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高校一年生の春──。
幼馴染みに片思い中の彼、桜木優斗は、ラブコメの終盤のような状況に陥っていた。
「……頼む。どうか、間に合ってくれ! 」
川沿いの橋を駆け、あと少しで引っ越してしまう幼馴染みに告白をするため、駅のホームへ向かう。ちなみに、電車が出発するまでには残り一分もない。
──俺はまだ、あいつに伝えたいことを伝えられていない。何としても伝えたい。
走り、走り、走り続け、全身に心臓があるかのように鼓動を感じ、首元に汗が伝うのを感じた。
正直、もうやめてしまいたい。このまま止まって、ゆっくり休んでしまいたい。けれど、最後に、幼馴染み──春菜に本当の思いを伝えたいと、気合いと根性だけで脚を動かす。
電車が発進するまで、残り三十秒。そのタイミングで、優斗は電車を視界に捉えた。
──急げ、間に合え、頼むから!
残り二十秒、十秒、九秒。
あっという間に時間は過ぎていくが、優斗は駅のホームに滑り込み、ガラス越しに映る春菜に言葉を投げた。
「春菜、俺はお前のことが──! 」
──好きだ。そう言おうとした時、優斗の中で、とある記憶が蘇り、言葉が詰まる。
『幼馴染みってだけだろうが、この陰キャ。お前は、春菜ちゃんとは釣り合ってない』
同じクラスの若葉の言葉。何故、今頃──。それに、つい昨日、春菜と喧嘩をしたばっかりだ。しかも、この距離からでは春菜に届いていない。まず、春菜はこちらに気付いているのか?
最悪の状態、色々な可能性を考えたが、そんな訳がない。あと少しだけ、近付かないと。そう思い、脚を動かした時、電車は段々とかけ離れていき、春菜の揺れる背中が見えた。
──ああ、だめだ。間に合わない。あいつが言った通り、俺は春菜と、釣り合っていないのかもしれない。
段々と、電車が見えなくなっていくと同時に優斗は立ち止まり、息切れしながらそんなことを考える。
「……本当に、好きだったのに。なんで、躊躇っちゃったんだろうな──」
後悔──。自分の未熟さを噛み締め、優斗はただ、その場で立ち尽くした。
「……何やってんだよ、俺──」