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森のさらに奥:先輩の“深い記憶の断片”に触れる
きのこちゃんの後ろ姿を追いながら、
私は森の奥へ進んでいった。
さっきまで柔らかかった光が、
少しずつ静かに沈んでいく。
「もう少しだけ行けるよ」
きのこちゃんはそう言って、
言葉の前に眉をふわっと動かした。
先輩が大事なことを言う前にする癖。
胸がまたざわつく。
やがて、木々が途切れた。
そこには、薄い霧が漂う小さな空間があった。
苔の上に、光の粒がいくつも浮かんでいる。
「ここ……前にも来た場所?」
「ううん。もっと奥だよ」
きのこちゃんは、
少し後ろに重心をかける立ち方で 私の方を向いた。
その姿勢は、先輩が誰かを待つときの癖と同じだった。
「触ってみて」
私はそっと手を伸ばし、
一番近くの光の粒に触れた。
──景色が変わる。
そこは、会社の休憩スペースだった。
でも、誰もいない。
ただ、ひとりだけ。
先輩が立っていた。
資料を片手に、
考えるときの癖で目を上に向けて、
何かを思い出そうとしている。
その横顔は、
いつもより少しだけ寂しそうだった。
光が揺れ、別の記憶が流れ込む。
──先輩が、誰かの名前を呼ぼうとしてやめる。
眉が小さく動く。
言えなかった言葉が胸に残っているような表情。
その“言えなさ”が、
夢の中のきのこちゃんの沈黙と重なる。
光がまた揺れる。
──先輩が、誰かの背中を見送っている。
立ち方は、
少し後ろに重心をかけた、あの癖のまま。
その背中は、
どこかで見たことがある気がした。
光が消える。
私は息を呑んだまま、動けなかった。
「……これ、全部……先輩の……?」
きのこちゃんは答えない。
ただ、私の隣に座った。
そして、
考えるときの癖で、ほんの一瞬だけ目を上に向けた。
それだけで十分だった。
「どうして……私に見せるの?」
きのこちゃんは、落ち葉を一枚拾って、
指先でそっと払った。
先輩が資料を整えるときの癖と同じ。
「君が、近いところに来たからだよ」
「近いところ……?」
「うん。夢の中でも、現実でも」
その言い方は、
先輩が仕事を教えるときの“急がせない優しさ”と同じだった。
胸がじんわり熱くなる。
「……先輩、寂しそうだった」
「そうだね」
「どうして?」
きのこちゃんは、少しだけ笑った。
喉の奥で息が混じる、先輩の照れ笑いと同じ。
「それは、君が知ることになるよ」
そう言って、
きのこちゃんは立ち上がり、
また少し後ろに重心をかけてから歩き出した。
「行こっか。まだ続きがあるから」
私はその背中を追いながら、
夢と現実が静かに重なっていくのを感じていた。