やっと再会出来た元水棲怪物――現ミルシェは何やら不機嫌そうにしているようだ。
「おいっ、フィーサ! 起きろって!!」
「相変わらずアックさまはお優しいことですのね。あたしが代わりに起こしてあげますわ」
「そうか? それなら頼む」
久しぶりのミルシェをちらりと見ると、成り代わりだった王女の姿がすっかり板についたように見える。
水棲怪物だった時は触手とナメクジに似た体をしていた。それが今や人間にしか見えなくなっている。シーフェル王女の体に馴染んだということかもしれない。
「……あまり見つめられても困りますわ」
「ご、ごめん」
「コホン……! 宝剣フィーサ! あなた、ちょっと起きて下さる?」
すでに宝剣じゃなくなっているけど、教えてやるべきか?
「うう~ん……イスティさま、わたしもう食べられないよ~」
「――いったぁぁぁぁぁぁい!! 何するのよっ!?」
寝ぼけたフィーサがよりにもよって人化の状態でミルシェをかじってしまった。だが、とっさの反撃でミルシェの平手打ちがクリーンヒットする。しかし、フィーサの防御力と耐久性に分があったようでミルシェは顔をしかめた。
そのおかげで、ようやくフィーサも目を覚ました。
「ふえぇ……? あれ~? イスティさまじゃない……」
「何て硬さなの……全く」
「フィーサ、彼女はミルシェだ。フィーサが気にしていた水棲王女だぞ」
「えっ、本当? そっか~、再会出来たんだ~! お久しぶり!」
「な、何かしら……以前よりも腹が立って仕方がないのだけれど」
人化の時と剣の時では口調が異なる。それだけに、久しぶりのミルシェにとっては違和感しか覚えないだろうな。
「すみません! お話し中のところ、失礼します!」
……ん?
誰か来たか?
ミルシェに再会出来たのもそうだが、ここがどこなのかそれを知っておかねば。
「いいわ、入ってくださる?」
どうやら知っている……いや、ここに慣れたような返事の仕方だ。部屋に入って来た男は、青と黒を混ぜ合わせた簡素なチュニックを着ているが、冒険者でもなく普通の村人のような感じに見える。その態度を見る限り、年端も行かない若者、もちろんおれよりは年上なのだろう。
「あっ、お目覚めになりましたか! 初めまして。東アファーデ湖村の村長ラーシュ・クルトと言います」
「村長!? え、あんたが?」
「ははっ、見えませんか?」
「いや……」
単なる村の若者だとばかり思っていただけに驚いた。
「アックさま、ご紹介を」
すかさずミルシェがフォローを入れてくれた。
「おれはアック・イスティ。冒険者だ! そして彼女はおれの剣であるフィーサ。よろしく頼む!」
「フィーサ? その剣の名前ですか?」
詳しく教えるつもりは無いが隠すことでも無いはずだ。ミルシェがどこまで話しているかによるが。
「ラーシュさま。彼はラクルの冒険者ですわ。それゆえ、細かいことはお流しに」
「そうか、ラクルか! ――ということは、Sランクの?」
「ええ、それ以上のお強さを秘めておりますわ。ですから、お話をされても心配無いかと」
「……? ラクルが何か?」
「いえ。何が、という訳ではありません。あの町に拠点を持つSランク冒険者がいると聞いたことがありましてね。そういうお方に加入してもらえたらと思っていただけのことです」
話が見えないが、ラクルに拠点というとおれたちの倉庫のことだろうか。もっとも、自分のランクがSかどうかなんて今となってはどうでもいいことだが。
おそらく倉庫を永久的に買ったことで、名を広めてしまった可能性がある。
「加入とは?」
「もちろんギルドのことです。ここ東アファーデには釣りギルドがありまして。湖村ではありますが、池もあり、東岸まで出れば海での釣りも可能です」
「条件とかは?」
「いえいえ、竿は用意がありますし魚を釣って頂ければ、ランクも上がりますよ! もちろん、どこのギルドも難しい条件は無いと思いますが」
東アファーデ湖村か。そうなると、南アファーデ湖村の存在が気になる所だ。ルティたちの行方も心配だしどうしたものか。
「一つ聞いても?」
「どうぞ」
「おれと彼女《フィーサ》は、南アファーデ湖村にいたんですよ。そこから流れ着いたわけですが、こことの関係は?」
「――あぁ、やはり。しかしあり得ない……あの村は湖底に沈み、ほとんどの村人はここに移り住んでいます。流れ着くなんて過去にでも行かない限りは……。と、とにかく、ギルドに入ることをお勧めします」
つくづく魔石ガチャで出た属性魔法テレポートも妙な場所に飛ばしてくれたものだ。過去というより時が止まっていた村ではあったが、ヌシであるシリュールによってこっちへ戻って来られたのは幸運なことだった。
ラーシュ村長は青ざめた顔をしているが、亡霊の湖村の件は釣りが関係しているとみて間違いない。今度こそ釣りスキルを上げられるチャンスが得られそうだし、断る理由は無いな。
「では、よろしくお願いします」
「ありがとうございます! ギルドメンバーにも後で紹介しますので、ミルシェさんとおくつろぎください」
「どうも」
まともなギルドに入って来たことが無かったがようやく落ち着いたギルドに入れそうだ。
「アックさま。ルティと虎の娘はどこへおりますの?」
「え、え~と……だな」
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