テラーノベル
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秋を知らせる冷たい風が頬を掠めた。
これから、大きな会場で、たくさんのファンの前で、歌を届ける。
ただ今回は、M!LKとしての吉田仁人ではなく、ただ一人の歌手としてステージに立つ。
『あぁ…やば、、緊張する,,』
「珍しいな笑仁人が緊張するなんて」
『いや、だって1人だよ?周りにメンバーがいるだけでどれだけ助かってるか…』
「らしくないこと言うじゃん、笑」
そう弱音を吐く先には恋人がいた。
いつもだったら"見に来んな"なんて冗談交じりで言うけれど、何故か今日は言えなかった。
そもそも、今日は仕事で来れないというのは知っていたし、、
『あぁ゛もう、なんで今日はこんな緊張すっかな…』
「ほんとだよな笑」
『自分でもびっくりしてるわ、笑』
なんて、緊張の原因は既に知っていた。
前回ソロで行った初ライブでは、焦る気持ちからミスを連発した。
マイクを忘れて、曲が流れてしまったこと
ファンとのコミュニケーションに異常に間が空いてしまったこと
衣装の着替えに時間がかかってしまったこと
他にも思い返せば思い返すほど、ああしとけば良かった、こうしとけば良かった、なんて山ほど出る。
こういう時こそ勇斗がいてくれてたらなぁ…なんて。
寂しそうな眼差しを向ける一方、開始まで着々と時間は進んでいった
「なーに仁ちゃん、」
そう言って何かを察した勇斗は俺の手を優しく握った
外の気温で少々冷たくなった勇斗の手を俺も優しく、そっと握り返す
「もーしょうがないなぁ、俺のパワー仁ちゃんにあげるから」
繋いだ手をさらに強く握った。
冷たかった手もじわじわと温かく、まるで本当に力が流れてきているかのように感じた。
それは、目には見えない力だけれど、確かに、たしかに、この繋がった手から感じた。
『ふふ笑ありがと、』
「あ〜可愛い…俺も仕事無かったら見に行くのに、、」
『ほんと、居て欲しい時に限って仕事行きやがって』
「しょーがないじゃん、俺人気者なんだから笑」
『うっさい。』
手を振る時間が漂った。
もうちょっとだけ、
あと、ほんのもうちょっとだけ。
そんな思いから、なかなか手を離せずにいる
「ほら、仁ちゃん、手離さないと、笑ライブ始まるよ?笑」
『…』
「本人不在のライブとか一番ヤバいから笑」
お菓子を買ってもらうまで微動だにしない子供のように、口を噤んだまま立ちすくんだ。
「ほらー?仁人さーん?」
『ん〜…』
「あぁもうわかったよ、笑じゃあ、俺と約束しよ、?」
『やくそ,,く、?』
「うん。 もう俺も行かなきゃいけないし。だから、もし仁人が頑張ってみ!るきーずのみんなを幸せにして、それでライブが無事に終わったら。そしたら俺と____.」
『え、?』
再び手を強く握りしめ、目を丸くした俺の額に優しく口付けをした。
そして背を向け歩いて行った。
丁寧にリハをして
流れを確認して
吸入器で喉を潤して
細心の注意と自信を持ってステージに立った。
全て恋人との約束を守るために
見渡せば、波のように光の海が右..左..右..と流れていた。
入りの1曲を歌い終え、ファンとの挨拶を交わす。
『今日は来てくれてありがとうございます。まぁ、実を言うとね、こう見えてだいぶ俺緊張してて笑というのも、前回のライブ,,ね、笑』
"笑笑笑"
『おい、笑うなよ笑まあ、いろいろありましたね?笑でも今回は良い始まりを迎えれて。結構今回のライブ気合い入れてるんですよ』
"いぇーい!!!"
