まさか真彩が一人で出て行くとは思いもしなかったから仕方ないと言えばそれまでだけど、何故気が付かなかったのかという後悔ばかり。
「朔、自分を責める必要はねぇ。この件は俺にも責任がある」
「そんな、理仁さんには何も……」
「あるんだよ、寧ろ……全ては俺が招いた結果なんだよ、これは」
理仁のその言葉の真意は分からなかった朔太郎だけど、これ以上自分が発言する状況じゃない事を察して黙り込む。
(俺のせいだ。俺がもっと、自分の想いを真彩に伝えるべきだったんだ、遠回しな言葉じゃなくて、ハッキリ伝えるべきだったんだ……俺にとって、どれ程大切な存在なのかを)
理仁も真彩も、お互いの間に家族以上の大切な想いが芽生えている事を、本当は知っていたのかもしれない。
けれど、拒絶されてしまった時の事を考えると恐くて確かめられなかった。
その結果が、今回の事件を招いてしまった。
互いを大切に想い、守りたい気持ちは同じなのに、すれ違って、から回っていく。
(真彩、無事でいてくれ……)
神に祈るなんて柄じゃないと思いつつも、今は願う事しか出来ない理仁は藁にもすがる思いで神に祈りながら車に揺られていた。
その頃、真彩はというと理仁の思惑通り惇也の元へやって来ていた。やって来た、というより連れて来られたという方が正しいだろう。
「何だよ、お前から会いに来るなんて。やっぱり俺とやり直したくなったのか?」
「馬鹿な事言わないで。私の後を尾けるように頼んだのは貴方でしょ?」
「さあな? そんな事した覚えはないぜ?」
「それならどうして、私が今此処に来る事が出来たのよ? 私を此処へ連れて来た男の人は、惇也の仲間でしょ?」
真彩は病院を出た矢先、何者かに口を塞がれ無理矢理車に押し込められ、辿り着いた先が惇也の元だったのだ。
「知らねぇって」
「本当に最低ね。とにかく、私に不満があるなら直接言ってよ! 納得したフリして安心させて命を狙うなんて酷過ぎる!」
「うるせぇな。何とでも言えよ。俺はな、お前が許せねぇんだよ。鬼龍の組長なんかと一緒にいるお前が!」
「何で? 私が誰と居ようが関係ないじゃない? 捨てたのはそっちでしょ?」
「相手の問題なんだよ! アイツはな、当時俺が惚れてた女を横取りした上に、ゴミのように捨てたんだぞ!?」
「え……?」
「お前、何も知らねぇのな。お前と別れるキッカケになった女だよ。アイツは鬼龍の奴に言い寄られて惚れ込んだ。それなのに、騙されて捨てられた。それが許せなかった。不幸のどん底に落ちた俺がようやく光の見えた明るい暮らしが出来ると思ってたのに、またしても俺の人生はどん底だ。許せなかった。だから俺は鬼龍と敵対してる組織を探して、下っ端から成り上がったんだよ。鬼龍に復讐する為にな」
惇也の言葉に真彩は言葉を失った。
理仁に限って、そんな事をするだなんて信じられなかったから。
「嘘よ、理仁さんがそんな酷い事……」
「お前、つくづくめでたい奴だな」
「惇也の言う事なんて信用出来ない」
一瞬惇也の言葉を信じそうになった真彩はすぐに思い直す。理仁がそんな酷い事をするはずがない、仮に惇也と交際関係にあった女性と関わる事になったとしても、それは何か理由があって近付き、相手が勘違いして惚れ込んでいっただけ。そして、任務を遂行した理仁が女性から離れたら捨てられたと解釈しただけ、そうであると信じていた。
「別に信じて貰えなくてもいいさ。俺は俺の目的が果たせればそれでいい」
けれど、惇也は真彩が自分の話を信じようが信じまいが関係無いと言う。
それが何を意味するのか、真彩はすぐに直感した。
「……理仁さんを苦しめる為に、私をどうにかしようとしてるのね」
「ああそうだ。お前ら、付き合ってないとか言ってるけど、互いに好き合ってんのが見え見えなんだよ。そういうのが一番気に食わねぇ。俺が惚れた女をまたしても横取りしたあの男が憎い」
「そんなの惇也が勝手に思ってるだけでしょ? そもそも私と理仁さんの間には何も無い。だから復讐なんて止めてよ。理仁さんはそんな酷い事はしない! その女の人と関わりがあったとしても、何か理由があったのよ!」
「理由なんて、今更もうどうでもいい。結果が全てなんだよ、世の中は。復讐を止めて欲しいって言うなら、俺にも考えがある。俺の元へ来い、真彩」
「何言って……」
「アイツの元から離れたのは、自分から俺の元へ来ようとしてたんだろ? アイツの迷惑になりたくないからって。お前はそういう奴だよな。自分の事よりも他人を優先する優しい奴だ。だから、そんな行き場を失くしたお前を俺は愛人としてこれから先ずっと面倒見てやる。嬉しいだろ? お前が俺の傍に居ると知れば、アイツは怒り狂うだろうな。それも復讐になるから丁度いい」
「愛人ですって? 冗談じゃないわ。誰がそんな……」
「あれも嫌だ、けど私の願いは聞けだ? 都合良すぎるだろ?」
「そ、それは……」
「はあ……もういいわ。何か面倒臭くなってきた。それに、お前みたいな疫病神を置いたところで運気が上がる事は無さそうだ。おい、コイツを倉庫に連れて行け」
「はい」
「ちょ、ちょっと、惇也!?」
「今はまだ、殺さねぇよ。恐らく鬼龍の野郎が来るだろうからな。アイツの目の前で俺がお前を殺す」
「……本気、なの?」
「ああ。悪いが俺もお前に対して何の感情もねぇんだ。お互い様だろ?」
惇也の言葉に何も言い返す事が出来ない真彩。下っ端の男たちに腕を掴まれた真彩は抵抗する事もなく倉庫へと連れて行かれてしまった。
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