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「あの豆大福、お父さんから聞いたかもしれないけど、原田くんが持ってきてくれたの。


私は和菓子がダメだから食べてないけど、おいしいってお父さんが言ってた」



「あぁ、うまかった。だから急いで食って、喉につまったんだよ」



「えー、別に急がなくてもいいじゃない」



適当なことを言い、笑う若菜を見ながら、心の中で聞きたい言葉が回る。



『おじさんの見舞い行ってからも、原田と連絡とってるの?』



『また原田と一緒におじさんの見舞いに行くの?』



尋ねた答えがどちらも「YES」だったら、俺はどうする?



あからさまに顔をしかめるかもしれないし、嫉妬したみっともないところを、若菜に見せるかもしれない。



……それはイヤだ。



聞きたいけど聞きたくなくて、結局聞けずにいると、若菜は完食して立ち上がった。



「じゃあ、仕事に戻るね。湊も頑張って。


あと、今度休みができたら言ってほしい。こないだの埋め合わせしたいから」



「え?」



埋め合わせと言われて一瞬なんのことかと思ったが、若菜の言う「こないだ」が誕生日のことだわかった。



「いいよ、そんなこと思わなくて」



あれは俺が勝手にしたくてしたことだし、おじさんが入院中で若菜もバタバタしているだろうから、気にしなくていいのに。



「ううん、私がしたいから、絶対にさせて。絶対休みができたら言ってよ?」



有無を言わせない調子で言う若菜は、念を押すように俺と視線をしっかり合わせた。



こういう時は、若菜は譲らないってことを、俺も長い付き合いで知っている。



「わかった、じゃあ休みわかったら連絡する」



「絶対だよ?」



苦笑いの俺とは反対に、若菜ははっきりとした笑みを浮かべて言った。





ランチタイムが終わり、キッチンの片付けをしていると、カウンターの向こうから、水瀬が声をかけてきた。



「いい感じじゃないですか、あの綺麗な幼なじみさんとー。

さっきの話、聞こえちゃいましたよー」



水瀬はニヤニヤしていて、さっき若菜に、休みができたら連絡するように言われたのを聞かれたとわかった。



「清水さん来月から異動だし、遠恋になりますよねー。

○○県、ここから車で二時間くらいですもんね」



目を合わせず、あえて無視しているのに、水瀬はさらに話し続ける。



「どうするんですか?」とか「遠恋のほうが恋が燃えるタイプですか?」とか、話が途切れず、ついには「仕事しろ!」と叫んだ。



「はーい」と、返事だけした水瀬だが、まだニヤニヤしているから、明らかに俺の反応を楽しんでいる。



ったく、なんで俺がバイトにからかわれなきゃいけないんだ。



店長に言わせれば俺は話しかけやすいらしいけど、恋愛話を仕事場でされて、居心地が悪いったらない。



それから休憩に入り、シフト表を見ると、次の休みは来週の火曜日だった。



(火曜か……)



休みといえば休みだけど、異動するなら、仕事の引継ぎや片付けがたくさんあるし、表に立たないとはいえ、裏ですることはいくらでもあった。



(午前中はとりあえず出勤して、夜は空ければいいか)



若菜も仕事だし、終わったらメシでも食いに行けばいいだろう。



若菜に次の火曜日が休みだと連絡すると、すぐに「わかった」と短い返事が届いた。






その日の夜、改めて若菜からメッセージが届いた。



―――――――――


火曜日は定時であがるから、ご飯でも食べに行こう。


―――――――――



俺も「わかった」と短く返事をして、火曜日に会った時のことを考えた。



その時に、若菜には異動話をしようとは思っている。



だからそれまでに、自分が若菜とどうなりたいか考えておかないといけない。



若菜は一人娘だし、今おじさんがこういう状況だ。



あいつは仕事も頑張っている。



若菜の家のことを考えても、あいつの仕事のことを考えても、「ついてきてほしい」とは、簡単に言い出せない。



俺たちは付き合ったこともないけど、これまで本当の意味で離れたこともなかった。



何か月も会わない日があっても、離れているという気持ちはなかった。



俺のことを理解してもらっているのは若菜だという安心感があったし、反対に若菜のことは俺が一番理解しているという自負もあった。



だけど若菜はもう30歳で、おじさんが若菜の結婚を意識している。



今離れたら、きっと原田が出てきて、若菜とどうにかなる。



そう思うと、思考は同胴回りで、自分がどうしたいのか、自分のくせにわからない。



答えのでないまま翌日になり、仕事を終えた午後10時半過ぎにスマホを見ると、原田からメッセージが届いていた。



―――――――――


お疲れ。


清水にちょっと相談があるんだけど、時間ある時電話していい?