『あぁ、ありがとうございます、笑というのも、ちょっと僕の大切な人とライブが始まる前に約束をしてまして。』
"え、?え…"
『めっちゃザワついてんじゃん笑佐野さんですよ、佐野さん笑まぁ、その〜…勇斗とね"俺が、今日来てくれたみんなを幸せにして、そんでもって無事にライブを終わらせる"っていう約束をね、このライブが始まる前に約束してて…』
『だから、今日はみんなを幸せにして、無事にライブを終わらせます。…おぉ〜!ペンラありがとう笑言っとくけど、スタンドも見えてっかんな!!』
"笑笑笑"
『笑笑はい、ということで、じゃあやりますか。それでは聞いてください____.』
ひとつのスタンドマイクと
肩にかけたアコースティックギターと。
青く優しい空に照らされて、ゆったりとした波が揺れる
それに俺は心を乗せて、どこまでも船を浮かばせたいと思った。
楽しい時間は早く過ぎてしまうと感じるのは何故だろうか。
気付けば折り返しになり、合間の休憩となった。
『いや〜早いなぁ笑ちょっと流石に、俺一人で歌い続けてるからさ、10分くらい休憩していい?笑』
"いーよー!!!"
『おぉ、笑ありがと笑みなさんも、水分補給とお手洗い、今のうちに。じゃあ休憩しまーす』
舞台裏に行き、自分も用を済ます。
そして、メイク直しをして別の衣装を身に纏った。
先程までは、いつものレコメンで着ているような私服よりの衣装だったが、今は打って変わって白を基調とした凛とした衣装だった。
というのも、最後に向かうセトリはM!LKの曲であって、もちろん自分のソロ曲もアンコールがあれば歌うが、グループの曲をソロで歌うという構成になっていた。
準備が整えば既に10分になり、1度水を喉に通らせた。
全ての準備が整い、ステージに光が差し込んだ。
今から曲が始まるというのに、何故かあいつの顔が浮かぶ
今頃勇斗、、何してんのかな…
仕事大変そうだったし…
あの時の約束、、どんな事想ってたんだろ,,//
曲がかかった。
1度深く深呼吸をして心を落ち着かせ、そして、マイクを口元に近づけた。
《 ___繋げた僕らの今を
もう一度強く結びたくて
伝え切れない言葉が
ほら、歌に変わって行く___ 》
この会場にいるみんなに自分の歌声を届けたい
でも、やっぱり1番届けたい人がいる。
直接は恥ずかしくて言えないけど、歌になら気持ちを乗せて届けられそうで、冗談交じりの"好き"も普段言えない"愛してる"も歌詞に隠れてそっと本心を伝える
気付けばライブはとうとうラスト1曲となった。
すると、最後になって関係者席に動きがあった。
黒い服に深く被った帽子
は、?
なんでいんの…仕事は、、?
それは明らかに、今朝会った勇斗の服だった。
見間違うはずがない
だってこの世で1番大切な人なのだから
『いや〜…最後の曲になったね、笑早いなぁほんと笑最後の曲を歌う前にちょっとね、僕らしくないかもしれないんですけど、みんなに伝えたいなってのがあって。』
『ちょっと長くなるかもしないけど、聞いて頂けたら嬉しいです。』
勇「笑笑笑」
『えー…まずね、今日ここに僕が入れるのは紛れもなく、皆さんのおかげです。本当にありがとうございます。こうしてライブ為にさ、ちょっと生々しい話だけども、グッズだったり、交通費だったり、、服もこのライブの為に事前に買って下さる人もいれば、メイクだって…たくさんのお金と時間と、そして心と。』
『それに比べたら、僕なんて歌とダンス,,とかしかないからさ。なんか時々思うんですよね、みんなにちゃんと返せてるのかな〜って。みんなの愛はそれはもう、めちゃくちゃ伝わってるんですけど、僕らからの愛ってどのくらいみんなに伝わってるんだろうって。』
『自分で言うのもなんだけど、僕ってこういう性格だから、笑キラキラしたアイドルが言うような台詞は恥ずかしくて、笑だから、どうしたら伝わるんだろうって考えてるんだよね。』
『考えて少しずつ行動してるつもりなんだけど、やっぱり難しくて…』
『言っときますけど、みんなが思っている以上に僕らあなた達のこと好きだからね? 』
