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……その人混みの中から出てきたのは、見た事がある顔で。そして――。
沙耶香
「――ごめん、……お兄ちゃん」
愁
「――沙耶香!!!」
それは、自分の最愛なる妹だった。
久しぶりに会えたのが嬉しくて、笑みが零れる。
???
「なんだお前ら兄妹なのかよ」
と、その男が喋り出す。
そんなことどうだっていい。今は沙耶香にしか目がない。
愁
「沙耶香、元気だったか?
ちゃんとご飯食べてたか?」
愁
「沙耶香、その怪我はどうした?!
大丈夫なのか?」
愁
「沙耶香、母さんはどうした?元気してるのか?」
愁
「そうだ、沙耶香!
学校生活はどうなんだ?友達できたか?楽しいか?」
愁
「沙耶香、また母さん沙耶香お兄ちゃんの3人で何処か遊びに行きたいなあ。今度絶対行こうな!」
愁
「沙耶香そうだ!そういえばあのと、き―――」
今、思うと何故気付かなかったのだろう。
あんなに遠かったはずの存在な沙耶香が、こんなにも近くに居て。これは夢なんかじゃなくて現実だとさっきの吹っ飛ばされた時の衝撃で分かった。 夢でしか会えなかった沙耶香が、確かそこに居て。 見えていたはずなのに、何故――。
―自分の妹が泣いていることに気付けなかったのだろうか―
愁
「――沙耶香!!どうして泣いている?!
どこか痛いのか?そっちに行くから見せてみろ!」
と、妹の方の駆け付けようとする。
???
「おい、好き勝手すんじゃねぇよ
今からたっぷり俺と遊ぶだろ??」
愁
「うるせぇ邪魔すんな!!!」
???
「あ?もう1回言ってみろや。痛い目合うのお前だぞ?」
と、相手が俺を身動きが取れないよう抑える手を
振りほどこうとする。
愁
「辞めろって!!」
???
「ならお前が動くなよ。今どんな状況か分かってんのか??」
と、その男が力を強める。
愁
「うるせえええ!!!!!」
その時、足に激痛が走った。
愁
「――あああああああああああああああああ!!!!!!」
???
「うるせえのはどっちだよ!!黙れ、よ!」
と、またもう一度俺の腹をその男が殴った。
愁
「――いってえええええええ!!何すんだ、よ……!」
???
「は?もう1回折るぞ!!!!」
妹が泣いていたのをすっかり忘れていて夢中だった時、
ずっと黙っていた沙耶香が喋り出した。
沙耶香
「――黙って!!!!!!!!!!!」
その声は、泣きながら力を振り絞った大きな声だった。
その瞬間、俺達も、騒がしい周りも。一瞬で凍り付いた。
沙耶香
「こうなるのは分かってた……!!
でも、どうしても伝えたかったの!あの時の事も。」
愁
「―沙耶香?な、なにを―――」
そして、妹は言った。
沙耶香
「――お母さんは、死んだ」
愁
「―――え?」
その一言で自分の夢は1つ、また1つと桜のように散っていった。
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