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亮馬さん、2話目も読ませていただきました。 池岡さんの身に起きたことが少しずつ明らかになって、胸が苦しくなりました……「孤狐」の異様さと、それでも舞台の役を思い出して笑う池岡さんのプロ根性に、ぐっときましたね。笹倉医師のさりげない気遣いも温かくて、このふたりの距離感がこれからどう変わっていくのか、とても気になります。続きが楽しみです。
ー池岡 亮介 編ー
患者が到着したようだ。
「身分が解るものは?」
「現場にあった財布に免許証が。」
救急隊に渡された免許証を見る。
「池岡…亮介……!?」
池岡亮介。舞台をメインに、ミュージカルやドラマ、映画にも出てた俳優だ。
「お知り合いですか?」
「いえ、この人俳優さんなんです…!」
「はしゃぐのは良いので、早く処置を。」
冷徹な看護師の六手に言われ、俺は処置を始める。
顔には擦過傷や切創、前髪の生え際には大きな裂傷が。
(頭を何かに叩きつけられたのか………?)
俺はそんな事を思いながら、医療用ホチキスで傷を塞ぐ。
そしてどうやら、三日ほど飲まず食わずのようだった。
俳優だからこそ、少し細めの体がそれ以上に痩せていた。
ホチキスで傷を塞いだ後に、点滴の用意も始める。
(この人には一体、何があったんだ…)
そうして数時間後の深夜二時。俳優というのもあり、患者の方が騒ぐのを防ぐ為に個室で入院させることに。
「はぁ…主治医俺か。」
池岡さんの主治医は俺が持つことに。
俺はカルテを描きながら隣でまだ意識を戻していない池岡さんを観察する。
(俳優ってことは…ファンからの一方的なやつかな。)
今は警察が捜査をしているらしいが、多分そうだ。
誰かに恨みを買ったか、熱狂的なファンからのものだろう。
「っ………?」
すると、池岡さんが目を覚ました。
「池岡さん、ここがどこだか分かりますか?」
彼は起き上がり、周りを見渡す。
「……びょう、いん…?」
「ええ。僕、主治医になりました笹倉です。」
俺は自分の名札を見せながら言う。
「……やっと、にげられたんだ…………」
池岡さんはそうこぼす。
垂れ目のその目には、何かから逃げられた事に対する安堵が滲んでいた。
「今はもう暫く休んでいてください。」
俺がそう言うと、池岡さんは静かに頷いて横になる。
綺麗に整った顔には、絆創膏やガーゼが沢山貼られていて、額にも包帯が巻かれている痛々しい姿をしている。
明日から警察からの事情聴取が始まるらしい。
一体、彼の身になにが起こったのか………
翌日。池岡さんは起床時間にしっかりと目を覚ました。
いつ頃から意識を失ったかだけ聞いて食事を調整する。
「あ、そういえば…」
俺はそうこぼし、彼の携帯を渡した。
「俺の携帯…!」
「現場付近に落ちていましたよ。ついでに池岡さんのものと思われるリュックもなんですけど…これは池岡さんのですか?」
彼に携帯で撮った黒いリュックの写真を見せた。
「俺のものです…!」
「ならよかったです。所属事務所の方にも連絡はしてありますので、警察の方が来るまではしっかり体を休ませてくださいね。」
そう言って俺は病室を出る。
お昼すぎ、警察が事情聴取に来た。
まだ池岡さんが足の怪我で動けない為に、病室で行われた。
俺もその場に同席することになり、今後のカウンセリングの参考にする為にメモを取る。
「…二十ニ日の夜、ですかね。舞台の稽古から帰る途中でした。」
池岡さんが重そうな口を開く。
「……仮面を、着けてました。狐の、目しか隠れないやつです。」
「突然後ろから眠らされて、目を覚ましたらそいつが居ました。」
『…っ!誰ですか……!』
『ふふっ!あたしは孤狐。孤独の孤に、狐って書いて孤狐!』
話す彼の手が震え出す。
それでも口を動かすのを辞めなかった。
「そいつは…孤狐と名乗りました……。孤独の孤に、狐って書くらしいです…」
担当の警察が、丁寧に尚且つ素早くメモを取る。
「話せる範囲で構いませんが、そこで何を……?」
そう聞かれた池岡さんの顔は真っ青だった。
「……殴られたり、蹴られたり。あと、根性焼きって言うんですかね……とか…………」
『ゔあ゛!!いだ……ぃ…………』
『ねぇ池ピー、なんであたしを認知してくれないの?TwitterもInstagramも、全部フォローしてDMもしてるのに…!』
色々話し、池岡さんは悲しそうに笑う。
「…まぁ、商売道具の顔には傷痕が残らなさそうなので、そこはよかったです。」
警察は何も言えないまま、メモを取る。
そして、池岡さんにこう問うた。
「……意識を失ったのは、いつくらいですか?」
池岡さんは少し悩むような、考えるような仕草をすると、答えた。
「多分……二十四日だと思います……。壁に頭を叩きつけられて……」
俺はそれを聞いた瞬間、はっとした。
彼が出ていた舞台、「残酷歌劇『ライチ✩光クラブ』」で演じた雷蔵という役。
その役は、最期ロボットに顔を壁に潰されて息絶えるものだった。
「なんか…ライチの時みたいだなーって思いながら意識を失った記憶がありますね。」
「ライチ?」
どうやら池岡さんも同じ事を思っていたようだ。
「はい。大体…十一年前に公演した「残酷歌劇『ライチ✩光クラブ』」って言うミュージカルです。俺が演じた役は最期、顔を壁に潰されて死ぬんですけど。」
警察はそれを聞いて、メモを素早く取る。
本家の漫画では、雷蔵はロボットによって顔の皮を剥がされてしまう。
もし、その残酷歌劇での演出が漫画と同じものだとしたら……
そう思うと、少し寒気がした。
「…ありがとうございました。また明日も来ますので、よろしくお願いします。」
警察はそう言って、病室を後にした。
池岡さんは警察が退出した瞬間、勢いよく横になった。
「はぁ……なんでこうも、思い出したくない事を思い出させるんだか。」
「お疲れ様です。あはは、やっぱりそう思いますよねぇ〜」
俺は軽く相槌を打ちながら布団を整えてあげる。
「僕は精神科も診れます。なので、メンタルの面で何かあればいつでもお話聞きますよ。僕、もはや病院に住んでるので……」
そんな軽い冗談を言えば、池岡さんもふっ、と笑う。
「ありがとうございます。」
芸能人を診るなんて、俺は初めてだ。
俺にうまく出来るか分かんないけど、やるしかないから。