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あいたぴ♡苺もち
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#日常
寿命㌫(主) 🔮🖤ᩚ
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ひまわり
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谷崎爽奈
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読み終わりました。匠が「位置がずれてる」って見抜いたところが、さすが匠だなと。単に壊れたんじゃなく、固定位置ごとずらされたってのが、今までのデータとちゃんと整合してて気持ちよかったです。ユナとリオの「無茶したのは涼でしょ」の姉弟漫才も好き。最後の「傷は残る」の匠の言葉が、優しくて誠実で、いい締めでした。
第294話 右腕の副鍵
【現実世界・オルタリンクタワー/臨時分析室・午前】
リオの右腕が、机の中央に置かれていた。
正確には、その手首に巻かれた副鍵。
昨日までと変わらない細い亀裂が表面を走り、その右側では一本だけ光が途切れている。
ジャバに掴まれた時から、ずっと戻らなかった場所だった。
「動かすなよ」
匠が言う。
「動かしてない」
「昨日も同じこと言ってただろ」
「昨日は見るだけだった」
「今日は中を触る。だから言ってる」
リオは言い返すのをやめ、右腕を机へ置いた。
その向かいには匠。隣には日下部が座り、複数の測定端末を開いている。
ハレルとサキは少し離れた位置に立っていた。
ユナも来ているが、まだ長時間立っているのは難しいため、椅子に座って弟の腕を見ている。
匠自身も完全に回復したわけではない。
脇には医療用の測定器が置かれ、無理をした場合はすぐ作業を止めるよう医師から念を押されている。
それでも本人は朝からここへ来た。
「ノノ、聞こえるか」
日下部が通信を開く。
少し遅れて。
『聞こえてるよ』
異世界側。
王国警備局の分析室から、ノノの声が届く。
その隣にはアデルもいる。
ノノ自身にはリオの副鍵は見えていない。
現実側から送られる測定値と出力波形、それまで記録してきた反応だけを確認している。
『リオ側の過去ログ、全部出してあるよ。ジャバに壊される前の記録も残ってる』
匠が画面を見る。
「一番安定してた時期は?」
『帰還準備に入る前。その少し前かな。高出力を繰り返す前のデータもある』
「それを基準候補にする」
アデルの声が入る。
『私の方も必要か?』
「反応だけ見せてくれ」
『分かった』
アデルが異世界側で左腕の副鍵へごく弱い魔力を流す。
現実側の画面に新しい波形が現れた。
リオ。
アデル。
そして、ハレルの主鍵。
三つの反応が並ぶ。
ハレルは胸元のネックレスへ手を添えた。
「俺は何をすればいい?」
「今は何もしなくていい」
「でも、主鍵の基準が必要なんだろ?」
「必要なのは出力じゃない。今の正常値だ」
匠は画面を指した。
「お前が普通に身につけてる状態の波形を取る。余計なことをすると逆にずれる」
「分かった」
ハレルは手を離した。
匠が日下部へ目を向ける。
「始めるぞ」
「はい」
◆ ◆ ◆
最初に調べたのは、亀裂そのものではなかった。
副鍵へ魔力を流さず、主鍵との間にある微弱な反応だけを測る。
画面には何本もの細い線が現れ、そのうち一本だけ途中で落ちていた。
以前から死んでいた右側経路。
だが匠は、その線を見たまましばらく動かなかった。
「……やっぱり、切れただけじゃないな」
リオが聞く。
「何が?」
「位置がずれてる」
「位置?」
匠が画面を拡大する。
「入口と出口が合ってない」
ハレルには意味が分からず、日下部を見る。
日下部も少し考えてから言った。
「経路自体が消失したのではなく、接続先の固定位置が動いている?」
「ああ」
匠が頷く。
「ジャバが力任せに引いた時、表面だけじゃなく内部の固定までずらしたんだろう。だから外側を塞いでも光が流れなかった」
帰還前、王国警備局で
ダミエが表面を結界で固定しても
右側の経路には光が戻らなかった。
その理由が、ようやく分かった。
「じゃあ、繋げばいいの?」
サキが聞く。
「繋ぐ前に、どこへ戻すか決める」
匠はノノが送った過去の波形を開いた。
現在。
破損前。
さらに複製観測鍵を作った当時の調整値。
三つを重ねる。
完全には一致しない。
当然だった。
複製鍵が壊れ、その欠片がリオの副鍵として使われ始めてから、内部の反応は少しずつ変化している。
「昔の複製鍵そのものへ戻したら駄目なんだよね」
ハレルが確認する。
「ああ」
匠は画面から目を離さない。
「戻すのはここだ」
一つの波形を示す。
ジャバに破壊される以前。
リオの副鍵としてもっとも安定していた時の反応。
「これより前でも後でもない」
ノノが言う。
『アデル側の波形は?』
「共通してる部分だけ使う」
『左右を合わせるんじゃなくて?』
「合わせない。今は別の鍵だ」
匠の返事は短かった。
『了解』
アデルも黙って聞いている。
元は一つだが今は
それぞれ別の人間と共に使われてきた副鍵。
直すというのは昔の一つへ戻すことではない。
今のリオのものを壊れる前まで戻すことだった。
◆ ◆ ◆
「少し熱くなるぞ」
匠が言った。
リオは右腕を机へ置いたまま頷く。
