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昨日、ラウラと想いが通じ合った後、俺たちはデートを切り上げて王宮へと戻った。

危険な目に遭ったラウラを早く医者に診せて休ませてやりたかったし、ラウラに刃物を向けたクソ野郎を尋問して、誘拐なんぞを企てる犯罪者どもを叩き潰さなければならなかったからだ。


ラウラに観光を楽しませてやれなかったのは心残りだが、また別の機会に出かければいいだろう。


(そうだ、俺たちは晴れて恋人同士になったのだから、これからデートをする機会はたくさんある)


そう考えて、俺は自然に緩む口を慌てて押さえる。

まずい、「恋人」という単語がこれほどまでに胸をくすぐるものだとは。


上司と部下の関係だったときも少し特別感のようなものを覚えていたが、恋人の特別感はその比ではない。


「俺だけのラウラ」だと思うと、ただでさえ可愛かった彼女がさらに何倍も愛らしく見える。

何もしなくても一緒にいるだけで、幸せな気持ちが満ちてくるのだ。


とは言え、せっかく恋人になったのだから、何か恋人らしいことはしたい。


(……だが、恋人らしいこととはなんだ?)


デートをして、甘い言葉をささやくことか?


何かお揃いの物を身につけるとか?


あとは、彼女の綺麗な髪や手に口づけたり……。


(いやいやいや、まだ付き合って二日目なのに早すぎる。先を急いでがっついてると思われたくないし、紳士らしくゆっくり行くべきだ)


また湧いて出てきた邪念を振り払おうと、俺は頭を振る。


「そうだ、少しずつ恋人らしくなっていこう」

「へえ、恋人同士になったんだね。おめでとう、イザーク」

「兄上!?」


いつのまにか俺の目の前には笑顔の兄上が立っていた。


「……勝手に入ってこないでもらいたい」

「ごめんね、扉に鍵が掛かってなかったから、つい」


兄上はいつものように全く悪びれる様子なく、言いたいことを喋り始める。


「そんなことより、やっとラウラちゃんに告白したんだね。ずっと好きだったんだろう?」

「な、なぜそれを……」

「イザークのラウラちゃんへの態度を見て気づかないほうが馬鹿だよ」


さも当然のように言われ、自分では隠していたつもりなのに、そんなに分かりやすかっただろうかと少し恥ずかしくなる。


「ふふ、今が一番幸せなときだね。でも、イザークは女の子と付き合うのは初めてだろう? どうしたらいいか困ってることもあるんじゃない? 僕でよければアドバイスするよ」


