全部で本気の本気で頑張るのでござる! 期待しててね!」
「…… 馬鹿ね、んな感じじゃすぐ死んじゃうわよー、命大事で行きましょ、お互いにね…… さて、地蔵を壁から抜いてさ、ご飯の続きを食べようよ、皆もさ、ご飯食べよっ!」
「「「「「「「「りょ!」」」」」」」」
何だか思いがけず結束が強まった感じの『聖女と愉快な仲間たち』、待ち受ける魔神バアルの捕獲に乗り出す運命の時は、もう目の前に迫っていたのであった。
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