―――――――――



内心相談ってなんだよ、と思ったが、十中八九、それが若菜のことだと察した。



相談内容がなにかわからないのは不安だけど、俺にとっていい話だとも思えないから、聞くのも気が進まない。



とりあえず私服に着替え、店の外に出たところ原田に連絡をした。



「今仕事終わった、なんの話?」とメッセージを送ると、「いつなら電話できそう?」と原田から返事が届く。



……どうするかな。



先延ばしにしても悶々としそうだし、「今は?」と連絡すると、原田から電話がかかってきた。






「お疲れー。悪いな、今いい?」



「あぁ、いいよ。話ってなに?」



駅へ続く道を歩きながら、原田に尋ねた。



「えっと、多田さんの家、っていうか……多田さんのお父さんの話っていうか……。

まぁ、そんな話なんだけど」



「なんだよそれ、どういうこと?」



原田がなんでそんな話をしようとするのかわからないし、やっぱり嫌な予感しかしない。



「まぁ、そうだよな。


前に一度、多田さんと一緒に、多田さんのお父さんのお見舞いに行かせてもらってさ。


それから別の日に、俺ひとりでまたお見舞いに行ったんだ」



「……へー、そうだったんだ」



それは知らなかったが、若菜抜きでも見舞いに行くって、原田の行動力はなかなかだと、内心うなる。



「それでその時に、多田さんのお父さんが、店を畳もうか悩んでるのを知って。


話を聞いてたら、仕事内容がだいたいわかって。

うちとも仕事やってるし、取引先とかも、知ってるところばかりだったんだ。


店を続けたいけど、自分が戻れるかわからないしって、多田さんのお父さんは悩んでて……。

それなら当面の間だけでも、父のところで仕事を引き受けられないかな、と思ったんだ」



原田の話によれば、おじさんを養生させるために、原田のおじさんの会社で、仕事を引き受けられないかと思ったらしい。



「俺、実家以外で働いてるけど、修行に出てるだけで、いずれうちを継ぐつもりなんだ。


だから一応、経営もちょっと絡んでて。

父さんに聞いたら、やっぱりできないことはなくて。

それで後日、その話を多田さんのお父さんにも話をしに行ったんだ。そしたら……」



その時のことを思い出しているのか、原田は一度言葉を切り、続けた。



「ありがたがってくれたんだけど……。でもやっぱり申し訳ないって言うんだ。


俺とか、うちの父の会社に、そこまでしてもらえないって。


あんまり遠慮されるから……俺、言っちゃったんだ。


俺は多田さんのことが好きだから、多田さんのお父さんが困ってるなら、手助けしたいって」






聞こえてきた言葉に、耳を疑った。



嘘だろ、とあやうく叫びそうだったが、なんとかこらえた。



「それで、若菜のおじさんはなんて?」



「驚いてた。すごく」



「だろーな!!」



当たり前のことをしおらしく言われ、結局こらえきれなくなって声を荒げた。



そりゃおじさんが驚くのも当たり前だろ。



それ、おじさんに「若菜と結婚したい」って言ってるように思われてんじゃねーの?



原田の言動に衝撃と憤りを覚えていると、原田は俺の気も知らず、しおらしく続けた。



「結局、多田さんのお父さんは、「渉くんの気持ちはありがたいけど」って、苦笑いするだけでさ……。


俺もさすがに唐突だったと思って、引き下がったんだけど……。

どう思われたか後ですごい気になって。


こんな話清水しかできないし、聞いてほしくて電話したんだ」



「なんだよそれ。

もうお前……マジでやめろよ」



頭に手を押さえ、なんとか声を絞る。



原田が善意でおじさんの店を手助けしたいと思っているのはわかる。



原田ならそれが出来るし、おじさんに安心して休んでもらうには、それがいいのかもしれない。



だけど―――。



「……それ、若菜は知ってんの?」



とりあえず今は、それが一番知りたい。



ため息をつき、俺は頭を手で押さえたまま尋ねた。



「いや、俺からは言ってないよ。


けど、多田さんのお父さんから話が入るかもしれないし、それが気が気じゃないっていうか……」



原田は不安そうだった。



たしかに、若菜のおじさんは今若菜の結婚に敏感だろうし、もしかして話すかもしれない。



原田になにをどう言えばいいのか、頭の中で考えていると、あいつもなにか考えていたらしく、神妙な声で先に続けた。



「……俺、やっぱり多田さんに告白するよ。

多田さんのお父さんから話が入るよりは、俺から言うべきだよな」















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