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第63話「展示会で彼氏だとばれる」
展示会初日。
午前八時。
東京ビッグサイト。
森野。
相沢。
会社のブース。
まだ来場者はいない。
「相沢さん」
「はい」
「パネル、少し右です」
「このくらい?」
「もう少し」
「ここ?」
「行きすぎです」
「厳しい」
「曲がってると気になります」
二人。
朝から。
設営。
パンフレット。
名刺。
商品サンプル。
モニター。
受付表。
森野。
展示台。
見る。
「これでいいですね」
相沢。
「完璧?」
「八十五点」
「残り十五点は?」
「始まってから考えます」
午前九時半。
田中。
到着。
「おはようございます」
森野。
「おはようございます」
田中。
二人を見る。
「早いですね」
「八時から準備です」
「二人で?」
「担当ですから」
田中。
「朝からデートみたい」
「展示会です」
「分かってます」
午前十時。
開場。
一気に。
人。
増える。
「いらっしゃいませ」
森野。
説明。
「こちらが新サービスです」
相沢。
別の来場者。
「導入コストについてはこちらをご覧ください」
忙しい。
昼。
休憩。
交代。
森野。
「相沢さん、先行ってください」
「森野さんは?」
「十二時半から」
「一緒じゃないの?」
「ブース空けられないでしょう」
田中。
「珍しく正論」
森野。
「いつも正論です」
午後。
さらに。
混雑。
森野。
説明。
相沢。
名刺交換。
田中。
資料補充。
三人。
ほとんど。
休めない。
午後四時。
少し。
落ち着く。
相沢。
ペットボトル。
森野へ。
「水」
「ありがとうございます」
「全然飲んでないでしょ」
「忘れてました」
「ちゃんと飲んで」
「はい」
田中。
見る。
「自然ですね」
森野。
「何が?」
「世話焼くの」
相沢。
「同僚として」
田中。
「便利な言葉」
二日目。
午前十一時。
昨日以上。
混雑。
森野。
三人同時。
対応。
「少々お待ちください」
そこへ。
別会社。
男性。
「すみません」
森野。
「はい」
「こちらについて」
「ご説明します」
十分。
説明。
男性。
名刺。
渡す。
「ありがとうございました」
「こちらこそ」
男性。
去らない。
「あの」
「はい」
「仕事とは関係ないんですけど」
森野。
「はい?」
男性。
「森野さんって」
少し。
照れる。
「彼氏とかいるんですか?」
森野。
止まる。
近く。
相沢。
別の客。
説明中。
田中。
パンフレット。
持ったまま。
見る。
森野。
「あの」
男性。
「もしよかったら」
「すみません」
森野。
「います」
男性。
「あ」
「付き合っている人」
「そうなんですね」
「はい」
「すみません」
「いえ」
男性。
去る。
田中。
すぐ。
来る。
「今日二人目」
森野。
「何が?」
「誘われた人」
「一人目です」
「午前中にも名刺の裏に電話番号書いて渡されたでしょう」
森野。
「仕事の連絡先だと思ってました」
「森野さん」
「はい」
「鈍い」
「知りません」
相沢。
戻る。
「何の話?」
田中。
「森野さんがまた」
森野。
「田中さん」
「はい」
「仕事してください」
午後三時。
問題。
起きる。
来場者。
多い。
通路。
混雑。
森野。
資料。
運ぶ。
段ボール。
両手。
前。
見えにくい。
「森野さん、それ俺持つ」
「大丈夫です」
「重いでしょ」
「大丈夫」
一歩。
床。
電源コード。
森野。
足。
引っかかる。
「あ」
身体。
前。
倒れる。
相沢。
すぐ。
腕。
つかむ。
もう片方。
腰。
支える。
段ボール。
床。
落ちる。
森野。
倒れない。
相沢。
「大丈夫?」
「……はい」
周囲。
見る。
来場者。
数人。
会社の人。
田中。
他部署。
みんな。
見る。
相沢。
森野を。
抱えるような形。
森野。
「相沢さん」
「痛いところない?」
「ありません」
「本当?」
「はい」
「足は?」
「大丈夫です」
「よかった」
森野。
小声。
「それより」
「何?」
「手」
相沢。
「あ」
腰。
離す。
田中。
少し離れたところ。
笑い。
こらえる。
森野。
「田中さん」