兄上が珍しく兄らしいことを言い出す。

たしかに、俺にとって女性と付き合うというのは初めての経験だ。誰か経験者に話を聞きたいとは思っていた。


兄上はそれはもう大勢の令嬢と恋仲になってきたから、案外いい助言がもらえるかもしれない。


俺は、これ幸いと兄上に教えを乞う。


「その、ラウラと恋人らしいことをしたいんだが、兄上ならどうする?」

「うーん、そうだな、ベッドでイチャイチャするとか?」

「な、ベッド!? ……兄上に聞いた俺が馬鹿だった。さて、さっさと帰ってもらおうか」


兄上を追い出そうとして椅子から立ち上がった途端、俺は軽い目眩に襲われてよろめいた。


「イザーク、大丈夫? 具合が悪いんじゃない?」

「……いや、少し寝不足なだけだ。最近、徹夜が続いていたからな」


昨晩も、ラウラが巻き込まれた人攫いの件を一刻も早く解決したくて、深夜までいろいろ仕事をしていたのだった。


体力には自信があるが、さすがにそろそろ少しは身体を休めたほうがいいのかもしれない。


「今日は仕事は休んだら? そんな体調で仕事しても捗らないと思うな。僕は気分が乗らないだけで休むこともあるよ」

「兄上と一緒にしないでもらいたい。……だが、そうだな。今日必要なことはすでに指示を出してあるし、大事をとって休むことにする」

「うん、そうしなよ。ラウラちゃんはどうする?」

「ラウラは昨日のこともあるし、もともと今日は休みにしていたから大丈夫だ」

「そっか、ちょうどよかったね。じゃあ、イザークは早く部屋に行って休むといいよ」

「ああ、そうさせてもらう」


そうして俺は、弟が体調不良だというのに、にこにこと微笑む兄上に若干の苛立ちを覚えつつ、自室に戻ったのだった。



◇◇◇



「……もうこんな時間か。よく寝たな」


時計を見るに、どうやら5時間も眠っていたらしい。

やはり寝不足だったのだろう。


長時間眠ったおかげで睡眠不足は解消された気がするが、寝過ぎたせいで少し身体がだるい。


俺はベッドで横になったまま、サイドテーブルに置いてある呼び鈴を鳴らす。


しばらくしてから聞こえたノックに返事をし、身体を起こしたところで、俺は驚きのあまり目を見開いたまま固まってしまった。


「す、すみません、失礼します……」


なんとそこには、部屋で休んでいるはずのラウラがいたからだ。ラウラは心配そうに俺を見つめている。


「ラウラ……? なぜここに?」

「あの、アロイス王子から、イザーク王子の具合が悪くて今日はお仕事を休むから、看病してあげてって言われまして……。お邪魔じゃなかったら、イザーク王子のお世話をしてもいいですか?」


ラウラが、俺の看病を……?


彼女が具合の悪い彼氏のために看病する──これはまさに俺がしたかった「恋人らしいこと」ではないか?


(兄上、さっきは何の参考にもならない色ボケのろくでなしだと思ってしまってすまない。ありがとう……)


俺は心の中で兄上に感謝し、緊張して顔を赤らめている可愛いラウラに返事をする。


「邪魔なわけがない。とてもありがたい。ちょうどここに椅子があるから、座るといい」

「よかったです。体によさそうな食事も作ってきたんです。一緒に食べましょう」

「俺のために、ラウラが料理を……?」


なんだそれは可愛すぎる。

恋人の初めての手料理……ああ、この記念すべき食事を今すぐ一流画家に描かせて、立派な額縁に入れて飾りたい。


俺がそんなことを考えている間に、ラウラがてきぱきとベッドの上に食事を用意してくれる。


「はい、具材が柔らかくなるまで煮込んだスープです。消化にいいですよ。パンをひたして食べるのもおすすめです」

「とても美味そうだ」

「ふふ、栄養もたっぷりですから、これを食べて早く良くなってくださいね。はい、あーん」

「ああ、ありがとう」


あまりにも自然なラウラからの「あーん」に、つい俺も普通に口を開けそうになってしまったが……。


(いいのか……? こんなにも簡単に恋人からの「あーん」が手に入っていいというのか……!?)


俺が赤面してラウラの持つスプーンを凝視してしまったせいで、ラウラも自分の行動がおかしかったのかもしれないと思ったらしい。少し慌てた様子で言い訳を始めた。


「あ、あの、ヴァネサが体調を崩して看病していたときは、いつも自分で食べるのが面倒だからって私が食べさせていたので、それで……! すみません、普通は大人にこんなことしないですよね……!」


なるほど、そういうことだったのか。


(魔女ヴァネサよ、ラウラに「あーん」の習慣をつけてくれてありがとう……ありがとう……)


俺はヴァネサにも感謝を捧げる。

もはや彼女には仕事の前金どころか、追加で礼金を支払いたいくらいだ。


「ラウラ……実は俺も疲れのせいか腕が上がらなくてな……。代わりに食べさせてもらえると嬉しいんだが」


俺はいかにも腕を上げるのが辛そうな感じを出して、ラウラにお願いする。


ラウラから「あーん」をしてもらいたいからだけでなく、ラウラに恥をかかせないためだ。そう、ただの下心からの頼みではないのだ。


「そ、それなら私が食べさせてあげるしかないですね。……では、イザーク王子、口を開けてください」

「……さっきの言い方がいいな」

「えっ、さっきの……!? は、はい、あーん」


ものすごく恥ずかしそうにスプーンを差し出すラウラが本当にいじらしくて愛おしい。

愛情のこもった美味いスープを口の中に収め、幸せを感じながら飲み下す。


「イザーク王子、美味しいですか?」

「ああ、今まで口にした何よりも美味い」


嬉しそうに笑うラウラがあまりにも天使すぎて、一瞬これは俺の妄想が生み出した夢で、俺は本当はまだ眠ったままなんじゃないかと怖くなったが、頬を思い切りつねったらかなり痛かったから夢ではないようだ。よかった。




「……じゃあ、もうこんな時間なので、私はそろそろ失礼しますね」

「ああ、今日は看病してくれてありがとう。……ラウラと一緒に過ごせて嬉しかった」

「わ、私もイザーク王子と一緒にいられて嬉しかったです……! 早く、元気になってくださいね」

「ああ、明日は仕事に行けそうだ」



──その言葉どおり、俺はすぐに完全回復した。


身体が驚くほど軽くて元気になり、俺は恋人からの看病の威力を実感したのだった。



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