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銀土

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銀土

2 - 不器用な二人

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2026年02月15日

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今回話長いです。




























あの夜から、銀時は暖簾をくぐらなくなった。理由は単純だ。

酔いに任せて、口が滑りそうになったのだ。

「お前と飲むの、嫌いじゃねぇ」とか、
「……隣にいると、落ち着く」とか。

考えただけで鳥肌が立つ。糖分不足でもそんな台詞は吐かない。副長相手にそんな甘ったるいことを言うくらいなら、江戸城の天守閣から飛び降りた方がマシだ。

だから銀時は、別の店に行ったり、家で安酒をあおったり、いっそ飲まない日もあった。

――あの男に、会わないように。

一方その頃。

居酒屋のカウンターに座る黒い羽織の男は、いつもより杯の進みが早かった。

「土方さん、飲みすぎでさァ」

呆れた声を出すのは、隣に座る沖田総悟。

「うるせぇ。てめぇは黙ってろ」

「最近、旦那来やせんねィ」

ぴくり、と土方の眉が動く。

「……関係ねぇだろ。あんな天然パーマ」

吐き捨てるように言いながら、盃をあおる。

来ない理由を考えないわけではなかった。何かあったのか、病気か、借金取りにでも追われているのか。

だがそれを口にするのは、負けのような気がして。

「あいつの事なんか知ったこっちゃねぇ」

そう言わんばかりに、酒を流し込んだ。

その結果。

「副長、歩けやすか」

「……歩いてる」

ほとんど沖田に体を預けたまま、ふらつく足取りで夜道を進む。

そこへ。

「あー……やっぱ外飲みは寒いねぇ」

聞き覚えのあるだるい声。

街灯の下に立っていたのは、白い着流しの男――坂田銀時だった。

一瞬、三人の間に妙な沈黙が落ちる。

「……なんだよ」

銀時が眉をひそめる。

沖田はにやりと笑った。

「旦那ァ、丁度いいや。この酔っぱらい旦那に預けたいんでさァ」

「は? なんで俺が」

「副長、あんたの顔見たら機嫌直るかもしれねぇし」

「直らねぇだろ、、そんなんじゃ。なんなら悪化するわ…」

即答したのは土方だった。

土方は半目のまま、ぼそりと呟く。

「…あと、…誰が、機嫌悪いって……」

完全に酔っている。

沖田は懐から小さな袋を取り出し、銀時の胸元に押し付けた。

「依頼料でさァ。土方さんを一晩、よろしく」

「おい待てコラ、俺は便利屋じゃねぇ!」

「万事屋でしょ」

地面に、どさり、と土方を下ろす。

「おい総悟……てめ……」

「じゃ、おやすみなせェ」

ひらひらと手を振り、沖田はさっさと闇に消えた。

残されたのは、道端に座り込む土方と、顔をしかめた銀時。

「……最悪」

そう言いながらも、銀時は袋の中身を確認する。そこそこの額だ。

ちらり、と土方を見る。

頬が赤く、目はとろんとしている。いつもの刺々しさは影もない。

「……重そうだなオイ」

「……触んな」

弱々しい拒絶。

銀時は大きくため息をついた。

「ったく、副長様が道端で野垂れ死にとか笑えねーんだよ」

嫌そうな顔を作りながら、土方の腕を肩に回す。

ずしり、と重みがかかる。

「……銀時」

「名前で呼ぶな。気持ち悪ぃ」

「……帰る」

「帰るってどこにだよ。お前んとこ連れてったら俺が殺されるわ」

結局。

銀時は依頼料を懐にしまい、ふらつく男を引きずるようにして万事屋へと向かった。

夜風が冷たい。

肩越しに感じる体温はやけに熱い。

「……ったく」

嫌そうな顔をしながらも、銀時の足取りは、どこか慎重だった。

落とさないように。
離さないように。

自分でも理由がわからないまま。


万事屋の戸を開けた瞬間、神楽の目がぎらりと光った。

「なんでマヨまでいるアルか?」

「拾った」

「雑すぎる説明アル!」

銀時は面倒くさそうに土方の腕を外し、自分の布団へと放り投げた。

「副長様が道端で転がってたから、善良な市民が保護してやっただけだ。感謝して欲しいくれぇだわ」

「誰が頼んだ……」

「てめぇんとこの部下ですよー…っと」

半分寝言のような声を最後に、土方はそのまま意識を手放した。

結局、銀時は自分の布団を明け渡し、ソファに寝転がる。

「……なんで俺がこんな目に……」

依頼料の入った袋を握りしめたまま、ぶつぶつと文句を言いながら目を閉じる。

肩に残る体温が、妙に消えなくて。

それが気持ち悪くて、余計に寝つきが悪かった。


翌朝。

台所から、じゅう、と油の跳ねる音がする。

(神楽が起きるには早ぇぞ……)

寝ぼけ眼のまま起き上がると、台所に立っていたのは見慣れた黒い後ろ姿だった。

「……は?」

振り返ったのは、土方十四郎。

エプロンはしていないが、手際よく卵を返している。

「なんでてめぇがうちの冷蔵庫あさって勝手にご飯作ってんの?」

キレ気味に言うと、土方は鼻で笑った。

「そうなら良かったんだがな。てめぇん家の冷蔵庫にはなんにもなかったよ。おかげで俺が材料を買いに行く始末だ」

「……は?」

「砂糖と醤油と腐りかけの豆腐しかねぇってどういう生活してやがる」

「糖分があれば生きていけるんだよ人間は」

「てめぇはな」

銀時は頭をかきながら台所を睨む。

「……いやなんで朝ご飯作る必要あんの?!」

土方は皿に味噌汁をよそいながら答えた。

「昨日総悟に依頼料貰ってたろ。まあまあな金額で、俺が一泊するだけだとちと高いと思ってな」

そう言って、焼き魚、卵焼き、味噌汁、炊き立ての白米を机に並べる。

どう見ても“副長の朝飯”だ。

「じゃあな」

あっさりと踵を返す背中に、銀時は思わず声を投げた。

「おい、てめぇの分はねぇのかよ」

「屯所にある」

即答。

一瞬、銀時は黙る。

机の上の湯気。
まだ温かい味噌汁。
そして、玄関に向かう背中。

しばらく考えてから、ぼそりと。

「……こっちこい。俺の分分けてやっから」

台所に向かい、取り皿を取ろうとする。

「人の話聞いてんのか。屯所に俺の分あるっつってんだよ」

「良いから黙って食っとけ」

振り返らずに言い、銀時は自分の茶碗から白米をよそい、卵焼きを半分に割る。

皿を差し出す。

無言。

数秒の沈黙のあと、土方は小さく舌打ちして席に戻った。

二人並んで座る。

言葉はない。

箸の当たる音だけが、やけに大きい。

味噌汁をすする音。
魚の骨を皿に置く音。

視線は合わない。

けれど、不思議と居心地は悪くなかった。

昨夜までの酔いも、居酒屋の喧騒もない、静かな朝。

やがて食事を終え、土方は立ち上がる。

一瞬、言葉を探すように視線を泳がせてから、

「……ありがとな」

それだけ言って、玄関へ向かった。

戸が閉まる音。

銀時はしばらくその場に座ったまま、空になった取り皿を見つめる。

胸の奥が、じんわりと熱い。

酒のせいじゃない。

朝日がまぶしいからでもない。

「……めんどくせぇ」

ぽつりと呟く。

自覚しないふりをするには、少しだけ、近づきすぎていた。
































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