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ゼノの計らいで、近くの小さな城に入り、フィル様に高度な治癒を受けさせることができた。

王城で働いた経験がある高名な医師が、たまたまこの城に泊まっていたのだ。その医師は、庶民にこそ気軽に診てもらえる場所が必要だと王城での地位を捨てて、困っている人を助けながら国中を旅しているらしい。バイロン国にも稀有けうな人物がいたものだ。

しかし本当に運がよかった。俺の知識と魔法で、できるかぎりの治癒をしようと思っていたが限度がある。二度と動かせぬ腕を接合することしかできなかっただろう。だが医師のおかげで、少しは動かせるようにはなるそうだ。

医師は、フィル様の素性についても、つたのような痣についても、何も聞かなかった。治癒だけに専念してくれた。賢い人物だ。

治癒が行われた部屋には、医師と俺とトラビスだけが入った。他国の者は入らないでほしいと頼むと、ゼノが頷いてくれた。第二王子がなにか言いたそうにこちらを見ていたが、無視をした。

この城に着いてからゼノに聞いたが、フィル様の腕を斬り落としたのは第二王子だった。その時のショックで、ようやくフィル様のことを思い出したそうだ。だからなんだというのだ。俺は第二王子を許さない。記憶がなかった?フィル様がバイロン国の騎士を殺そうとしたから咄嗟に斬った?知るか。そんなものは全て言い訳だ。第二王子がフィル様の腕を斬り落としたという事実が無くなるわけではない。

「ラズール、これからどうする?」

ベット脇で膝をつき、フィル様の右手を握りしめて考えごとをしていた俺は、トラビスの声に我に返った。

トラビスは同じように隣で膝をつき、フィル様の額に浮き出る汗を丁寧に拭いている。

治癒が終わり医師が出ていった後に、扉に結界を張って誰も入れないようにした。

心配したゼノが外から声をかけてきたが、後で話すと答えて部屋から離れてもらった。

「フィル様の体温が戻ってきたと思ったら、今度は発熱だ。意識も戻らない…。二日は動けないな」

「そうだな。解熱の薬も効かないようだ。くそっ…なぜフィル様ばかりこんな辛い目に合うんだ!」

「そう思うならトラビス、今後は全力でフィル様を守れ」

「言われなくとも。しかしまさか、リアム王子がフィル様に剣を振るうとは思わなかった」

「あの王子はフィル様のことを忘れていたのだろう?フィル様の顔を見てすぐに思い出さないとは、それだけの想いだったということだ」

「それは…違うと思うぞ。リアム王子はフィル様のことを思い出しはしなかったが、もう一度フィル様のことを愛しく思われていた」

「それも大した想いではなかったのだ。でなければ、どんな理由であれ愛しい人の腕を斬り落とせるものか!」

「まあ…そうだな」

興奮してつい手に力が入ってしまった。

小さくフィル様の声が聞こえて、俺とトラビスは慌てて立ち上がった。

フィル様が赤い顔をして苦しんでいる。医師が鎮痛剤を飲ませたと言っていたが、傷口が痛いのだろうか。熱で頭が痛いのだろうか。

「フィル様…俺が傍にいなかったために…。申しわけありません」

握りしめているフィル様の右手にキスをして、謝罪の言葉を口にする。

トラビスがフィル様の額に手を当てて「おまえは仕方がなかった」と言った。

「フィル様を庇った時に受けた傷で、おまえこそ死にかけていたのだから。追手に…ネロに追いつかれた時に、フィル様に先に行ってもらうのではなく、待っていてもらえばよかった。とにかく追手から離れてもらうことしか考えていなかった。この事態は俺のせいでもある」

「…おまえの罪はフィル様に直接裁いてもらえ。ところで何をしている」

「魔法で冷やしてるんだよ。ほら、少し汗が引いてきてるだろ?」

「ああ…」

「フィル様はお顔が小さいな。身体も歳の割には小柄で。なのに無茶をなさる…」

「この方は、ご自分を大切にされない。呪われたいらない子だからと、常々おっしゃられていたからな」

「我が国の、王族の悪しき慣習か。しかし呪われた子の証だという痣は、フィル様を守っているではないか」

トラビスの言葉に、俺は顔を上げた。

そうだった。俺やフィル様自身が剣を突き立てても傷がつかなかったのに、なぜ腕が斬れた?

「トラビス、そのことだが、蔦のような痣がフィル様の身体を守っていたのに、なぜ第二王子に腕を斬り落とされたのか。おまえはどう思う?」

「あっ…」

トラビスは、今気づいたというように声を上げて驚いた顔をする。

「そういえばそうだ…。おまえやフィル様自身でさえ傷をつけられなかったのに。もしや、痣になんの効力も無くなったか?」

「なるほど…」

トラビスの言うことも一理ある。もしそうなら、呪われた子という呪いが解けかけているのではないかと俺は思う。それはそれで喜ばしいが、フィル様の身体に傷がつくことは耐えられない。

「フィル様、失礼を」

トラビスがいきなり剣を掴んでフィル様のシャツをはだけさせた。

俺は慌ててトラビスの腕を引く。

「何をしている!」

「確かめるんだよ。痣の効力があるのか無いのか」

「それでフィル様の身体に傷がついたらどうするつもりだ!」

「ほんの少しの傷だ。すぐに治癒する」

「ダメだ。許さない。誰であっても、フィル様の身体に傷をつける者は許さない」

俺はトラビスを睨みつけた。

そうだ、こいつは元々フィル様を憎んでいた。最近になってフィル様に忠実になっていたから、油断していた。

トラビスの腕に爪を食い込ませながら聞く。

「おまえは今も、フィル様が憎いのだな?」

銀の王子は金の王子の隣で輝く

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