テラーノベル
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湯から上がる。
肌に残る熱。
まだ少し、頭がぼんやりしている。
用意されていた布で体を拭く。
驚くほど清潔な布だった。
「……どこまで用意してんだよ」
小さく呟く。
扉の方へ歩く。
少しだけ、足元がふらつく。
――その瞬間。
ガチャ。
扉が、開いた。
「――っ」
目が合う。
すぐ目の前に、ノスフェラトゥ。
距離が、近い。
そして。
一瞬で、空気が変わる。
「……」
ノスフェラトゥの視線が、止まる。
彼の首筋。
風呂上がりの肌。
温まった血の匂い。
さっきまでとは違う。
生きている匂い。
濃い、熱を帯びた血の気配。
「……おい」
pizza guyが何か言おうとした、その前に。
一歩。
ノスフェラトゥが踏み込む。
「――っ!?」
壁に押し付けられる。
逃げ場がない。
手首を掴まれる。
強い。
まだ回復しきっていない体では、抗えない。
「ちょっ……待て」
低く、荒い呼吸。
ノスフェラトゥの顔が、近づく。
赤い瞳が、揺れている。
さっきまでの冷静さが――ない。
「……匂う」
かすれた声。
喉の奥で、何かを抑え込むような音。
牙が、わずかに覗く。
首筋に、吐息がかかる。
熱い。
「……っ、やめろ」
反射的に言葉が出る。
だが。
その声は、ほんの少しだけ震えていた。
恐怖か。
それとも――
「……」
ノスフェラトゥの動きが、止まる。
あと、ほんの数センチ。
噛みつける距離。
「……今、なら」
低く、呟く。
「一番、旨い」
本音だった。
衝動だった。
理性が、削れていく。
喉が焼ける。
飢えが、暴れる。
――噛め。
その一線を越えろと、本能が叫ぶ。
「……っ」
だが。
次の瞬間。
ガン、と鈍い音。
ノスフェラトゥ自身が、壁に拳を打ちつけた。
ビキ、と石がひび割れる。
「……はぁ……っ」
荒い呼吸。
顔を、わずかに逸らす。
牙が、離れる。
「……チッ」
舌打ち。
掴んでいた手を、離す。
距離を取る。
まるで、自分から逃げるように。
「……」
沈黙。
さっきまでの空気が、嘘のように冷える。
pizza guyは、壁にもたれたまま。
しばらく動けなかった。
心臓が、うるさい。
「……今の」
やっと、声を出す。
「……ギリギリだったな」
ノスフェラトゥは答えない。
背を向けたまま。
だが。
「……次は、保証しない」
低く、それだけ。
嘘じゃない声。
本気だ。
pizza guyは、ゆっくりと息を吐く。
「……上等だ」
かすれた笑い。
「食うなら食えよ」
「ただし」
少しだけ、視線を上げる。
「その前に、俺は逃げるけどな」
沈黙。
その言葉に。
ノスフェラトゥの肩が、わずかに動く。
「……やってみろ」
振り返らないまま、言う。
だがその声には――
ほんの少しだけ。
さっきとは違う“熱”が混じっていた。
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