「ただい…」ま、を声に出さなかったのは、部屋の明かりがすべて消えてたから。
あれ…吉良も遅いのかな。
残業、それとも飲み会?
慌てて携帯を確認すると、吉良からのメッセージは一言「わかった」だけ。
…ということは、帰ってるのかな。
もしかしたら脅かそうとして隠れてる…?なんて呑気に思いながら、足音を忍ばせてリビングに入ってみたけど、すべて明かりが消されてるし吉良の気配もしない。
…お風呂にもトイレにもいない。
ということは寝てるのか…
だとしても、ずいぶん早い就寝だな。
いつもならソファに寝そべって、日付けが変わる頃まで動画見たりしてるのに。
もう寝てるなんて…具合が悪いんじゃないかと心配になった。
そっと寝室のドアを開けて様子を見ると…
こちらに背中を向けてベッドに横になった吉良の姿を確認できた。
きっと疲れて、早々に寝ちゃったんだ
…とりあえず姿があって安心して、起こさないようにそっとドアを閉めた。
お風呂に入りながら、今日1日を振り返る。
佐川さんからの電話を受けた時は血の気が引いた。
でも、添島先輩がいてくれたから、本当に助かった。
初めて任された取引先でミスをして…初めは悔しさでいっぱいだったけど、今は先輩のおかげで取引先への迷惑が、最小限ですんでよかったと思う。
今後はもっと気を引き締めて仕事に取り組もうと思えたのも、添島先輩のおかげだ…。
反省と感謝が終わる頃には、ちょうどよく疲労もお湯に溶けていった。
さてあがろうと思ってバスタオルを手に取った時…気がついた。
「パジャマと下着、寝室だ…」
さっき吉良の様子を見ただけで満足して、うっかりなにも持ってこなかった。
また寝室に入って着替えを持ってくるなんて…せっかく気持ちよく寝てるのを起こしちゃうかも…
他になにか着るものはなかったかと、あちこちの棚を開けてみた。
「あった―…っ」
吉良のT シャツ…それから、思い出した。
吉良の下着は遅くに帰宅することもあるからって、脱衣室のここにも少し置いてある。
…借りちゃおっかな…。
まさかTシャツ1枚で吉良の隣に潜り込む勇気はない…見つかったら「誘ってる」とか思われちゃう。
「そ、それで、はしたない…なんて思われたらショックで立ち直れない…!」
そんなこと思われるくらいなら、吉良のパンツはいちゃう!
黒で統一されたボクサーパンツを1枚取って、身に付けてみた。
ウエストも足が出るところもブカブカで…結構変な格好だけど、もうそんなこと言ってられない!
無理矢理納得して、私は寝室へと急いだ。
さっきと変わらず、吉良は背中を向けてる。
ベッドに入ったら起きちゃうかも…と思いながら、実はちょっと目覚めてこちらを向いてくれないかな…なんて思ってる。
でも吉良は全然起きなくて、向こうを向いたまま。
私は隣に仰向けになって、吉良がかけてるタオルケットの余りを、遠慮がちにお腹にかけて…目を閉じた。
いつの間にか、季節は夏になっている。暑いけど、ちゃんとクーラーがかかってるから…いつも抱きしめてくれる吉良…
いつの間にか、吉良のぬくもりがないと安眠できない自分になってる。
目を閉じたのに眠くならないから、私はそっと横向きになって、その大きな背中に両手をくっつけた。
「吉良ただいま…おやすみなさい」と小さくささやいて、やっと安心した…と思ったのに。
急に大きな背中が動いて吉良がこっちを向いたので、驚いて小さく叫んでしまった…!
「ずいぶん遅いな…」
至近距離で聞こえる声に怒りが混ざってるのを感じる…
え、なんで?そんなに遅かったかな?心配かけちゃったのかな…
「あの、今日はミスしちゃって、残業で…その」
「駅から歩いて帰ったの?」
「いえ…あの、添島先輩が…」
「添島…」
吉良は私の上に体を乗り上げて、顔の横に両手をついた。
仰向けにされて、上から見下ろす目が、確実に怒ってる…
「最近添島さんのことばっかりだな」
「そ、そんなこと、ない」
「あの人のことばっか頭にあるんだろ…?」
「ちが…そんなわけな…」
急に顔が近づいてきて、食べられてしまうみたいなキスが降ってきた。
はじまり…みたいなキスに焦る。
いつの間にか熱い舌に捕まって、逃がさないと言われてるみたいに追いかけてきた。
だけどそこには、怒りと誤解があるみたいで、私はキスの合間に必死に訴えようとした。
「いいから俺を感じてろ…」
吉良は全然話を聞いてくれない。
激しいキスと熱い手で、私を執拗に攻め立てた。
いつもよりずっと早く進む成り行きに、追いかけてくるような、切迫した吉良の思いを感じる。
「…どうしたの?…吉良?」
「好きって言って…」
「…好き…吉良が好き…」
こんなに余裕のない吉良は初めてで…
うわごとみたいに繰り返し名前を呼んでしまう。
私の心はいつも吉良でいっぱいで…そこに一点の曇りもないことを、少しでもわかってほしかったから。
やがて…私の上に倒れてきた吉良。
しっとり汗を浮かべた体に、私は強く抱きついた。
「…ごめん」
優しくしなかったことを言ってるんだと思う。
「いいよ。私こそごめん」
嫉妬なんだ。…今の吉良の激しさは嫉妬だって伝わってきた。
「俺、ホント…ぜんぜん余裕ない…」
「え…?」
「好きすぎて、モネのこと。隣に座ったり肩を叩かれてたり頭撫でられてたり…すっごい嫌だった」
「…え?」
コメント
3件
彼氏としたら嫌だよね。
添島さん距離感近いもんね。 ヤキモチ妬いちゃうよね。 ところで吉良ティン、モネちの格好ちゃんと見た? 吉良Tと吉良パンツだよw
ヤキモチさん!