「何も言ってません」
「顔」
「顔は自由です」
その日の夕方。
展示会。
終了。
会社。
グループチャット。
なぜか。
話題。
『今日展示会行ったけど、相沢さんと森野さんって付き合ってる?』
別部署。
『やっぱり?』
『森野さん転びそうになったとき相沢さんの反応が彼氏だった』
『普通に助けただけじゃない?』
『いや、あれは彼氏』
『腰支えてた』
『距離近かった』
森野。
スマートフォン。
見る。
「……」
相沢。
「どうした?」
森野。
画面。
見せる。
相沢。
読む。
「広まってる」
「どうするんですか」
「何が?」
「会社中に」
「もう結構知られてない?」
「営業企画部だけです!」
田中。
横。
「総務も知ってます」
森野。
「え?」
「経理も」
「え?」
「人事もたぶん」
「なぜ?」
田中。
「同じ住所」
森野。
「……」
相沢。
「じゃあ今さら」
森野。
「今さらって言わないでください」
三日目。
朝。
会社ブース。
他部署の社員。
森野。
見る。
相沢。
見る。
また。
森野。
見る。
森野。
「相沢さん」
「はい」
「見られてます」
「そうだね」
「落ち着かない」
「気にしなくていい」
「相沢さんは気にならないんですか?」
「別に」
「どうして?」
相沢。
普通に。
「付き合ってるの本当だから」
森野。
止まる。
「……」
「隠す必要ある?」
「隠してはいません」
「じゃあいいじゃん」
森野。
「そうですけど」
そこへ。
部長。
展示会。
視察。
「おう」
「お疲れさまです」
部長。
二人。
見る。
「会社で話題になってるぞ」
森野。
「部長まで!」
「相沢が森野を抱きしめたって」
相沢。
「抱きしめてません」
森野。
「転びそうになっただけです!」
部長。
「分かってる」
「じゃあ訂正してください」
「面倒だから嫌だ」
「部長!」
午前十一時。
来場者。
また。
多い。
森野。
説明。
相沢。
説明。
普通に。
仕事。
昼。
二人。
休憩。
会場の端。
ベンチ。
コンビニ。
サンドイッチ。
森野。
「相沢さん」
「何?」
「昨日」
「うん」
「ありがとうございました」
「転びそうになったやつ?」
「はい」
「普通でしょ」
「でも」
森野。
「助かりました」
「どういたしまして」
「あと」
「うん」
「会社に」
少し。
迷う。
「知られても」
「うん」
「もういいかなって」
相沢。
見る。
「本当に?」
「はい」
「どうして?」
「隠すの」
森野。
サンドイッチ。
見ながら。
「疲れました」
相沢。
笑う。
「理由それ?」
「それもあります」
「他は?」
森野。
「別に」
「別に?」
「……」
少し。
間。
「相沢さんと付き合ってること」
「うん」
「知られて困ることじゃないので」
相沢。
何も。
言わない。
森野。
「何です?」
「嬉しい」
「そうですか」
「森野さん」
「はい」
「俺も」
森野。
少し。
笑う。
午後二時。
展示会。
会社の若手社員。
ブース。
応援。
森野へ。
「森野さん」
「はい」
「聞いていいですか?」
「仕事なら」
「相沢さんと」
森野。
「あ」
周囲。
静かになる。
若手。
「付き合ってるって本当ですか?」
田中。
少し離れたところ。
見る。
相沢。
来場者対応。
まだ気づいていない。
森野。
一瞬。
迷う。
今までなら。
「仕事中です」
そう言って。
逃げた。
でも。
今日は。
「はい」
若手。
「え?」
森野。
「付き合ってます」
周囲。
「おお」
森野。
「何ですか、その反応」
若手。
「いや、本人から初めて聞いたので」
田中。
拍手。
森野。
「拍手しないでください!」
相沢。
戻る。
「何?」
田中。
「森野さんが」
「はい」
「相沢さんと付き合ってるって公表しました」
相沢。
森野を見る。
森野。
「聞かれたので答えただけです」
「そう」
「何です?」
「いや」
相沢。
笑う。
「嬉しい」
森野。
「二回目です」
展示会。
終了。
午後六時。
撤収。
パネル。
外す。
パンフレット。
箱。
入れる。
三日間。
終了。
森野。
「疲れました」
「お疲れ」
「相沢さんも」
田中。
「じゃあ私は先帰ります」
「お疲れさまです」
田中。
少し。
