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「よっ、暗夜! 今日はどうだった?」
「ダメだったよ」
あれから、一週間が経った。僕は毎日十二時に家を抜け出し、公園で彼女を待つ。そして日が昇ると来る日向と少し話してから、一緒に家に帰る。 そんな生活を送っている。
でもまだ、月夜さんは一度も来ていないし、蝉も一度も鳴いていない。
「もう一週間だよ。本当に来ないね」
日向はいつもは明るい雰囲気を纏っているが、月夜さんが来ないという内容について話す時には真剣になる。
あとそれと、妹にプリンを食べられた話の時も真剣だったか。
僕ららしくない険悪な空気の中、彼が口を開いた。
「やっぱり、アレかな。あんまり考えたくは無かったけどさ。失敗したのかな、手術……」
手術……? 手術とは一体何の事だ。月夜さんとどう関係がある。
未だかつて無いほど、嫌な予感があった。
「なあ、日向。手術って何だ? 僕は何も聞いてない」
この話を、僕が聞かされていない事がよほど意外だったのか、彼は口をポカンと開いて固まった。
動きを取り戻すと、彼は息を呑み、話し出した。
「秋風さんはさ。生まれつき身体が弱かったみたいでさ。それで…… 」
「待ってくれ!」
僕はこれ以上聞けば、壊れるのは自分だと感じ、僕は思わず立ち上がった。
「ちょっと、なんか飲みたい。あっ、日向は何が良い?」
「メロンソーダ」
彼はそれだけ言った。
僕はメロンソーダとコーラを買って、再びベンチに座った。
最近はコーヒーばかり飲んでいたせいか、炭酸の抜けるシュッという音に違和感がある。
お互いにジュースを飲む時は何も話さないし、話したくもない。
日向とは仲良くはできるが、居心地の良さは感じない。ただ楽しい。それだけだ。
その時、車の止まる音がした。
あの日と同じ、白い車が日の差す方にいた。
僕のかつて無いほどの嫌な予感は、この一瞬でまたもや更新された。
バタンッとドアを閉めた音がして、運転席から誰かが降りてきた。
ここからではよく見えないが、その人はこちらへ近づいてくる。
太陽の光のせいで、僕には何も見えなかった。でも、日向の位置からでは違ったのだろう。
「夏帆さん……」
「もしかして貴方たちは、ずっとこうして彼女を。秋風月夜を待っていたのですか」
夏帆さんと呼ばれるその人の声は、女性のものだった。
「夏帆さん! 秋風さんは? 手術はどうなったんですか!?」
日向はその人の言葉は無視して、訴えるようにそう叫んだ。
そると、その人は更に近づいてきて、僕からでも見えるようになった。
彼女は看護師さんだろうか? 白い服装で年は見た感じだと、僕の母と同じくらいの世代だ。
「貴方が孤城暗夜様でしょうか?」
「そうですけど……」
その人は日向の言葉を無視して、そう聞いてきた。日向はずっと、その人の事を見つめている。
「はじめまして。私、秋風月夜さんのお世話をしていました、看護師の丑三夏帆といいます」
「あ、どうも……」
突然の事過ぎて、何を言えば良いかわからず、僕はとりあえず相づちを入れていく。
「雲隠様。孤城様。一度しか言いませんし、それしか言いたくは無いので、よく聞いて下さい」
彼女はそう言ってから、一度僕らの目を見た。
そして、ゆっくりと口を開いて、言った。
「秋風月夜は、亡くなりました」