"笑笑笑"
『いや、ほんとよ?笑伝わってます?ちゃんと、笑よく、僕らがいることで頑張れてる〜なんて言っていただけてますけど、僕らも皆さんのおかげで頑張れてるんですよ。』
『ん〜…だからさ、、なんて言うんだろ、笑』
『んぁー!!もう、だから、、』
『愛してますよみんなのこと』
勇「笑笑笑」
『もう言わないからなー!笑はい、じゃあこんな感じで最後の曲いきます』
『聞いてください、"約束"』
《___きっと流れた涙が僕を 連れて行くよ君の元
同じ空の下一人じゃない
流した涙が僕を 強くしてくれる
君との約束 叶うまで サヨナラ___ 》
マイクを握った右手と、音に乗った左手
ふと、勇斗と目線が合った。
すると勇斗が笑顔でこちらに手を伸ばしたから、自分も勇斗の方へ手を伸ばした。
届くわけが無いこの距離でも、繋がっていない手のひらでも、確かなひとつの思いが結ばった気がした。
《___どれくらいの時間がかかるか
分からないけど迎えにいくよ
諦めはしないよ 本当の気持ちに
ウソはつきたくないよ___ 》
みんなと別れるのが寂しいからとか、みんなのコールに感動したからとか、どれが理由かは決めつけたくないけど、景色がゆらいだ理由は他にある気がした。
泣くなんて滅多にないのに、笑
だめだ今日はもう、
…いっか、今日くらい,,
《___きっと(ずっと)流れた涙が君に
届けに行く夢世界
遠い空同じ星見上げ
流した涙が君を 優しく守るよ
二人の約束「永遠」はあるから
二人きりの約束 叶うまでサヨナラ___》
どう、勇斗…
勇斗との約束守れたでしょ、?笑
勇「仁ちゃんおつかれー」
楽屋に仕事終わりの勇斗が顔を出した。
仕事で来れないはずなのに、何故か最後の方に現れて
ファンへのメッセージとか
手を伸ばしちゃったりとか
泣いてんのみせちゃったりとか
あぁ、消えてぇ…
仁『おつかれ…来たんだ、ライブ』
勇「仕事早く終わったからね、間に合いそうだなって思って。入れてもらえて良かったわ笑それに、仁ちゃん寂しそうだったし、?笑」
仁『おい!』
勇「にしてもまあ、あんなこと考えてたんだな、仁人。」
仁『普段言えないから、このライブだったら、少なかれ俺のファンが多いだろうし、メンバーもいないから…っていってもお前が来たけど、』
勇「いいもの聞けてよかったよ笑てか、最後泣いてた?笑」
仁『ちょっと、?笑』
勇「笑笑笑やっぱり。俺、仁人に手伸ばしたんだけど、伸ばし返してきたってことは、気づいたってことでいい?」
仁『うん』
勇「なんか届きそうだった」
仁『笑笑まぁ、むりだけどね』
勇「あの距離はな笑」
話をしながら、自分の支度を整えた。
しかし俺の欲しい言葉がなかなかこず、少しずつ手のスピードが落ちていく
そして何となく漂わせるように話を流した
仁『どうだった?ライブみて』
勇「みんな幸せそうだったな」
仁『しかも、ちゃんと無事終わった。前みたいにミスもなかったし、』
勇「そんな物欲しそうな顔しなくても笑大丈夫、ちゃんと覚えてるよ約束。」
そう言ってデジャブのように、両手を掬いあげて優しく包んだ。
合わさる視線が少々くすぐったい
勇「仁人、、俺と」
「「 結婚しよう____.」」
俺は小さく頷いた。
この約束が結ばれる先が長くても、
たとえ結ばれなかったとしても
二人で結んだ事に意味があるから
この世に二人きりの約束だから
勇斗が照れ臭そうにポケットに手を入れた。
そして、ポケットから取り出した赤い糸を約束を結ぶ所へ確かに、繋げた。
勇「じゃじゃん!俺とお揃い〜!」
仁『笑笑ちょっと恥ずいかも…』
勇「なんでだよ笑実は仕事じゃなくて、これ買ってた」
仁『え、』
勇「"永遠の愛を誓います"…なんちゃって、笑」
仁『笑笑誓いますよ、』
二人しかいないこの部屋で
牧師もいないこの場所で
2人だけの永遠の愛が誓われた。
end____.
コメント
2件
新作ありがとうございます🙇♀️ 約束っていい曲ですよね🥺泣けてきます… お忙しいと思いますが、次回作も待ってます!全然、ゆっくりで大丈夫ですよ。