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私はハンスにどのようにエレナ・アーデンが私を誘拐してサム国に逃してくれたかを話した。
彼女の話を誰かに聞いてもらいたかったのだと思った。
私に初めて親切にしてくれて、リスクを負いながらクールに私を助けてくれた恩人の話だ。
「それでね、困った時は連絡するように渡された紙を見たら、裏道の居酒屋で暗号を言うように書いてあったの。きっと暗殺ギルドの本部とかよね。そもそも4歳の私が居酒屋なんて入れるわけないのにエレナ・アーデンて本当に不思議な方なのよ」
夢中になって話している私を見て、ハンスがなぜだか頭を抱え出した。
「エレノアってもしかして、女が好きなのか? 明らかにお前エレナ・アーデンに恋しているだろう。今まで見たことないキラキラした顔をしているぞ。いつもの絶望顔はどこにいった?」
ハンスの言葉に思わず私は自分のエレナ・アーデンに対する感情が恋なのか考えた。
確かに人に好かれたいと思ったのは彼女が初めてだ。
でも私が恋をするとしたら彼女ではない、私が未だ関わるのを恐れているフィリップ王子な気がする。
「エレナ・アーデンは会ってみれば、分かると思うけれど性別関係なく惹かれる美貌と魅力の持ち主なのよ。それにしても、絶望顔って酷いこと言うのね」
私は彼女が何を考えて私を助けてくれたか分からない。
でも、彼女のおかげで私は幸せを感じる瞬間が世界に存在することを知った。
「俺の恋のライバルは帝国の絶世の美女とサム国ってわけね。俺がどうしてエレノアを好きになったのかという話をさせてもらうよ。5歳の時アゼンタイン侯爵邸で同じ年の子がいるといわれて紹介されたエレノアが、見たこともないくらいの絶望顔をしていたんだ。俺はなんとかエレノアを笑わせたくて過ごしていたら、いつの間にかお前のことばかり考えるようになっていて好きになっていた」
突然、自分が私を好きになった理由について語りだすハンスに思わず笑ってしまう。
こんなに暖かい彼と一緒にいたら、私も彼に恋をし出しそうで怖くなる。
「ハンス、あなたは恋のライバルを潰せば自分が愛されると思っているわね。おそらく、その考え方はビアンカ様も持っている考え方だわ。だから王太子殿下の婚約者に選ばれた私を消そうとしたの。でも、実際はそういうものではないわ。王太子殿下の女はビアンカ様だけではないし、彼は女たちに自分は彼の特別だと思わせるのが上手いだけで彼にとって特別な相手は存在しないの。だからライバルを潰しても自分だけが愛される順番は回ってこないわ。私はビアンカ様とは友好的な関係でいたいし、彼女には恋で自分を見失ってほしくないの。恋の相手が素敵な方なら別だけど、相手は色狂いの王太子殿下よ。あなたはビアンカ様と同じ家に暮らして信頼されている弟よ。今、王太子殿下の批判をしても彼に恋している彼女の耳には届かないと思う。王太子殿下の批判をすることなく、客観的に現状を把握させるように努めてくれる?」
私はビアンカ様には元の優しいお姉さまに戻って欲しかった。
リード公爵は特に私を差別しなかったが、リード公爵夫人は私のような野良猫と自分の子が仲良くするのをよく思っていなかった。
それを察して、公爵夫人の軽蔑の視線から私を守り実の妹のように接してくれたのがビアンカ様だ。
「え、ライバルを潰しても順番は回ってこないってどういうこと?俺とエレノアが両思いになることはないってこと?王太子殿下と姉上が両思いは考えられない気がする。姉上は夢見がちだけれど、王太子殿下は人を愛するような方ではないよな。エレノアはそんな奴じゃないよな?」
ハンスの言いたいことはわかった。
父親から虐待されてきたから、男に対して冷めた目で見てしまうのだろうか。
そんな私でもフィリップ王子に会った時は関わるのが怖いくらい恋したような気持ちにさせられた。
「ハンス、大事な姉君ビアンカ様に今は集中しましょう。彼女がライバルの貴族令嬢を次々と消そうとしたらどうするの?」
「そうだな。姉上が可愛がっていたエレノアを消すことを考える程、追い詰められているんだもんな」
ハンスに言われて私は改めてレイモンド王太子殿下を怖いと思った。
女遊びに費やす労力を国を守ることに使ってくれたらどれだけ良かったか。
「私、剣術をはじめようと思うのだけれど、良い師範がいたら紹介してくれる?」