「分かった」
「我慢するな」
「それくらい分かってる」
ユナが横から言う。
「涼、それ前にも言って無茶したよね」
リオが姉を見る。
「今回はしない」
「本当に?」
「する意味がないだろ」
匠が二人を見た。
「喧嘩は終わってからにしろ」
「してない」
姉弟の声が重なった。
サキが少し笑う。
緊張していた部屋の空気が、ほんの少しだけ緩んだ。
匠が端末へ手を戻す。
「入れるぞ」
日下部が出力を最低値へ落とす。
副鍵そのものへ強い力を送るのではない。
ハレルの主鍵から取得した基準波形を、比較信号としてごく弱く重ねる。
淡い光がリオの腕輪の左側から流れ始めた。
中央。
正常。
次。
問題の右側。
光が亀裂の手前で止まる。
リオの指がわずかに動いた。
「熱い?」
ユナが聞く。
「少し」
匠がすぐ止める。
光が消えた。
「どこだ」
リオが指で示す。
「亀裂じゃない。もう少し内側」
匠の目が細くなる。
「やっぱりそこか」
表示された波形の一点。
本来の固定位置からわずかに外れている。
距離にすればほとんど誤差。
だが観測鍵にとっては、その誤差が経路一本を殺すには十分だった。
匠は複製鍵の初期調整値を呼び出す。
それをそのまま当てるのではなく、リオ側の過去データへ重ね一つずつ数値を変えていく。
五分。
十分。
部屋では誰もほとんど話さなかった。
やがて。
匠が言う。
「これだ」
日下部が画面を見る。
「固定位置が一致しました」
「まだだ」
「え?」
「数値が合っただけだ。今から実際に戻す」
匠はリオを見る。
「今度はさっきより熱くなる」
「どのくらい?」
「分からん」
「父さん」
ハレルが思わず言う。
「嘘ついても仕方ないだろ」
匠は平然と返した。
「痛かったら止める。それでやり直す」
リオが一度息を吐いた。
「やってくれ」
◆ ◆ ◆
二度目。
副鍵へ弱い光が流れる。
今度は亀裂の手前で止まらない。
揺れる。
細くなる。
それでも少しずつ右へ進む。
リオが歯を食いしばった。
「熱い?」
ユナが聞く。
「ああ」
「止める?」
匠も同時に聞く。
リオは数秒だけ腕の感覚を確かめる。
「まだ大丈夫」
「無理なら言え」
「分かってる」
匠が出力をほんの少しだけ上げる。
主鍵。
過去のリオ側。
複製鍵の初期値。
三つの基準が重なる。
異世界側ではアデルの副鍵も、ごく弱く反応した。
『こっちも光った』
ノノがすぐ数値を確認する。
『共通基部だけ反応してる。アデル側の固定には変化なし』
「そのまま」
匠が言う。
光が、亀裂を越えた。
ほんの一瞬。
消える。
ハレルの呼吸が止まる。
だが次の瞬間。
右側の一本。
長く光を失っていた経路に細い光が走った。
サキが息を呑む。
「通った……」
まだ弱い。
だが、確かに向こうまで届いている。
ノノの声が少し高くなる。
『右側経路、反応出た!』
日下部も画面を見る。
「出力先まで繋がっています」
匠は喜ばない。
まだ画面から目を離さない。
「固定する」
そのまま数秒。
十秒。
二十秒。
途中で一度光が揺れる。
匠が出力を下げる。
消えない。
もう一度上げる。
今度は揺れない。
『安定してる』
ノノが言う。
『破損前データとの差、かなり小さいよ』
「かなりじゃ駄目だ」
『……もう少し見る』
さらに調整。
最後。
ノノから。
『一致した』
匠が聞く。
「許容範囲は?」
『破損前と同じ範囲に入ってる』
日下部も頷いた。
「こちらも確認しました」
匠が出力を切る。
室内から機械の低い音だけが残った。
「終わり?」
サキが聞く。
「まだ試験だ」
匠はリオを見る。
「自分で最低出力を入れろ」
リオが腕を見る。
表面の亀裂は消えていない。
薄い傷のように残っている。
だが以前とは違う。
その亀裂の下を淡い光が途切れず通っている。
リオがゆっくり魔力を流した。
左。
中央。
右。
全部。
光る。
ノノ。
『全経路、反応確認』
日下部。
「異常な負荷上昇なし」
アデルの声が入る。
『私の副鍵も正常だ』
リオは右手を開き一度握った。
熱はもうない。
「……直った」
ハレルが言う。
匠は首を横へ振った。
「新品になったわけじゃない」
「違うの?」
「傷は残る」
匠は表面の亀裂を指す。
「それに、今まで使ってきた補正の癖も残ってる。作った時の複製鍵でもない」
そして。
リオを見る。
「お前の副鍵として戻った。それでいい」
リオはしばらく右手首を見ていた。
一本だけ何をしても光が通らなかった道。
そこを今他の経路と同じように光が流れている。
ユナが隣から聞いた。
「今度は壊さないでよ」
リオが小さく息を吐く。
「分かってる」
「本当に?」
「何回聞くんだ」
「壊した前科があるから」
「俺が壊したんじゃない」
「無茶したのは涼でしょ」
「……それは否定しない」
ユナがようやく笑った。
リオも少しだけ口元を緩める。
ハレルはその様子を見てから、匠へ目を向けた。
父は椅子の背へ身体を預けていた。
顔色が少し悪い。
「父さん、大丈夫?」
「ああ」
「もう今日は終わりにした方がいいんじゃない?」
「そのつもりだ」
「珍しく素直だね」
サキが言うと匠が娘を見る。
「俺を何だと思ってる」
サキは少し考えた。
「無理する人」
「……」
ハレルが吹き出した。
日下部まで僅かに笑う。
匠は何も言い返さず、目を閉じた。
その横で、修復された副鍵が静かに光っている。
表面には細い亀裂が残ったままだった。
けれどその傷の下を
今度はもう、光が途切れず流れていた。