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「あの、細波さん、水島さんは……」
「彼ですか? いやあ、興味を持ってくださりありがとうございます」
細波さんに勘違いされてしまい、彼は嬉々として話し出した。「水島は海外事業でもなかなか優秀な人材なのです。今回のM&Aの話が出たときに、彼がこのプロジェクトに参加したいと帰国をしましてね。日本食を海外にも広めたいとのことで、こちらの要望に応えられる店舗であるか、得意商品などを研究し、海外にも日本食を展開していくというビジネス展望を見据えているわけでして――」
細波さんの話は止まらなかった。
正直、おもしろそうなビジネスだ。今の日本だけではどうしても商社の売り上げは頭打ちだ。海外に展開を広げるのもうなずけるし、子会社化したり傘下に入れることで互いに共存していくスタイルが、今の日本社会の姿といえよう。
ただなあ~~~~~。
水島と組むのがなあ~~~~。
ていうかこのM&Aのために帰国したんだ。TENGAの企画でとんでもないヤツ呼び戻しちゃったんだなあ~~~~~。
だめだ。ビジネスに私情を挟んではいけない。
いや、先生が絡んでいなかったら別に大嫌いな奴と仕事するのなんか、ぜんぜん平気なんだけど。
僕は佑里香先生が絡むといろいろダメになる。
「面白そうなお話ですね。弊社もお力添えができるように全力を尽くします」
「そうですか! ではまた明日9時からスーパー巡りできますか?」
「手配します」
1時間ほど打ち合わせをし、今後のビジネスビジョンを聞いて資料をもらって退席した。
「なあ、潤。相談に乗ってくれ」
僕は待機していた社用車の後部座席に乗り込み、ミラー越しに潤を見つめながら言った。
「ん? 睦月が相談なんて珍しいな。M&Aの件、難航しそうなのか?」
「逆だ。面白い提案を転がしてきた。これ、明日までに目を通しておいて」
資料は2部もらっておいたので、1部を助手席に放り投げた。彼の分だ。「明日、朝からスーパー巡りしたいって。また各店にアポ取りしておいて欲しい」
「了解。で、相談って?」
「ライバルだよ」
「ライバル? なんだ、翠子あたりががM&Aの邪魔してきたのか?」
「違う。昨日も言ったけど、僕の恋敵だ。かなりの強敵が現れた。水島ってヤツなんだけれど、先生の同級生で、水島(あいつ)も先生が好きなんだ」
「ほー、こりゃまた」
低い声だったのが、若干トーンが高くなり好奇心あふれる声に変化した。潤……ぜったいこの状況を楽しんでるな!
でも、それより先生を取られない方法を考えておかなきゃ。
「小学生の時に店(おりがみ)の前で見たことあるヤツなんだ。先生に告白しようとして失敗してたところを目撃した」
「どんだけ昔の話だよ」
「そいつが! 海外から帰ってきたんだ!! しかも今回の仕事にいちまい噛んでる」
「へえ」
「初めてなんだ。冷静にいられないのが。仕事に支障をきたす可能性がでてきたから困ってる。だから相談」
「そうか。じゃ、ちょっと事務所行こうか。込み入った話も含めて作戦練ろうや」
そう言って潤はハンドルを切り、TENGAを目指した。
TENGAに着いた。18時で基本的に事務所は閉める。オペレーターやほかの社員は帰らせるようにしているが、残って作業をしたり、おもしろい企画を立ててくれたり、自主的に仕事をしてくれている人ばかりだ。
水之江蘭丸(みずのえらんまる)25歳、男性、エンジニア。見た目はキレイ系でうすいブラウンをしたやや長髪をひとつくくりにしている。TENGAのシステムを手掛けてくれている。彼は潤の知り合いだ。潤は結構遊び人だから、顔が広い。人脈もしっかりあるから助かっている。システムについては蘭丸の腕はなかなかのもので、彼に任せておけばなんら問題ない。
続いて林下竜志(はやしたりゅうし)40歳、男性、企画・営業担当。前に勤めていた会社は大手の証券会社。投資セミナーで知り合い、なぜか惚れこまれてTENGAに転職してくれた。M&Aの件は彼の立案が大きい。TENGAは投資会社なので、彼の幅広い証券の知識は頼りにしている。真面目なクリボーといった表現がぴったり似合う男性だ。
そして白柿京奈(しらがきけいな)26歳、女性、事務・オペレーター・受付業務などを兼務。大き目の丸眼鏡をかけた真面目女子と思いきや、ひとたびTENGAを出れば、大変身してなかなかの遊び人。二の腕あたりまで伸ばされたストレートヘアが特徴。夜の女王と呼んでもいいかもしれない。ちなみに彼女も潤の知り合い。
そして、大脇潤と社長の僕。たいてい竜志さんや潤が営業で仕事を持ってきてくれるから、それを僕が現地に赴いて精査。留守番はみんなに任せておけば、僕は好きに動いて営業したり人に会ったり大学に行ったりできるというわけ。
我ながらいい会社を作ったもんだ。
これを馬鹿みたいに大きくしたいとは思っていない。このままで十分利益は出せているから、あとはみんなの負担を減らすためにもう少し人材を増やしたい。
「社長、お客様がお待ちです。アポは取っていないそうですが、お戻りになるまで待っているとのことで、お待ちいただいております」
戻ったばかりの僕に京奈が声をかけてくれた。誰だろう?
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