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闇の底から這い上がるような感覚だった。
意識がゆっくりと浮上していく。冷たい空気が肌を撫で、どこか遠くで微かな囁きが聞こえる。重い瞼を開くと、視界には見知らぬ天井が広がっていた。
——ここはどこだ?
起き上がろうとすると、異変に気づく。身体が妙に軽い。それでいて、手足に確かな実感がない。まるで霞のように頼りない感覚に、セリオ・グラディオンは僅かに眉をひそめた。
「目覚めたのね……」
透き通るような声が響いた。
視線を向けると、そこには一人の少女がいた。
白い髪に赤い瞳、雪のように色素の薄い肌。漆黒のローブを纏ったその姿は、どこか幻想的な美しさを帯びていた。しかし、ただの少女ではない。彼女の周囲には魔力が濃密に渦巻いていた。
「……誰だ?」
「リゼリア・イヴェローザ。ネクロマンサーよ」
その名を聞いた瞬間、セリオの記憶が警鐘を鳴らした。
リゼリア——かつて討ったはずの魔族。
魔王軍の中でも特に危険な存在として、人間側に警戒されていたエルフのネクロマンサー。魔王の側近ではなかったが、その異質な魔術と研究への執着は、当時のセリオにとっても無視できない脅威だった。彼女が敵軍にいたことで、戦場は数度にわたり地獄と化した。
そして——自らの手で、確かに殺したはずの相手。
「……お前、生きていたのか」
「ええ。不死の術を施していたから……」
淡々とした口調に、セリオは無意識に剣の柄に手を伸ばそうとする。だが、そこには何もなかった。それどころか、自分の手が半透明になっていることに気づき、息をのむ。
「……俺は、生きているのか?」
リゼリアは薄く微笑んだ。
「いいえ。お前はすでに死んでいるわ。そして、私が蘇らせたの」
その言葉に、セリオの背筋が凍った。
——蘇らされた?
己の胸元に手を当てる。鼓動はない。呼吸の感覚も曖昧だった。まるで幽霊のような……いや、まさに死者そのものだ。
「……なぜ、俺を?」
「お前に、魔王になってほしいからよ」
平然とした声音に、セリオは言葉を失った。
死してなお、魔王になれと言われるとは——一体どういう冗談だ?