先程、剣で私を助けたハンスを見て、魅了の力を使わなくても自分の身を守る術を身につけようと思った。
アゼンタイン侯爵家は騎士団を持っていないが、リード公爵家は騎士団を所有している。
そのためリード公爵になると言うことは公爵家の騎士団の団長になると言うことなのでハンスは剣術を磨いていた。
「エレノア、俺が教えるよ」
軽く言ってきたハンスに私は注意をした。
「あのね、子供の遊びではないの。私は本気で取り組むつもりよ。もし、知っていたら命のやり取りをするような地下闘技場のようなところを紹介して欲しいわ」
習い事で剣術がしたいわけではない、危機に陥った時に魅了の力を頼らないようにしたいのだ。
「エレノア、俺が正規の騎士の2人を倒したところを扉越しだから見えていなかったのかな?俺はすでに師範を超える腕前を持っているの。それと地下闘技場なんて知らないから。それこそ、エレナ・アーデンご紹介の暗殺ギルドの本部に行った方が良いだろ」
ハンスが私の髪をまたかき混ぜながら言ってくる。
髪を撫でられるよりも、彼との関係はこんな感じの方が私は安心する。
「暗号を言うのは、居酒屋だから未成年は入れないのよ。ヒゲでもつけたら、成人して見られるかしら?とにかく特訓するにしても私を殺す気でかかってきてくれる相手と訓練したいのよ。そうでなければ、実戦では役に立たないじゃない」
私が言った言葉にハンスが爆笑する。
「じゃあ、基本は俺が教えるから、後は落ちてくる葉っぱを切ったりしたりして戦ったらいいんじゃないの?または、王太子殿下のお手つきの貴族令嬢にナイフを握らせてバトルするとか」
彼がまた私を笑わせてくる。
彼は私の絶望顔に惹かれたのではなかったのだろうか、彼の前だと私は笑ってばかりいる気がする。
「とにかく、騎士資格を取れるくらいの腕前にはなっておきたいわ。そうすれば、私に武力があると周りに伝わるでしょ。それから、私、再来年アカデミーに入学することになったから。王太子殿下と婚約破棄になっても侯爵になる道があると私を安心させるためにお母様が入学をすすめてくれたの。」
私はアゼンタイン侯爵夫人の気遣いを思い出し胸が熱くなった。
「まじか、一緒に頑張ろうぜ。そういえば来年フィリップ王子がアカデミーに入学するらしいよ。」
ハンスの言葉に一瞬、時が止まる。
フィリップ王子との接触はできるだけ避けたい、彼を見ると私はおかしな気持ちになるからだ。
でも、彼が国政をどの程度真剣にやる気があるのかを知りたい気もする。
「どうして?王族はアカデミーに入学する必要がないじゃない。もしかして、フィリップ王子にも何かお考えがあるということなのかしら?」
王族は政治を王宮の家庭教師から学ぶのが通例だ。
彼も当然幼い頃から家庭教師をつけて学んでいたはずだ。
アカデミーに求めているものは何だろう、王太子殿下の政治に対する姿勢や行動に疑問を持って貴族と人脈を作り王位を狙っていると期待しても良いのだろうか。
「理由は本人にしか分からないよ。同年代の友達が欲しいだけかもしれないし、世界情勢の変化を見て次世代の党首になる貴族達の意見を直接聞きたいからかもしれない。少なくとも女の尻ばかり追いかけている王太子殿下よりは国王になるのに相応しいよな。王位を長子が継ぐという法律は悪法だよな。確かに兄弟で争うのは良くないけれど、レイモンド王太子殿下のような人間が現れるとどうしようもなくなる」
帝国では兄弟で皇位を争っていて、敗者となった兄弟を出兵させて戦死させるなど悲しい戦いが続いていた。
王位の長子相続もリスクがあるが、兄弟で争うのも見苦しく悲しい。
国民投票などをして、いずれの王子を国王にするか平和的に決められたら良いがそんな国はどこにもない。
「本当にその通りね。王太子殿下は多分国王になったら、他国のように一夫多妻制を導入するのではないかしら。そうすれば、自分がいくら妻を持とうと誰も非難しなくなるしね。男のパラダイスは女の犠牲によって成り立っているの。そうなるとサム国の魅力はますますなくなるわ」
サム国は一人の女性を愛し抜くことを美徳としている。
帝国のカルマン公爵邸ではいつも妻達が歪みあっていた。
妊娠したら毒を飲ませたり、赤子に手をかけたりまでしていた。
「俺は生粋のサム国の男だぜ。たった1人の女を愛し抜くことこそに価値がある!」
ハンスが明るく言った言葉に、暗い霧が晴れるような気がした。