歩いて。
振り返る。
「二人は?」
森野。
「片付け終わったら」
田中。
「デート?」
森野。
いつものように。
「違います」
言おうとして。
止まる。
相沢。
見る。
森野。
「……夕飯くらい」
田中。
「おお」
「何です?」
「認めた」
「もういいです」
田中。
笑いながら。
帰る。
片付け。
終了。
会場。
出る。
夜。
相沢。
「何食べる?」
森野。
「何でも」
「また一番困るやつ」
「今日は疲れたので」
「じゃあ近くで」
「はい」
歩く。
森野。
「相沢さん」
「何?」
「会社で」
「うん」
「付き合ってるって言いました」
「聞いた」
「思ったより」
「うん」
「何も変わりませんでした」
「そんなもんじゃない?」
「もっと」
森野。
「面倒になると思ってました」
「明日から田中さんが面倒かも」
「それは今までもです」
二人。
笑う。
翌週。
月曜日。
営業企画部。
森野。
出社。
相沢。
出社。
「おはようございます」
「おはようございます」
田中。
二人を見る。
「おはようございます、社内公認カップル」
森野。
「その呼び方やめてください」
部長。
「朝からうるさい」
田中。
「部長」
「何?」
「社内公認ですよね?」
部長。
「仕事してれば何でもいい」
森野。
「それでいいです」
午前十時。
メール。
人事部。
森野。
開く。
件名。
『社内報インタビューのお願い』
森野。
読む。
『今回、社内コミュニケーション特集として、部署を越えた交流や働き方について――』
途中。
一文。
『相沢様と森野様のお二人にも、職場でのパートナーシップについてお話を伺えればと考えております』
森野。
止まる。
相沢。
「どうした?」
森野。
画面。
見せる。
相沢。
読む。
「社内報」
森野。
「嫌です」
田中。
後ろから。
「何です?」
森野。
「見ないでください!」
田中。
見る。
「社内恋愛インタビュー!」
「違います!」
「職場でのパートナーシップ!」
「言い換えただけです!」
相沢。
笑う。
森野。
「笑い事じゃありません」
「断る?」
森野。
メール。
見る。
「……」
少し。
考える。
「内容を確認してから」
田中。
「受けるんだ」
「仕事の話ならです」
相沢。
「恋愛の話だったら?」
森野。
即答。
「相沢さん一人でお願いします」
「俺だけ?」
「はい」
田中。
「タイトル決まりましたね」
森野。
「何です?」
田中。
笑う。
「『エルフの彼女と社内恋愛する方法』」
森野。
「絶対嫌です!」
しかし。
その日の午後。
人事部から。
インタビューの質問案が届いた。
一問目。
『お互いの第一印象を教えてください』
森野。
画面。
見つめる。
二問目。
『相手の仕事上、尊敬しているところは?』
森野。
まだ。
大丈夫。
三問目。
『お二人が親しくなったきっかけは?』
森野。
怪しくなる。
四問目。
『職場恋愛で困ったことはありますか?』
森野。
「……」
五問目。
『相沢さんから見た森野さんの魅力を教えてください』
森野。
パソコン。
閉じた。
「無理です」
相沢。
「まだ読んでる途中」
「無理です」
「俺は答えられるけど」
森野。
見る。
「何て?」
「それは」
相沢。
少し。
笑う。
「インタビューで」
森野。
「今言ってください」
「本番まで秘密」
「気になります」
「じゃあ受ける?」
森野。
悩む。
仕事。
恋愛。
そして。
好奇心。
三つ。
戦う。
三十秒。
森野。
パソコン。
もう一度。
開く。
「……受けます」
田中。
「やった」
森野。
「田中さんは関係ありません!」
こうして。
会社中に。
交際が知られた二人は。
次に。
社内報で。
自分たちの恋愛を。
語ることになった。
コメント
1件
は〜〜〜ああもうこの回最高でした!!(笑) 展示会中のバタバタ、森野さんの「かたい」感じと周りにバレバレなのに本人たちはなぜか隠れてるつもり、もう全てがニヤニヤポイントすぎます。特に相沢さんが「付き合ってるの本当だから」と平然と言い放ったところ、思わず声出ました。田中さんの「社内公認カップル」も絶妙なツッコミで大好きです。社内報インタビュー、どんな内容になるのか続きがめっちゃ気になります!